山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼211号 「中ア・木曽駒ヶ岳伊那側のホコラ」

【概略】
木曽駒ヶ岳の山頂には駒ヶ岳神社が2つありますが、登山者の目に
つくには木曽側の祠。伊那側の祠は形が地味。伊那側からの開山は
1804(文化元)年、御嶽講の寂本行者が初めて。祠は昭和32
年改築の際、国常立尊、大己貴大神、少彦名大神、春日皇大神、月
読大神が祭神でした。
・長野県宮田村と長野県木曽町、長野県上松町との境。

▼【本文】

中央アルプス木曽駒ヶ岳(2956m)は、千畳敷までロープウエイで
簡単に登れ、大勢の観光客や登山者でにぎわっています。この山も
かつては信仰の山だったそうです。ロープウエーで千畳敷に降りる
と、お花畑のカールが広がります。さらに2時間あまり登った木曽
駒ヶ岳の山頂にはふたつの駒ヶ岳神社が建っています。

駒ヶ岳の名は、晩春のころ山肌に馬に似た雪形が現れることからき
ているという。またこの山には昔から神馬が住むと信じられ、信仰
の対象になっていることも由来のもとになっているという(「新著
聞集」勝蹟篇第六)。

この山の山中には古くから里人が入ってはいたらしいのですが、山
岳宗教的には南北朝時代の暦応1(1338)年に西麓の木曽側の人た
ちが八社の大神を祀り、のち山頂に駒ヶ岳神社を建てたといいます。
ところが山頂には祠がふたつあります。

登山者がさい銭をあげているのは、たいがいこの木曽側の祠。この
祠は天文元(1532)年(戦国時代)7月、徳原長太夫春安が頂上の
保食大神の社を創建、麓の徳原に本社を遷祀(移して祀り)し、里
の産土神とした(「駒ヶ岳由来記」)ものという。

それとは別の山頂直下の東側伊那宝剣を向いている祠は、登山道か
ら少し下にあり、地味なためかイマイチ目立ちません。これは伊那
方面からの開山に関係があります。

伊那側からの開山は、文化元(1804)年に下諏訪の行者寂本行者(木
曽御嶽講)のが最初。寂本行者は諏訪郡平野村(岡谷市)出身。開
山をとげたのは寂本75歳の時といいます。寂本は雲切りの術や不
動金縛りの術を行う行者で下諏訪町に住み加持祈祷をしていたとい
う。

その後、寂本は駒ヶ岳開山寂本霊神として、伊那前岳に祀られ、そ
の霊神が各地にあります。木曽駒山頂伊那側の祠はいつ建立したか
は不明ながら、天保3(1832)年に西春近小出(いまの伊那市)の
平沢貞一行者が再建、また安政6年にも改築したという記録があり
ます。さらに何回か改修。1957年(昭和32)大改築をしているそ
うです。

駒ヶ岳神社は、はじめ山そのものがご神体である駒ヶ岳大権現(垂
迹神(すじゃくしん)は衣食住の祖神である保食神・うけもちのか
み)を祀っていましたが、明治の廃仏棄釈の混乱を経て、昭和32
(1967)年の改築の記録では、国常立命(くにとこたちのみこと)、
大己貴命(おおなむちのみこと)、少彦名命(すくなひこなのみこ
と)(この大小の神はたいがいセットになっている)、春日皇大神(か
すがこうたいじん)、月読命(つきよみのみこと)ほかの大勢を祀
ってあります。

ちなみに、木曽駒中岳には宮田村の駒ヶ岳神社が祀られ、伊那前岳
には赤穂町(いまの:駒ヶ根市)の駒ヶ岳神社が祀られているそう
です。なお、この山も(木曾の)御嶽教の影響下の山です。そのた
め、行者は死んだあと山中に神としてまつられ、御嶽教独特の霊神
碑があちこちにみられます。

▼木曽駒ヶ岳【データ】
【所在地】
・長野県上伊那郡宮田村と同県木曽郡木曽町(旧木曽郡木曽福島
町)、同県木曽郡上松町との境。飯田線駒ヶ根駅の北西14キロ。J
R飯田線駒ヶ根駅からバス、ロープウエイ千畳敷から歩いて2時間
15分で木曽駒ヶ岳。

・一等三角点(2956.0m)と、木曽側と伊那側の木曽駒ヶ岳神社が
ふたつある。地形図に山名と三角点の標高と神社記号鳥居の記載あ
り。三角点より西方160mに木曾小屋がある。

【名山】
・深田久弥選定「日本百名山」(第74番に選定):日本二百名山、日
本三百名山にも含まれる。
・田中澄江選定「花の百名山」(第70番に選定)
・岩崎元郎選定「新日本百名山」(第62番に選定・長野県)

【位置】
・三角点:北緯35度47分22秒、東経137度48分16秒

【地図】
・旧2万5千分の1地形図「木曽駒ヶ岳(飯田)」

【参考】
・『伊那市史 現代編』(伊那市教育委員会提供)
・『駒ヶ岳研究』(第一輯)(上伊那教育委員会編)1940年(昭和15)
宮田村役場提供
・「駒ヶ岳由来記」木曽上松町駒ヶ岳社務所
・『コンサイス日本山名辞典』(三省堂)昭和54年(1979)
・『新著聞集』(勝蹟篇第六・信州駒が兵馬化して雲に入る)(神谷
養勇軒)1749年(寛永2)刊:「日本随筆大成第二期第5巻」日本
随筆大成編輯部編(吉川弘文館)1994年(平成6)
・「日本歴史地名大系20・長野県の地名」(平凡社)1979年(昭和54)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよた 時】

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