山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼228号 「上州武尊・沖武尊の祠」

【概略】
武尊山はもともとは宝高、保鷹、穂高などと書き、ホタカ大明神(穂
高見命)をまつる山。かつては薬師堂だったり、保宝高明神、実高
明神社だったものを改名した。いつしか大和武尊の色が濃くなり、
地元の神であるホタカ大明神の祠は山頂で風化している。
・群馬県水上町と川場村との境

▼228号 「上州武尊・沖武尊の祠」

▼山旅【画っ展】228号「上州武尊・沖武尊の祠」
【本文】
 群馬県北部にそびえる上州武尊山(じょうしゅうほた
かやま)という山があります。ここはもと穂高山、保鷹
山、宝高山とも書かれ、山そのものを神とする穂高見命
(ホタカ大明神)の山だったそうです。


 ホタカミノミコトとくれば北アルプスの穂高連峰を思
い出します。聞きかじりによれば、穂高連峰の最高峰・
奧穂高岳(3190m)山頂に祭られている神さまと同じな
のだそうです。


 そもそも武尊山も修験者の入峰(にゅうぶ)修行の場だっ
たそうです。いつごろからかは不明ですが、平安時代の天禄
2年(971)に国峰道場がここに設けられ、修験道が盛んに
行われたとの記録があるという(『白沢村誌』)から古い。


 いまこの山は日本武尊(やまとたけるのみこと)にち
なむ山とされています。(またヤマトタケルが出てきた
と思う方も多いでしょうね。すみませんネ。昔の人は神
(日本の)がお好きだったようです)。各地の山々には
よく日本武尊伝説がつきまとっています。


 この山ももとはホタカ大明神の山でしたが、江戸時代
くらいから日本武尊の山になってしまいました。なぜか
というとこのころから、この修験者が、専ら不動明王をま
つるようになったそうです。不動明王は火炎を背負っている
憤怒の像で知られています。まるで炎の中にいるようで
す。


 火炎の中にいる姿といえば、日本武尊(やまとたける
のみこと)が、静岡県焼津(やいづ)で野火に囲まれた
説話が有名です。『日本書紀』の「景行天皇四十年の条」
や『古事記』(中つ巻)の静岡県焼津で野火に囲まれた
という神話です。


 そんなことから、不動明王から日本武尊の東征伝説に
つながって、山名を「武尊」と書き、日本武尊を祭神とするよ
うになったということです。また江戸前期の寛文(1661〜73)
初年のころ、沼田藩(いまの群馬県沼田市)の藩主真田
氏の侍医、鈴木法橋が『古事記』・『日本書紀』を読ん
で感動、ホタカに武尊の字を当てたのが最初という説も
あります(『日本歴史地名大系10・群馬』)。


 いま武尊山ろくのあちこちにある「武尊神社」も、も
とはそれぞれ薬師堂だったり、保宝高明神、実高明神社
などの名で鎮座していたものといいます。現在、「武尊
神社」は利根郡内に、16社もあるとかで、それらが明治
時代初期にそろって名を変えたというから不思議です。


 明治の神仏分離令の発動で、何か目に見えない圧力が
加わったのでしょうか。こうして山に日本武尊の色彩が
濃くなるにつけ、地元の神であるホタカ大明神の存在感
は薄れてしまい、いまでは大明神の祠は沖武尊の山頂で
風化しています。


▼【データ】
【山名】
・【異名、由来】:ほたかさん。ほたかやまともいう。山名はホタカ
神信仰や日本武尊の東征伝説に由来。またホは突き出たもの、タカ
は高いで高く突きだした山。ホタカ神信仰の説もある。かつてはホ
タカは宝高・保鷹・穂高などと書いたが江戸時代になってから武尊
となった。

【所在地】
・群馬県利根郡みなかみ町(旧利根郡水上町)町と群馬県利根郡川
場村との境。JR上越線水上駅からバス、久保から歩いて6時間で
沖武尊。一等三角点(2158.0m)がある。地形図に三角点の標高の
み(沖武尊の山名なし)の記載あり。三角点より東南東の標高点21
44m(中ノ岳)の中間に武尊山の文字がある。

【名山】
・深田久弥選定「日本百名山」(第39番):日本二百名山、日本三百
名山にも含まれる。
・岩崎元郎選定「新日本百名山」(含まれず)
・群馬県選定「ぐんま百名山」(第87番)

【位置】
・三角点北緯36度48分18.8秒、東経139度7分57.26秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「鎌田(日光)」or「藤原湖(日光)」(2図
葉名と重なる)

【山行】上州武尊山山行
・某年5月23日(日・快晴)探訪

▼【参考文献】
・『角川日本地名大辞典10・群馬県』井上定幸ほか編(角川
書店)1988年(昭和63)
・『古事記』(中つ巻):新潮日本古典集成・27『古事記』
校注・西宮一民(新潮社版)2005年(平成17)
・『古代山岳信仰遺跡の研究』大和久震平著(名著出版)
1990年(平成2)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年
(平成17)
・『日本山岳ルーツ大辞典』村石利夫(竹書房)1997年(平
成9)
・『日本三百名山』毎日新聞社編(毎日新聞社)1997年(平
成9)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成
16)
・『日本書紀・巻第七』:岩波文庫『日本書紀・2』坂
本太郎ほか校注(岩波書店)1996年(平成8)
・『日本歴史地名大系10・群馬』(平凡社)1987年(昭
和62)
・『名山の文化史』高橋千劔破(河出書房新社)2007年
(平成19)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよた 時】

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