山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼174号 「南ア・登山口井川湖の渡し船」

【概略】
井川湖は、昭和32年に完成した日本最初の中空重力ダム。久しぶり
の南アルプス縦走の帰り、井川湖の渡し船に乗ってみようとわざわ
ざ途中下車。乗客は私ひとり。「ここはいまも県道の一部なので料
金はいらねェ。下は砂地だから飛びおりてくれ」。対岸には船着き
場もない素朴さだった。
・静岡県静岡市

▼174号 「南ア・登山口井川湖の渡し船」

静岡県静岡市の西部、南アルプス南部登山口にある井川湖は、大井
川上流部をせきとめた人造湖で、日本最初の中空重力ダムだといい
ます。

昭和32年(1957)に完成し、当時の中部電力社長井上五郎の名前・
五郎をとり、正式名を「井川五郎ダム」というそうです。地元の井
川集落は、このダム建設にともなう軌道、道路ができる以前は全く
の陸の孤島。

静岡市街に出るにはダムに沈む前の川を舟で渡り、大日峠を越える
道(県道)を歩いたという。物資輸送もこの道が唯一の頼みだった
といいます。

久しぶりの南アルプス縦走の帰り、大日峠の石仏群を移転展示して
ある井川集落の大日院を訪れたあと、あこがれの井川湖の渡し船に
乗ってみようとわざわざ途中下車して渡し場に行きました。

オジサンがしきりに双眼鏡をのぞき込んでいます。対岸からの乗客
がいるか見ているのだという。乗客は私ひとり。エンジンの音も快
調に船は静かな湖面をすべります。

「客は山仕事の人たちが多いな。ここはいまも県道の一部なので料
金はいらねェ。下は砂地だから飛びおりてくれ」。対岸に近づいて、
財布を出した私にオジサンは、早く降りろというように手を横にふ
っています。

見ると対岸には岸壁もない素朴さ。早速船の上から砂地の船着き場
に飛び降ります。ザックを背負い直して立ち上がると船はもう出発、
動き出していました。

▼【データ】
【所在地】
・静岡県静岡市。大井川鉄道終点井川駅からバス、井川本町下車。
地形図に名にも記載なし。渡船場より西方向293mに大日院がある。

【位置】
・井川湖渡船場】:北緯35度13分14.8秒、東経138度14分25.8秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「井川(静岡)」

【参考】
・「角川日本地名大辞典22・静岡県」小和田哲男ほか編(角川書店)
1982年(昭和57)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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