山の伝承伝説に遊ぶ
山旅通信
【ひとり画ってん】とよだ 時

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1095号-【続・ふるさとの神々】01-15「雷神」 

【略文】
古い寺院などで、風神と並んで雷神の像を見かけます。この雷神も
農の神。雷には、雷電さま、カン(神)ダチ、鳴神(神鳴り)など
神を表す言葉が付けられます。雷につきものの稲妻。「イナヅマ」
のツマとは添えもののこと。これが光り、雷雲がもたらす雨は稲の
生育に欠かせず、雷は水をつかさどる豊作の神としても祭られます。

1095号-【続・ふるさとの神々】01-15「雷神」 

【本文】
夏になると毎日夕立とともにゴロゴロと雷がにぎやかです。雷も神
さまです。古い寺院などで風神とならんで雷神の像をも見かけます。
この雷神は農業の神だそうです。雷には、雷電さま、カン(神)ダ
チ、鳴神(神鳴り)など神を表す言葉であらわされています。また
雷につきものは稲妻(いなづま・雷光)です。

「イナヅマ」のツマとは添えもののこと。刺身のつまなどと同じ、
なくてはならないものです。これが光り、雷雲がもたらす雨は稲の
生育に欠かせず、雷は水をつかさどる豊作の神であり、雨乞い神と
して信仰されたのであります。

一方、雷は獣の仕業と考えられたこともありました。『今昔物語集』
巻十二第一話「越後国神融聖人縛雷起塔語第一」(ゑつごのくにの
じんいうしやうにんいかづちをしばりてたふをたつることだいい
ち)には、「今昔(いまはむかし)、越後国ニ聖人有(あり)ケリ。
名ヲバ神融ト云フ。世ニ古志(こし)ノ小大徳(こだいとこ)ト云
フハ此レ也。幼稚(えうち)ノ時ヨリ…」とあります。

この越後国の神融聖人(じんゆうしょうにん)が国上山(くがみや
ま)の寺に建てた塔を蹴破り壊す、雷を縛って捕まえて改心させま
す。そして水の便のない寺までかんがい用の水路を引く約束をさせ
て天に帰しました。許された雷は、指で岩にあけ清水を得られるよ
うにしたとの話も出てきます。

一方、田植えは雷神とオナリ(かつて田植えの時、昼飯を運んだ美
しく装った女性)との婚姻だとする説もあって、雷の落ちた田ンボ
には青竹を立ててお祝いとして注連(しめ)を張ったりします。昔
は雷は雷獣で、狸(たぬき)や狢(むじな)、狼、狐、猫のような
ものを連想していたとい話もあります。

現代なら、雷……強い上昇気流によって発生した積乱雲に伴ってお
こり、雲と雲との間、雲と地物との間に生ずる放電現象をいう。上
昇気流をおこす原因の違いによって熱雷、界雷、渦雷などに分ける
が、実際にはこれらの原因が複合する場合が多い……。百科事典を
ひくと、このくらいはスラスラと出てきます。

こんな科学的に解明された今日でも、雷はこわいものです。ゴルフ
場のような原っぱ、山のてっぺんでもゴロゴロやられたらもう、熱
雷もヘチマもありません。ただ逃げまわりハイマツの中に逃げ込ん
だりします。毎年何人かは亡くなっている始末です。ましてや何も
知らないムカシの人たちは、ただひたすら神の怒りとして恐れおの
のき、畏怖したにちがいありません。雷(かみなり)は神鳴りの意
味だそうです。

『古事記』の中に伊弉冉尊(いざなみのみこと)が亡くなり、夫の
伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が、黄泉国(よみのくに)へ妻に逢
いに行き、その死がいを見て驚きます。

その姿は「…蛆(うじ)たかれ(肉が)とろぎて、頭には大雷居り、
胸には火(ほの)雷居り、腹(みはら)には黒雷居り、陰(みほと)
には折(さく)雷居り、左の手(みて)には若雷居り、右の手に伏
(ふし)雷居り、併せて八(やくさ)の雷神(いかづちがみ)成り
居りき…」と書かれるほどのものすごさ。

雷はこのように荒ぶる神なのであります。雷を「いかづち」とも読
ませます。「いか」とはイカメシイの厳。「づち」は「みずち」のづ
ち、すなわち蛇の精霊のことだといいます。

そういえば『日本書紀』巻第十四(第21代雄略天皇の項)…七年
の秋七月(あきふみづき)の甲戌(きのえいぬ)に、…天皇が少子
部連??(ちいさこべのすがる)に、「自分は三諸岳(みもろのお
か)(大和三山)の神の形を見たいので捕えて来るように」といっ
た。??(すがる)は三諸岳に登って大蛇を捕えきました。

…その大蛇(おろち)は雷のような音を立てていて、目が輝いてい
た。…大蛇は山に放した。そして名を賜って雷(いかずち)と改め
たと出ています。蛇が長じて竜となり、竜神となったのがイカヅチ
だとも思われていたようです。

『日本未確認生物事典』によれば、江戸時代の国語辞典『倭訓栞』
(わくんのしおり)の文を引用して、雷獣を「明和乙酉二年(1765・江
戸中期)の七月に、相州雨降山(神奈川県丹沢の大山)に落ちたる
も猫より大きく、ほぼイタチに似て、色、イタチより黒し。爪五つあり
て甚だたくまし。先年岩附に落ちたるもほぼ似て胴短く色灰色也と
いい、又尾州知多郡の寺に落ちて塔にうたれ死にたるも鼠色にて
犬の大きさ也といえり」と記しています。

これらの雷獣は、秋に穴に入って眠り、春には穴から出てきて活動
する……雷獣は冬眠すると考えていたのですね。落雷のあとは神聖
な場所として扱い、落ちた木は神秘な木とされ注連(しめなわ)を
張り、そこが田んぼならモリ(塚)として、畑なら作物をつくらな
かったという。雷が落ちるとその高圧の電流で砂がとけて塊(かた
まり)になります。この塊を雷石(ファルグライト)といい、ご神
体とする所も多いそうです。

トツゼン登場するのは菅原道真公。左大臣藤原時平におとしいれら
れた道真が雷神となってたたり、京都の街では、あちこちでピカッ、
バリバリ、ドーンというすさまじさ。しかし、道真の邸があった桑
原だけは一度も落雷しなかったという。そこで人々は雷が鳴ると雷
よけに「くわばら、くわばら」といって逃げたといううそのような
本当の話だそうです。

▼【参考文献】
・『古事記』:新潮日本古典集成・27「古事記」校注・西宮一民(新
潮社版)2005年(平成17)
・『今昔物語集1』馬淵和夫ほか校注・訳(小学館・古典文学全集)
1993年(平成5)
・『祖神・守護神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)
・『日本書紀(三)』校注・坂本太郎ほか(岩波文庫・岩波書店)2000
年(平成12)
・『日本大百科全書23』(小学館)1989年(平成1)
・『日本の民俗・全47巻』(第一法規出版)昭和46(1971)年〜昭
和50(1975)年
・『日本未確認生物事典』笹間良彦著(柏美術出版)1994年(平成
6)
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)

 

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【とよだ 時】 山と田園風物漫画文
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 (主に画文著作で活動)
【ゆ-もぁ-と】事務所
山のはがき画の会

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