山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼281号 「和歌山・高野山弁天岳の天狗伝説」

【概略】
高野山の岳山には弁財天社が祭られており昔、弘法大師が奈良県の
天川弁財天を勧請したという。その一本杉には妙音坊という天狗が
いて、弁財天の祠を守っているという(「紀伊続風土記」)。そのこ
とを地元の人に聞いたら「何ですか。ソレ!」と、けげんな顔をされま
した。
・和歌山県高野町

▼281号 「和歌山・高野山弁天岳の天狗伝説」

【本文】
平安時代の初期のこと。真言宗開祖の弘法大師空海が山岳霊場開
発の場を探して全国を行脚していました。その時、「八百八谷」が
ないために開山をあきらめたという伝説の山が、東北吾妻連峰一
切経(いっさいきょう)山や奥秩父の瑞牆(みずがき)山にあり
ます。

そんなある日、空海はいまの奈良県五條市でひとりの猟師に出会
います。猟師は2匹の猟犬に命じ、空海を霊場に適した高野の台
地まで案内させたと『今昔物語』は伝えます。

『今昔物語』巻第十一(弘法大師始建高野山語第二十五)に「我
ガ唐(たう)ニシテ擲(な)ゲシ所ノ三鈷(さむご)落タラム所
ヲ尋(たづね)ム」ト思(おもひ)テ、弘仁七年ト云フ年ノ六月
ニ、王城(わうじやう)ヲ出(いで)テ尋ヌルニ、大和ノ国宇智
(うち)ノ郡(こほり)ニ至リテ一人ノ猟(かり)ノ人ニ会(あ
ひ)ヌ。

其形(そのかたち)、面(おもて)赤クシテ長(たけ)八尺計(ば
かり)也。青キ色ノ小袖ヲ着(ちゃく)セリ、骨高ク筋太シ。弓
箭(きゅうせん)ヲ以テ身帯(みにたい)セリ。大小ノ黒キ犬ヲ
具(ぐ)セリ」とあるのがそれ。

南海電鉄高野線の極楽橋駅からつづく不動坂を登りつめたところ
に女人堂があります。その向かい側のほそい階段を登って、30分
ほど歩くと弁天岳につきます。ここには天狗がすんでいるという
伝説があります。

山頂に岳の弁財天社が祭られており、『紀伊続風土記』に、昔、弘
法大師が奈良県吉野郡天川村にある「天川弁財天」に千日参籠を
した時に用いた宝珠を埋めて弁財天を勧請したと伝承されていま
す。ここにある古木の一本杉にすむ妙音坊(みょういんぼう)天
狗はいつもこの岳山と祠を守護しているというのです(弁天岳祠
の立て札から)。

また『紀州名所図絵』にも「弁天山に、嶽(たけの)弁財天があ
り、境内に金剛童子社、荒神社が祭られている。その嶽弁財天に「昔、
大師来世の福田のために、如意珠を此峰に埋(うず)み、宝瓶(ほ
うびょう)(真言宗で灌頂かんじようの水を入れる器)を安置し、
天女を勧請して財福を乞ひ給ふ。其ののち天狗妙音坊この嶽を守護
すといふ」と載っています。

妙音坊とは、女神の弁財天を守る天狗だけあって、さすがにやさ
しい名前ではありませんか。その天狗のことを地元の人に聞いた
ら「何ですか。ソレ!」と、けげんな顔をされました。

▼【データ】
【所在地】
・和歌山県伊都郡高野町。南海電鉄極楽橋駅からケーブル高野山駅
から歩いて1時間で弁天岳。三等三角点(984.5m)と弁天の祠が
ある。地形図に山名と三角点の標高と鳥居記号の記載あり。付近に
何も記載なし。

【ご利益】
・【弁財天】:芸能上達

【位置】
・【三等三角点】緯度経度:北緯34度13分13.65秒、東経135度34
分20.99秒(電子国土ポータルWebシステムから検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「高野山(和歌山)」。5万分の1地形図「和
歌山−高野山」

【山行】紀伊の山大台ヶ原縦走
・某年11月4日(金・晴れ)探訪

★【参考】
・『紀伊国名所図会』文化8年(1811)出版(高市志友ほか撰)臨
川書店(1996年(平成8)
・『今昔物語』巻第十一(弘法大師始建高野山語第二十五):日本
古典文学全集24「今昔物語」(1)校注・訳:馬淵和夫ほか(小学
館刊)1993年(平成5)
・『図聚天狗列伝・西日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和52)
・【嶽山弁財天祠看板】
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)

【とよだ 時】 山と田園風物漫画
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 (主に画文著作で活動)
【ゆ-もぁ-と】事務所
山のはがき画の会

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