山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼195号 「東北・会津磐梯山手長足長伝説」

【概略】
昔、磐梯山に住んでいた怪物は嵐を呼び雲を集め雨を降らせて農作
物を荒らし村人を苦しめたが、弘法大師に退治された。山頂肩の弘
法清水わきには大師の石像がまつられ、コンコンと清水が湧き出で、
登山者の絶好のオアシスになっている。
・福島県猪苗代町と磐梯町と北塩原との境

▼195号 「東北・会津磐梯山手長足長伝説」

【本文】
ササに黄金がなりさがる山・会津磐梯山(1819m)。磐梯とは岩の
ハシゴだといいます。大同元(806)年の爆発前の磐梯山は標高2200
mはあったと推測されています。

そのためこの山は、まるで天に通じる磐(岩)の梯(はしご)のよ
うだというのでその名がついたというのです。

「奥州会津恵日寺縁起」(『新編会津風土記』による)には「磐梯
山、もとは病脳山(やまうさん)とて魔魅(まみ)住み居て常に
祟りをなし農産物を害せり。

のみならず山麓に民家あまたありしに大同元年、大爆発を起こさ
せ月輪荘、更科荘が一夜に湖に化し、溺死者数知れず。この災害
を聞きて空海この地に来たりて、八田野稲荷の森にて秘法を行せ
しにより、魔魅は別峰烏帽子岳に逃げ去りぬ。

この時山神、形を現しければ空海これを祝いて磐梯明神と称し、
舞楽を奏して明神と名づく」とあ利ます。

そんな記述からこんな伝説が残っています。その昔、病脳山(磐
梯山)と明神ヶ岳とに両足を踏ん張って立つような怪物「足長」
と、猪苗代湖の水を手ですくって会津中にばらまく「手長」とい
う夫婦の怪物が棲んでいました。

この怪物は、いたずら好きの乱暴者で雲を呼んで会津一帯を真っ
暗にし嵐を起こすわ、作物を荒らすわで、村人は困り果てていま
した。そんなとき弘法大師空海がやってきて、病脳山の頂上に登
って怪物夫婦に会って問答をしたという。

「お前たちは何でもできると威張っているようだが大きくなるこ
とができるか」というと、手長足長は見る間に天まで届く大きさ
になりました。

それを見た大師は「大きくはなれるが、わしの手の平に乗るよう
な小さくはなれまい」。「何を言う。俺たちに出来ないことはない」
手長足長は、みるみる小さくなって大師の手に乗りました。

大師はすかさず用意していた石の箱に入れ蓋をし、呪文を唱え出
られなくしてしまいました。「お前たちはいままでさんざん悪いこ
とをしてきたが、神として磐梯の山に祭ってやるからこれからは、
人々のために尽くすのだぞ」と、石の箱を山頂に埋め、磐梯明神
として祭ったといいます(『日本伝説大系』)。

いまでも山頂に積まれた岩の間に磐梯明神の石碑が埋められてい
ます。空海に救われた村人は、山名を磐梯山と改名。山頂の肩に
ある弘法清水と空海の大使像は、この伝説がもとになっているそ
うです。

やがて空海は山麓に恵日寺を創建し、山号を磐梯山としたという。
空海がこの寺にとどまること3年、大同5年(平安時代)、徳一に
寺を属して京に帰った(『奥州会津恵日寺縁起』)とあります。

しかし、これについては何の証拠もなく、実際には磐梯山爆発に
よる災害鎮護のため、空海のあとを継いだとされる徳一上人が古
城ヶ峰南麓磐梯町に恵日寺を建て、磐梯山の神・磐梯明神を鎮守
(磐梯神社は恵日寺のわきにある)としたものだろうということ
になっています。

10月、磐梯山は紅葉がまっ盛り。裏磐梯五色沼近くのキャンプ場
にテントを張りっぱなしにして、五色の沼の色をめでながらスキ
ー場から磐梯山に登りました。

茶色になって白煙をはき、キツイ硫黄の臭いを嗅ぎながら、登山
道わきの赤く熟したグミを摘んで口に運びます。中ノ湯あたりか
ら地元中学生の集団登山と出くわしました。

ワイワイガヤガヤ、歩いている登山道のを子どもたちが追い抜い
てうっとうしい。弘法清水小屋前はそのほかの登山者も混じって
それこそ芋を洗うようです。

それからは道も一段と細くなり、押すな押すなのにぎやかさにな
ってしまいました。山頂へ登る階段は順番待ちの列。足長どころ
か「くび長」になるありさまでした。

▼【データ】
【山名】
・異名:会津磐梯山・磐梯山・会津嶺(あいづれい)・会津富士・
大磐梯山。
・由来:天に達する岩の梯子のような山。

【名山】
・深田久弥選定「日本百名山」(第22番):日本二百名山、日本三
百名山にも含まれる。
・岩崎元郎選定「新日本百名山」(第25番・福島県)

【所在地】
・福島県耶麻郡猪苗代町と福島県耶麻郡磐梯町、福島県耶麻郡北塩
原村との境。磐越西線猪苗代駅の北西7キロ。JR磐越西線猪苗代
駅からバス、磐梯高原駅から歩いて4時間20分で会津磐梯山。三等
三角点(1818.6m)と皇高天原命の石碑、磐梯明神の石碑がある。
地形図に山名との標高の記載あり。三角点より北方向450mに弘法
の清水と弘法清水小屋がある。

【位置】
・【三角点】緯度経度:北緯37度36分3.67秒、東経140度4分20.13秒
(電子国土ポータルWebシステムから検索)

【基準点の詳細】
・基準点:(基準点コード:TR35640301601)(点名:磐梯)(冠字選
点番号:賓 3)(種別等級:三等三角点)(基準点成果状態:正常)
(地形図:福島−磐梯山)(測地系:世界測地系)(緯度経度:緯度
37°36′03.4859、経度 140°04′20.0688)(標高:1818.61m)(基
準点現況状態:不明 20010915)(所在地:記載なし)(点の記図閲
覧:×)(国土地理院「基準点成果等閲覧サービス」から検索)

・【点の記】
・閲覧不可

【地図】
・2万5千分の1地形図「磐梯山(福島)」(国土地理院「地図閲覧
サービス」から検索)。5万分の1地形図「福島−磐梯山」(「電子
国土ポータルWebシステム」から検索)

【参考】
・「奥州会津恵日寺縁起」(=陸奥国会津河沼郡恵日寺縁起):(「山
岳宗教史研究叢書・7」(名著出版)に所収
・「角川日本地名大辞典7・福島県」小林清治ほか編(角川書店)1
981年(昭和56)
・「新編会津風土記2」1809(文化6)年編纂(全120巻):(「大日
本地誌大系・第31」(雄山閣)所収
・「日本伝説大系3・南奥羽・越後」(山形・福島・新潟)大迫徳行
ほか(みずうみ書房)1982年(昭和57)
・「東北霊山と修験道」月光善弘編(名著出版):「山岳宗教史研究
叢書7・東北霊山と修験道」月光善弘編 (名著出版)1977年(昭和52)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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