伝説伝承の山旅通信【ひとり画ってん】とよだ 時

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1067号「丹沢・大山三峰山」

略文説明
【短略説明】
丹沢大山の北東に三峰山という山があります。この山は、はっきり
としたピークが3つあるので、その名がありますが、見る場所でピ
ークの数が変わって見え、ピークは全部で大小6,7峰からなっ
ているようです。
・神奈川県愛甲郡清川村。

1067号「丹沢・大山三峰山」

【本文】
 丹沢には三峰という山が二つあります。ひとつは、丹沢山から北
東にのびる尾根にある三ツ峰。もうひとつは大山の北東ある三峰山。
まぎらわしいので前者を「丹沢三峰」、後者を「大山三峰」と区別
しています。今回取り上げるのは後者の「大山三峰」の方です。

 この山は、はっきりとしたピークが3つあるので、名づけられた
名前ですが、見る場所で数が変わって見え、ピークは全部で大小
6,7峰からなっているようです。『新編相模国風土記稿』(巻之
五十八)煤ケ谷村には、「〇三ッ峯、西方に在、三山並び立り(2
行:中央なるは登凡二里、左右なるは少低し)頂きに三峰社ありし
が廃して神木の樫樹(2行:廻り三圍)のみ残れり、八菅山の修験
回峯の行所なり(2行:此餘当村の山中所々に行所あり」とありま
す。

 かつてはこの山も、愛甲郡愛川町八菅(はすげ)山の八菅修験の
行場として登られたそうです。八菅の集落では男子13歳になると、
先達に導かれて登ったという。八菅修験は、まず八菅山で数々の神
事によって儀式を数日間行いました。それからいよいよ登山になり
ます。行場の数は三峰山を含め30ヶ所。

 三峰山はその18番、19番、20番。回峰は7泊の修行であったと
いう。とくにこの山を越えて大山までは、厳しい山岳地帯だけに、
「奥駆け」といわれました。奥駆けは、1番が「八菅山上」、2番
が「幣山」、3番が「館山」、4番が「平山」、…

 …5番「塩川滝」と、だんだん進んで大山三峰山になります。…
…18番が「阿弥陀岳」(三峰山の北峰)。ここは風が強くあたると
ころから「風吹山」とも呼んだという。19番が「妙法寺岳」(〃中
央峰)、20番が「大日岳」(〃南峰)、さらに進み……・28番明星岳、29
番が「雨降山大山寺本宮」、30番が「大山寺白山不動」で終わって
います。

 このコースは八菅から中津川沿いに北上し、平山に出て塩川滝に
いたり、半原越えをして経ヶ岳・華厳山・高取山と南下して、丹沢
の部落に降りる。丹沢からまた北上し、煤ヶ谷の寺谷から西に谷太
郎川に沿って進んでいくと、北の辺室山に登り、南に走って大山三
峰を越え、さらに南下して大山の頂上にのぼり、現在の下社のとこ
ろに下って終わっている。この間、幣山の大日滝や塩川滝では、修
験者一同、滝の水を浴びて修行したという。

 『新編相模国風土記稿』に書かれている、「頂きに三峰社ありし
が廃して……」について、『丹澤記』を著した吉田喜久治氏はこん
なことを載せています。「三ッ峰社は、もともと最高峰にはない。
札樫(または札掛とも)というのは、八菅修験回峰の際、樫の木
の根もとに棄札したしたところで、その位置は太尾(坂)760mあ
たりから分かれて、主尾根に出て820mのタワからちょっと登っ
た840mの南端あたり。いまは樫の木の根っこしか残っていない。
三峰社のあったのはそこらしい」としています。

 さらに「三峰社のあった「頂」はずっと離れた、カラ沢川の打越
に近い尾根の一角、(詳しくいえばフトオ坂を登りきって、水平に
からもうとするところから右に分かれ、尾根のタワに出て、三峰側
をちょっと登ったところ。…

 …石祠がある)八菅(はすげ)修験の札掛(札樫)の伝承のある
樫の木(いまは朽ち果てて根っこしか残っていない)の根元にまつ
られていたのである」としています。三峰山は、八菅修験の18番
「阿弥陀岳」、19番「妙法寺岳」、20番「大日岳」の行所というこ
とになっています。しかし、いまはそれらしい跡はなにも残ってい
ないのが残念です。


▼大山三峰山【データ】
【所在地】
・神奈川県愛甲郡清川村。小田急小田原線鶴巻温泉駅の北北西10
キロ。小田急線本厚木駅からバス、煤ヶ谷下車。北峰・中央峰・南
峰と三つの峰がある。約3時間で山頂。標高:934.56m(南峰)。
【位置】
・北緯35度27分52.51秒、東経139度14分43.91秒
【地図】
・2万5千分の1地形図:大山。


▼【参考文献】
・『角川日本地名大辞典14・神奈川県』伊倉退蔵ほか編(角川書店)
1984年(昭和59)
・『神奈川県史』(各論編5・民俗)神奈川県企画調査部県史編集室
(神奈川県)1977年(昭和52)
・『かながわの山』植木知司(神奈川合同出版)1981年(昭和56)
・『山岳宗教史研究叢書8・日光山と関東の修験道』宮田登・宮本
袈裟雄(みやもとけさお)編(名著出版)1979年(昭和54)
・『山岳宗教史研究叢書17・修験道史料集(1)』五来重(ごらい
しげる)編(名著出版)1983年(昭和58)
・『修験集落八菅山・愛川町文化財調査報告書』慶應義塾大学文学
部宮家準研究室(愛川町教育委員会)1978年(昭和53)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『新編相模国風土記稿』(巻之五十八 村里部 愛甲郡巻之五 毛
利庄):大日本地誌大系21「新編相模国風土記稿3」編集校訂・蘆
田伊人(雄山閣)1980年(昭和55)
・『丹澤記』吉田喜久治(岳(ヌプリ)書房)1983年(昭和58)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)

 

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【とよだ 時】 山と田園風物漫画文
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 (主に画文著作で活動)
【ゆ-もぁ-と】事務所
山のはがき画の会

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