山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼116号「千葉県・市原市のドロボー神社」

【概略】
千葉県市原市武士(たけし)にある建市(たけし)神社奥宮は「盗
人」の宮だそうです。ひと仕事したドロボーさまもこの山に逃げ込
めば追手の目をくらますことができたという。これが仲間に知れわ
たり、いつしか「業界」の守り神として厚く信仰されるようになり
ました。いまは祠(ほこら)の土台だけが残り、小さな石祠が2つ、
3つあるばかりになっています。

・千葉県市原市

▼116号「千葉県・市原市のドロボー神社」

【本文】
日本は神の国だといいます。その数ざっと八百万といいますから、
なかには「変わった神サマ」もおわします。そのひとつにドロボー
を守ってくれる神があるといいます。

各地に神聖視される特定の寺社に入ると重い罪人も捕まえられない
という信仰は広くありますが、ドロボーを守ってくれるという神さ
まはそう多くありません。横浜市港南区の青木神社や岡山県岡山市
大供町にある戸隠宮・一名石門別神社などがそうです。

とくに、千葉県市原市にある建市(たけし)神社。ここの祭神は、
鹿島神宮の祭神と同じ建甕鎚命(たけみかづちのみこと・建御雷之
男神=たけみかづちのをのかみ)という武の神さまです。

この神は「古事記」などに出てくる「国譲り」の時活躍した武の神
です。本殿から1キロほど離れた小山の上の奥宮(大宮神社と呼ぶ)
は盗人の宮と呼ばれています。

この辺一帯は、五井海岸が見渡せる景勝の地で、昔から一面の笹薮
がボーボーと生えた「やぶぼっか」続いており、船の運航のあてに
もなっていたという。

ひと仕事したドロボーも、この山に逃げ込めばなんなく追手の目を
くらますことができたのだといいます。これがドロボーの仲間に知
れわたるところとなり、いつしかその筋の「業界?」の守り神とし
て厚く信仰されるようになったと、江戸時代宝暦11年(1761)の
『房総志料巻三・上総付録』(中村国香著・成立の地誌)にありま
す。

建市神社がドロボーと結びついた契機は、タケシがタカシ・タカイ
シなどと同様に帰化人系統とみられるので、その異人意識が誇張さ
れたものか、『房総志料』にあるように、あるいはこの社が元慶年
間(貞観一八年?下記『房総志料』参照)この地で起こった囚人の
反乱を鎮めた功で従五位下を賜ったことによるか、または古代の裁
判所としてのクガタチの場だったことを暗示しているのではないか
ともいわれています。

現地はやぶ山の中にあり、そこの奥宮があった部分だけやぶが刈ら
れひらけています。大きなシイの木の間に、いまはホコラの土台だ
けが残り、まわりに小さな石ポコラがいくつか建っています。その
向きの人かどうかは分からねど、お参りしたあとがありました。

▼【データ】
【所在地】
・千葉県市原市武士。小湊鉄道上総三又駅の東1キロ

【参考】
・「祖神・守護神」川口謙二(東京美術)1979年(昭和54)
・『房総志料巻三・上総付録』中村国香著・宝暦11年(1761)成立
の地誌:『房総叢書6』房総叢書刊行会(房総叢書刊行会発行)1941
年(昭和16)に収録
・「房総の昔話散歩」高橋在久ほか(創樹社)1973年(昭和48)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

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