山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼160号「北アルプス・小蓮華山の山争いと石仏」

・【概略】
新潟県糸魚川市方面では、小蓮華山を大蓮華(白馬岳)のとなりの
小蓮華といった。信州側では乗鞍岳。こうして山名がバラバラなの
は境界線争いを引き起こす。江戸時代文政年間に山争いが8年間続
き幕府の役人が出向いて裁定する騒ぎもあったという。
・長野県小谷村と新潟県糸魚川市の境

▼160号「北アルプス・小蓮華山の山争いと石仏」

北アルプス白馬岳(2932m)と白馬大池の間にある小蓮華山(2769m)
には風化した石仏と鉄剣があり、登山者たちを迎えてくれます。石
仏は高さ60センチくらい。

大日如来という仏さまで、数ある仏さまの中でも中心的存在だそう
です。これは修験道の本尊で、宇宙のすべて、天地のすべての「本
質」を仏格化したたいへんな仏さまなのだそうです。

この山を別名大日岳と呼ぶのはここからきています。鉄剣は白馬岳
神社の氏子たちが1927(昭和2)年に建てたものだとか。

小蓮華山は新潟県糸魚川市方面から見ると、谷奥深く雪をいだいた
峰々はまるで白いハスの花弁に見えます。

そこで越後側ではこの周辺の山を蓮華岳と呼び、大蓮華(白馬岳)
のとなりの小さい山を小蓮華といったという。信州側では東側にあ
る白馬大池そばの乗鞍岳の一部として見ていたそうです。

このように山名が地区によってバラバラなのは境界線がはっきりし
ないための争いを引き起こす原因になります。江戸時代文政年間(1
818〜1830)に山争いが8年間続き、幕府の役人がわざわざ出向い
て裁定する騒ぎもあったという。

それでも幕末の絵地図にはまだ小蓮華山を白馬岳と書いてあるもの
もあったそうですから地名が徹底するのも時間がかかるものです
ね。

▼【データ】
【山名】・白馬岳を越後側では大蓮華といったのに対して小蓮華と
した。信州側では大日岳と呼んだ。

【所在地】
・長野県北安曇郡小谷村と新潟県糸魚川市との境。JR大糸線白馬
駅からバス、栂池高原から歩いて4時間30分で小蓮華山。崩壊する
以前は山頂に大日如来の石像と鉄剣があった。地形図に山名のみ記
載。付近に何も記載なし。

※地形図には何もないが、基準点成果等閲覧サービスの地形図には、
三等三角点があり、(停止【再設】)として基準点リストにある。

【位置】
・三角点:北緯36度46分25.51秒、東経137度46分33.95秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「白馬岳(富山)」

※2008年(平成20)10月9日付け朝日新聞によると、2007年夏
に小蓮華山山頂付近で崩壊が確認された。この崩壊で最高点が3m
低くなったうえ、倒れた三角点の標注を安定した地盤に埋め戻した
ため、その場所が最高点より2.5m下になったので計5.5m低くな
りそうという。(2009年(平成21)6月現在、国土地理院「電子国
土ポータルWebシステム」で検索しても地形図に標高点はない)

【参考文献】
・「北アルプス白馬連峰 その歴史と民俗」長沢武(郷土出版社)1986
年(昭和61)
・「角川日本地名大辞典15・新潟県」(角川書店)1991年(平成3)
・「信州山岳百科・1」(北ア・里の山)(信濃毎日新聞社編)1983
年(昭和58)
・「新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・「日本山岳ルーツ大辞典」村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
・「日本山名事典」徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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