山の伝承伝説に遊ぶ
山旅通信
【ひとり画ってん】とよだ 時

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1091号-【続ふる神】02-13山人・怪人・山男

【略文】
かつて山の中で、里人とは違う怪人・大男に出会ったという話がよ
くありました。山人(やまびと)とか山男、?(やまこ)、大太法
師に代表される巨人、小人、山童(やまわろ)など、確かに何かい
たようです。あの柳田国男も「山の人生」の中で山中に住む人たち
に触れています。

1091号-【続ふる神】02-13山人・怪人・山男

【本文】
 かつて山の中で、里人とは違う大男に出会ったという話がよくあ
りました。山人(やまびと)とか山男、?(やまこ)、大太法師に
代表される巨人、小人、山童(やまわろ)など、確かに何かいたよ
うです。あの柳田国男も「山の人生」の中で山中に住む人たちに触
れています。

 古書の中の山男を見てみますと、江戸時代中期の百科事典『和漢
三才図会』(寺島良安)には、『本草綱目』など中国の本からの記
事を引いて、「山男」「山姥」、「山精・片足の山鬼」などを紹介して
います。中国の山男は、山の精気が凝って生まれた妖怪で、その姿
は後ろ向きの足の甲を持った一本足の山丈(やまおとこ)として描
かれています。

 それに対して日本の山男は、ふつうの人間のよう形で大男が多い
ようです。「秋田の早口沢と言ふは二七里の沢間也。……(中略)
……。此山中に折として童の鬼の如くなるを見ることあり。先(さ
き)つ年或人の見る一人の大童は十人しても抱へ難き大石を背負
ひ、うつ伏してたに水(さんずいに閧フ字・たにみず)を飲み居
たり。之を鬼童と云ふ」のような、ざんばら髪で、童(わろ)と
呼ばれ、大岩を軽々と持ち上げる怪力の持ち主です。江戸時代後
期の『譚海』(津村淙庵)「巻之九」に載っている話です。

 神奈川県の箱根に山男というものがいました。裸の上に木の葉や
樹皮をまとい、山奥に住み魚を捕るのを仕事にして市の立つ日に来
て、魚と米を交換して絶壁のようなところを飛ぶように帰っていく
という。無口でよけいな話をせずどこに住んでいるのか分からなか
った。小田原の城主もこれを知っていて、人に害を加えることもな
いので絶対に鉄砲などで撃ってはならないとしていたという。どこ
に住んでいるのか確かめようとあとを追いますが、絶壁のような道
のないところを鳥が飛ぶごとくに走り去るので追いつかなかったという。

 また、江戸後期の『北越雪譜』(鈴木牧之)には、越後南魚沼郡
の池谷村や十日町に大男が現れて米の飯を欲しがり、やると荷物を
背負って送ってくれた話を載せています。また、柳田國男の「山人
外伝資料」(1913年・大正2)では、古書から山人の盛衰を五期に
分け、第一期を国津神時代・第二期は鬼時代・第三期は山神時代・
第四期は猿時代・第五期を山人史解明時代としています。そして「山
人とは我々の祖先に逐われて山地に入り込んだ前住民の末である」
としています。

 山人とよく間違われるものに、?(やまこ)というものがいるそ
うです。これは猿のようで大きく黒い長い毛に覆われているという。
飛騨や美濃(岐阜県)の山奥にすんでいて、立って歩き、人の言葉
をよく話し、人の心を読むというから賢い。人には危害を与えない
という。山童(やまわろ・やまわらわ)というのもいます。これは
半人半獣の動物といわれ、狒狒(ひひ)の類ともいい、裸で立って
歩くという。

 先の『和漢三才図会』では、俗に也末和呂(やまわろ)という
そうです。これは、西の方の深山にすんでおり、高さは約3mも
あるという。いつも裸で歩き、沢のエビガニをとるという。人が
焚き火をしているとエビガニをもってきて焼いて食うのだそうで
す。人がこれに危害を与えると、寒気をもようさせたり、発熱さ
せたり仕返しをするという。山童は、川太郎を河童というように、
これは山の童なのでそうです。

 巨人、大入道なども登場します。『常陸風土記』にある巨人(ダ
イダラボッチ)などもこの仲間です(別項、「大太法師」参照)。ま
た東北・吾妻連峰にも大人(おおひと)というものがいて、「その
長(たけ)一丈五六尺、木の葉を綴りて身を蔽(おお)う」(「今斉
諧四」から)。それによると住民は大人を神のように畏敬し酒や食
事を備えるように置いておいた。大人はそれを食べずに包んで持ち
帰るという。


▼【参考文献】
・『お化け図絵』粕(はく)三平編(芳賀書店)1974年(昭和49)
・「山人外伝資料」柳田國男(1913年):ちくま文庫『柳田國男全
集4』(筑摩書房)1989年(昭和64・平成1)
・『図聚天狗列伝・東日本編』知切光歳(三樹書房)1977年(昭和
52)
・『仙人の研究』知切光歳(大陸書房)1989年(平成元)
・『譚海』員正恭 著(国書刊行会)1917年(大正6)国会図書館電
子デジタル:「譚海」巻之九
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・『遠山奇談』:日本庶民生活史料集成『遠山奇談』(山一書房)(1972
年)
・『日本庶民生活史料集成・第8巻』見聞記(三一書房):「譚海」
・『日本大百科全書23』(小学館)1989年(平成1)
・『日本未確認生物事典』笹間良彦(柏美術出版)1994年(平成6)
・『南方民俗学』(南方熊楠コレクション・2)中沢新一(河出書
房)1991年(平成3)
・『柳田国男全集・4』柳田國男(筑摩書房)1989年
・『和漢三才図会』大阪の医師・寺島良安著(江戸中期初頭・1712
(正徳2)年の図入り百科事典):東洋文庫466『和漢三才図会・
6』(巻第四十寓類恠類の項)島田勇雄ほか訳注(平凡社)1989年
(昭和64・平成1)

 

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【とよだ 時】 山と田園風物漫画文
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 (主に画文著作で活動)
【ゆ-もぁ-と】事務所
山のはがき画の会

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