山の伝承伝説に遊ぶ
山旅通信
【ひとり画ってん】とよだ 時

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1096号 山の妖怪「山姥

【略文】

山姥は人を殺して食うというコワーイ者として物語られます。しか
し、山姥から貰った銭には福があったとか、福の神的な話も伝わっ
ています。箱根の足柄山では山姥の子として生まれた金太郎で、
源頼光の四天王のひとりになったことは有名です。

1096号 山の妖怪「山姥

【本文】
 山姥も妖怪の一人です。山中に住み、山母ということもあります。
そもそも深く高い山は、里の人たちとは別の人種が住み、想像もで
きない生活があると思われていたようです。山姥は人を殺して食う
というコワーイ者として物語られます。

 道に迷った牛飼いをとって食おうとした「牛方山姥」の話や、飯
を食わない女というので喜んで妻にしたら、実は山姥だったという
「食わず女房」の話などがそれです。

 また、歳末の一の日には山姥が買い物にあらわれ、彼女から貰っ
た銭には福があったとか、それにあやかり、大金持ちになるなど福
の神的な話も伝わっています。

 山姥といえば金時伝説がつきものです。箱根の足柄山では赤竜と
山姥の間に生まれた子が金太郎で、源頼光の四天王のひとりに数え
られた坂田公時に成長することはあまりにも有名。しかしそのほか
に長野県南木曽町のある南木曾岳(なぎそだけ)(1679m)も
あります。

 江戸後期の「木曽路名所図会」に「峰の近き所に窟あり。この中
の広さ数10歩、その内に方式三丈の平石あり。これを山姥の石座
と伝えり」とでてきます。この山は大雨が降ると「蛇抜け」という
おそろしい土石流が人家を襲う魔の山。

これを山に住む山姥の仕業だとされてきたようです。古書でいう通
り、金明水の近くに「金時ノ洞窟」があって対岸から洞窟が望め、
また山頂付近にも金時岩があります。

 8月の暑さまっ盛り、歩いているとアブの大群に襲われます。途
中、垂直状の岩場のクサリ場と巻き道がつくられています。山頂は
誰もいない静かな小平地。見晴台から望む木曽御嶽が雄大でした。

▼【参考文献】
・『日本架空伝承人名事典』大隅和雄ほか(平凡社)1992年(平成
4)
・『日本歴史地名大系20・長野県の地名』(平凡社)1979年(昭和54)
・『小谷口碑集』小池直太郎編 (長野県稀覯本集成, 第1期明治・
大正編〔6〕)(郷土出版社)2000年(平成12)
・『民間信仰辞典』桜井徳太郎編(東京堂出版)1984年(昭和59)

 

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【とよだ 時】 山と田園風物漫画文
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 (主に画文著作で活動)
【ゆ-もぁ-と】事務所
山のはがき画の会

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