とよだ 時 「山の伝承伝説」民俗画
山旅イラスト通信【ひとり画展】

▼249号 「奥秩父・十文字峠のアズマシャクナゲ」

【概略】
ここ十文字峠では6月上旬にアズマシャクナゲが淡い紅色の花を咲
かせます。タコの足のような木の根っこに気をつけながら急な坂道
を降りてきたら、シャクナゲの花のそばで山小屋の主人が、小屋の
庭の植木の手入れをしていた。
・長野県川上村と埼玉県秩父市との境

【本文】

秩父三峠のひとつに数えられる十文字峠道。埼玉県秩父市栃本から
長野県川上村梓山を結び、江戸時代には江戸と信州を結ぶ最短距離
でした。この道は奥秩父を代表する原生林で、とくに峠付近は秩父
三大原生美林に数えられています。

奥秩父をこよなく愛した英文学者で登山家の田部重治もその著書
「秩父の山々」の中で、「この峠はそれ自身の美を持っている。蜿
蜒として連なる峠道は、やがて幽邃(ゆうすい)なる樹木に蔽われ、
峠の真中頃は針葉樹林ふかく、林間には苔がぶくぶくしてあたりは
掃き清められたように綺麗である」と書いています。

井出孫六編『日本百峠』には第24番(埼玉県)に、「定本信州百峠』
には第7番に選ばれてもいます。このあたりは、6月上旬ころにア
ズマシャクナゲが淡い紅色の花を咲かせます。

十文字峠(標高1960m)はその名のように栃本から梓山間の峠道
と、甲武信岳(標高2475m)と三国山(標高1834m)を結ぶ縦走路
とが十文字に交差している峠。昔は交易の道として、信州(長野県)
側からは米や麦、みそ、信州馬が運ばれ、武州(埼玉県)側からは
煙草、塩、桶、輪竹などを運ばれたという。

有名な善光寺(長野市)へ参拝道でもあり、逆に三峰神社(埼玉県
秩父市)への三峰講の参詣道でもありました。また中山道裏道とし
ても利用されたという。そんな道ですから栃本には1614年(慶長
19)に関所が設けられました。

江戸時代1702年(元禄15)におきた、あの赤穂浪士討ち入りの第
一報も、信州方面へはこの峠を通る人によってもたらされたともい
います。「川上村誌」によれば、1864年(元治1)の「通行人改名
帳」には同年8月中に309人の旅人が通っているとあるそうです。
いまある1里(50町を1里としている)ごとに道程を記した石の
観音像は、同じ1864年(元治1)に建てられたものだという。

ある年の6月も下旬、金桜神社(山梨県甲府市)の宮司見習いに道
を聞き、奥秩父の金峰山(標高点2599m)に向かいましたが見事に
迷い途中で1泊。甲府駅にもどり小淵沢駅経由、信濃川上駅から遠
回りして奥秩父に入りました。そして金峰山から信濃川源流に立ち
寄り、甲武信ヶ岳に縦走。荒川源流を訪れたあと十文字峠に向かい
ます。

いくつもの峰を越え、アップダウンとくさり場を通過。やっと峠近
くなったらしく、木の根がタコの足のように登山道に剥き出ていま
す。この急な下り坂を気をつけながら降り、峠に降り立ちます。峠
には十文字小屋が建っています。この小屋はもとは埼玉県側の四里
観音のそばにあったそうです。それを1967年(昭和42)、埼玉県
国民体育大会の時にここに移築したものと聞きます。

水場に降りて水を補給してもどりました。見るとシャクナゲの花の
そばで山小屋の主人が、黙々と小屋の庭の植木の手入れをしていま
した。人の気配もない静かな空間に剪定ばさみの音だけが聞こえま
す。通りすがりにちょっと声をかけましたが、植木剪定に気をとら
れているようで返事がありません。仕事のジャマをしないようそっ
と立ち去り、栃本方面への道を急いだのでありました。

▼十文字峠【データ】
【所在地】
・長野県川上村梓山と埼玉県秩父市大滝(旧秩父郡大滝村)栃本と
の境。JR小海線信濃川上駅からバス梓山、歩いて3時間45分で十
文字峠。近くに十文字小屋がある。地形図に地名と小屋名のみ記載。
標高なし。

【位置】
・十文字峠:北緯35度56分34.56秒、東経138度44分5.75秒

【地図】
・2万5千分の1地形図:「居倉(甲府)」

【山行】
・某年6月27日(月曜日・晴れ)奥秩父縦走時探訪

【参考】
・「秩父の山々」田部重吉:(「日本山岳風土記・3」(宝文館)1960
年(昭和35)
・「角川日本地名大辞典11・埼玉県」小野文雄ほか編(角川書店)1
980年(昭和55)
・「角川日本地名大辞典20・長野県」市川健夫ほか編(角川書店)1
990年(平成2)
・「信州山岳百科・3」(信濃毎日新聞社)1983年(昭和58)
・「信州百峠」井出孫六ほか監修(郷土出版社)1995年(平成7)
・「日本歴史地名大系11・埼玉県の地名」(平凡社)1993年(平成5)

▼【データ】
【所在地】
・長野県川上村梓山と埼玉県秩父市大滝(旧秩父郡大滝村)栃本と
の境。JR小海線信濃川上駅からバス梓山、歩いて3時間45分で十
文字峠。近くに十文字小屋がある。地形図に地名と小屋名のみ記載。
標高なし。付近に何も記載なし。

【名峠】
・井出孫六選定「日本百峠」(第24番・埼玉県)
・郷土出版社版「定本信州百峠」(第7番)

【位置】(標高点、三角点)(電子国土ポータル)
・【十文字峠】緯度経度:北緯35度56分34.56秒、東経138度44
分5.75秒(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「居倉(甲府)」

【山行】奥秩父縦走
・第5日目:1994年(平成6)6月27日(月・晴れ)十文字峠探訪:
1994年(平成6)6月23日(木)〜27日(月)「新宿駅・韮崎駅・タクシ
ー東大宇宙線研究所・茅ヶ岳・饅頭峠・金桜神社・甲府駅・小淵沢
駅・信濃川上駅・川端下・廻り目平・金峰山・朝日岳・大弛峠・国
師ヶ岳・天狗岩・千曲川源流の碑・甲武信岳・荒川源流・十文字峠
・四里観音・一里観音・栃本関所跡・秩父湖・三峰駅・お花畑駅・
西武秩父駅・池袋駅」:単独山行

【参考】
・「秩父の山々」田部重吉:(「日本山岳風土記・3」(宝文館)1960
年(昭和35)所収)
・「角川日本地名大辞典11・埼玉県」小野文雄ほか編(角川書店)1
980年(昭和55)
・「角川日本地名大辞典20・長野県」市川健夫ほか編(角川書店)1
990年(平成2)
・「信州百峠」井出孫六ほか監修(郷土出版社)1995年(平成7)
・「日本歴史地名大系11・埼玉県の地名」(平凡社)1993年(平成5)
・「日本歴史地名大系20・長野県の地名」(平凡社)1979年(昭和54)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよた 時】

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