山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼103号 「北ア・白馬乗鞍岳山ノ神尾根の道標」

【概略】
前から気になっていた山の神尾根に千国街道から若栗民宿経由で登
ってみた。草いきれの長い尾根を登り天狗っ原に入った所で突然逆
向きの道標。先への道はありません。仕方なく幕営。翌日も雨。道を
探し丸半日湿原をウロウロ。ほんとに「むかっ腹」のたつ「天狗っ
原」だった。
・長野県小谷村

▼103号 「北ア・白馬乗鞍岳山ノ神尾根の道標」

北アルプスには乗鞍岳が2つあり、南にある乗鞍岳は、乗鞍スカイ
ラインが通る山。マイカーは規制になっているとか。一方、北端に
ある乗鞍岳は、ほかと区別するため白馬岳の近くにあるので「白馬
乗鞍」とも呼んでいます。

その乗鞍岳の天狗っ原(てんぐっぱら)から東に長い山ノ神尾根が
延びています。途中に尾根の名前のものになっている山の神の社も
あるという。

ある年、思いきって長野県北安曇郡小谷村のJR大糸線千国駅に下
車、塩の道千国街道を歩き若栗民宿経由で登ってみました。草いき
れの長い尾根を登り、途中で山の神に「あいさつ」すべく、祠への
道を探しますが見つかりません。

ガイドブックの説明の場所あたりを行ったり来たりと1時間あま
り。ついにあきらめ天狗っ原へ向かいます。湿原を何ヶ所か横切り、
沢すじを登った所で突然逆向きの道標です。先への道は沢に入って
なくなっています。おかしいな。道はまちがいないのだが。

わき道もなく、また行ったり来たり。そうこうするうち日没になっ
てしまいました。やがて雨が降り出し気温も下がってきました。仕
方なく沢すじにテントを張りビバークすることにしました。

翌日も雨。道を求め、ヤブをこぎ地塘(ちとう)を渡り、やっと栂
池(つがいけ)へ通じる道に飛び出しました。まったく、丸半日湿
原をウロウロしていたわけです。

なんということか。山ノ神は容易に近づかせてはくれません。それ
とも天狗のいたずらか、まるでキツネにつままれたようです。計画
ではきのうは白馬大池のテント場に泊まり、いまごろは白馬岳に向
かって歩いていているころ。

後立山連峰を針ノ木峠まで縦走しようとする身にとってきょうのロ
スは痛い。ほんとに「向っ腹(むかっぱら)」のたつ「天狗っ原」。
でもこれもいい経験、まあまあ終わりよければすべてよし。

受け入れよう、受け入れようと、天狗っ原に建つ石祠に頭を下げ、
白馬乗鞍岳のケルンに意味もなく触ったりしながら白馬大池のテン
ト場を目指したのでありました。

ちなみに、天狗っ原の石祠は、1927年(昭和2)北安曇郡北城村
(今の白馬村・はくばむら)の後藤敏という人が建てた白馬岳神社
で天照大神をまつる(当時は木祠)。その後台風で吹き飛ばされ
1958年(昭和33)、白馬村の援助で、石造りの祠に立て替えたもの
だそうです。

▼【データ】
【所在地】
・長野県北安曇郡小谷村。JR大糸線白馬駅からバス、栂池高原か
ら歩いて1時間で天狗原。標高点(2204m・標石はない)がある。
地形図に天狗っ原の文字と標高点の標高の記載あり。

【位置】
・標高点:写真測量による標高点(2204m)。緯度経度:北緯36度
46分56.19秒、東経137度48分48.6秒(国土地理院「電子国土ポ
ータルWebシステム」から検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「白馬岳(富山)」(国土地理院「地図閲覧
サービス」から検索)

【参考】
・「北アルプス白馬連峰 その歴史と民俗」長沢武(郷土出版社)1
986年(昭和61)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

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