とよだ 時 「山の伝説伝承」民俗画
山旅イラスト通信【ひとり画展】

▼260号 「山梨県・茅ヶ岳の天狗伝説」

【概略】
茅ヶ岳にすむ孫右衛門は天狗とも仙人ともいう。山から家に帰って
みるとすでに3代もの時代が過ぎていて、誰も知っているものはい
なくなっていた。悲しんだ孫右衛門は山にこもり、ついに神通力を
得たという。今も祠があるといが確認できない。
・山梨県北杜市須玉町と同甲斐市敷島町との境

▼【本文】

山梨県の茅ヶ岳には怪人孫右衛門の伝説があります。怪人は天狗と
も仙人ともいいます。前身は上野国(群馬県)の人だという。若い
とき両親を亡くし、それ以来飲む打つ買うの放蕩三昧。

とうとう身を持ちくずし、親戚や村の者にも見放され、武田信玄の
父信虎の全盛時代(甲府に城を進出させたのが永正16年・1519年)
のころ、茅ヶ岳西麓の山梨県北杜市須玉町(旧北巨摩郡須玉町)の
江草地区に移住してきたといいます。

ある時山中で仙人が碁を打つのをつい夢中で見ているうち、ふと気
がついて家に帰りましたが、すでに人間にして三代もの時が過ぎて
いて誰も知る人がいなかったという(地元の地誌『須玉町誌』)。

それからというもの孫右衛門は人とうまくつき合えず、ついに世を
捨てて山ごもり天狗になったという。室町時代の永正年間(1504〜
20)のことだとそうです。それからは孫右衛門は、山中をすみかと
し、食料のシカや猿、兎やキツネを追って山や谷をかけまわってい
たといいます。

江戸時代初期のまでは山仕事をしている人の前に時々あらわれたい
う。江戸時代初期の延宝のころ(1673〜81)までは山仕事をしてい
る木こりなどの前に時々あらわれ、木の伐採の手伝いをしたり、分
けてもらった弁当を喜んで食べていたといいます。

またたばこをやると手のひらに乗せて食べてしまうともいわれま
す。その後だんだん人と会うのがうとましくなり、時々山の中で見
かけることはあっても近づいては来なかったという。

すっかり人々のうわさから遠ざかった正徳年間(1711〜1716年)、
江草地区の村人が山仕事中、異様な怪物が大岩の上に立ってにらん
でいます。逆立てた頭髪は真っ白で頬ひげは胸までとどき、大きな
目がらんらんと光り、草の葉、木の皮をつづって着物にしていたと
いう。肝をつぶした村人は、命からがらわが家へ逃げ帰えりました。

するとたちまち、大風が吹きはじめ黒雲空を覆い、篠つく雨ととど
ろく雷鳴に村人は生きた心地がしなかったという。うっかり孫右衛
門の昼寝のジャマをして怒らせてしまったらしいのです。

日本の仙人37人を解説した『本朝神仙記伝』(平安時代後期の漢学
者大江匡房(おおえのまさふさ)撰録)には、「是全く孫右衛門が、
熟眠の場なるを知らず、草を刈て驚かせし故に、斯る変を示したる
ものならんと、人々語り伝えしとなん。今も時として姿を顕はすこ
とあり。村人恐れて、孫右衛門天狗といふとぞ」とあります。

茅ヶ岳西南の尾根(いまの新左右衛門尾根)には孫右衛門天狗をま
つる祠があると聞きますがまだ確認できていません。なお、江戸時
代、松平定能(まさ)編集した地誌『甲斐国志』では孫左右衛門に
なっていますが『本朝神仙記伝』などでは孫右衛門の名で登場して
います。

▼茅ヶ岳【データ】
【所在地】
・山梨県北杜市須玉町(旧北巨摩郡須玉町)と同県甲斐市旧敷島町
各地区名(旧中巨摩郡敷島町)との境。中央本線韮崎駅の北11キロ。
JR中央本線韮崎駅からバス・穂坂柳平から歩いて3時間30分で茅
ヶ岳。二等三角点(1703.6m)がある。地形図に山名と三角点の標
高の記載あり。

【名山】
・深田久弥選定「日本百名山」(含まれず):日本二百名山、日本三
百名山にも含まれる。
・深田クラブ選定「日本二百名山」(第148 番):日本百名山以外に
100山を加える・日本三百名山にも含まれる。
・山梨県選定「山梨百名山」(第19 番)

【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索
・三角点:北緯35度47分42.21秒、東経138度30分49.5秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「茅ヶ岳(甲府)」

【山行】
・某年6月23日(木曜日・くもり)茅ヶ岳、金峰山、大弛峠、甲武
信ヶ岳、十文字峠、三峰縦走時探訪(単独)

【参考】
・『甲斐国志』(松平定能(まさ)編集)1814(文化11年):(「大日
本地誌大系」(雄山閣)1973年(昭和48)
・『図聚天狗列伝・東日本編』知切光歳(三樹書房)1977年(昭和5
2)
・『仙人の研究』知切光歳(大陸書房)1989年(平成元)
・『日本歴史地名大系19・山梨県の地名』(平凡社)1995年(平成7)
・『本朝神仙伝』大江匡房(「日本古典全書・古本説話集」川口久雄
校注(朝日新聞社)1971年(昭和46)
・「山の人生」柳田国男:(『柳田国男全集4』(筑摩文庫)1989年(平
成元)所収)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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