山の伝承伝説に遊ぶ
山旅通信
【ひとり画ってん】とよだ 時

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1030号山里の石仏・要石と鹿島槍」

【略文】
山からふもとに下りると、神社の境内などに「要石」という石を見かけます。
要石は地震除けの神。ひんぱんにおこる大地震。昔から地震は地下に
いるナマズのせいだといわれます。このナマズの首根っこに釘を打ち込
み、動けなくしたのが要石です。
・長野県大町市と富山県中新川郡立山町と黒部市宇奈月町との境。

1030号山里の石仏・要石と鹿島槍」

【本文】
 山からふもとに下りると、神社の境内などに「要石」という石があるのを
見かけます。要石神社という社もあります。要石は地震除けの神。昔から
肝心要(かんじんかなめ)と申します。広辞苑には極めて肝要なことと出
ています。地震、雷、火事、おやじ……、こわいものの順番です。おやじ
の威厳が消滅したいま、一番こわいものやはり地震かも知れません。

 いまの世でも地震といえば連想されるのがナマズです。グラリとくるのを
予知するといわれ、「地震の前に起こる地電流の変化にナマズが敏感に
反応する」という学者の論文も発表されています。

 事実、ナマズを水槽で飼い、朝夕観察、記帳、地震との関連を調べて
いる地方自治体もあるくらいです。こんな事から、「地震がくるからナマズ
が騒ぐ。地震がくるときはナマズが騒ぐ。ナマズが騒ぐから地震がくる。ゆ
えに地震はナマズのせいだ」と昔の人は考えました。

 地下にいるという「地震ナマズ」の首根っこをおさえつけられたらどんな
に安心できるだろう。そこでナマズのいそうな所に釘を打ち込み、動けな
くしようとしたのが要石(かなめいし)で、地震除けの神になっています。

 この石は全国各地の神社にあり、なかでも有名なのは茨城県鹿嶋市
の鹿島神宮の境内にある要石。高さ15センチの丸い石で、大きな杉の
木の間の囲いの中に地中深く根を張っているという話です。

 鹿島神宮のいい伝えによると、日本の国土の地下には地震を起こす
大ナマズが横たわっていて、どういうわけか首と尾が、ここ鹿島神宮の下
で合わさっているというのです。それをこの要石が押さえつけている、まさ
に肝心要の要石なのです。そして「ゆるぐともよもやぬけじの要石、鹿島
の神のあらんかぎりは」と三度唱え、災害除けを祈願します。

 「鹿島宮社例伝記」では鹿島の大明神が降臨したとき、この石に座っ
たとあり、古くは御座(みまし)の石と呼ばれていたということです。また水
戸黄門が要石がどこまで深く刺さっているか確かめようと試み、七日七晩
この石のまわりを掘らせましたが、掘った穴が次の日には埋まって元に戻
ってしまい、確かめることできませんでした。その上ケガ人が続出したた
め、掘ることをあきらめたという話も伝えられています。そんな有り難い地
震の神鹿島神宮の「要石」話ではあります。

 また北アルプス鹿島槍ヶ岳(2289m)が天文年間(1532〜1555・戦
国時代)、大きな地震があって大崩壊し、ふもとの集落が被害を受けたと
いう。村人は地震の神である鹿島の神を勧請して鹿島神社を建て、山の
名を鹿島山、村の名を鹿島集落、集落の中を流れる川を鹿島川と改めた
といいます。そして鹿島神宮と同じ要石を埋めたという。それが長野県大
町市鹿島槍のふもとの鹿島集落なのだそうです。

 江戸時代の『信府統記』(しんぷとうき)という本にあるお話です。いまで
も集落の旧道の入り口にある小さい石がそれ。その周囲には垣をめぐら
され、コナシの木が一本植えられています。この要石はどんな力で動か
そうとしても動かないほど深く埋められているようですが、何年か前に誰
かが頭を割ってしまいました。

 言い伝えによるとこの石は、右手にクギを一本持ち、右手に飯を盛って
おり、地震の頭を押さえつけているそうです。そのため鹿島集落には地
震がないという。この石は神であるため、手で触れたり、ナシの実を食べ
たりすると病気なったりして、罰が当たるといわれています。

▼鹿島槍南峰・北峰【データ】
【所在地】南峰と北峰がある。
・長野県大町市と富山県中新川郡立山町と黒部市宇奈月町(旧下
新川郡宇奈月町)との境。大糸線信濃大町駅の北西15キロ。JR
大糸線信濃大町(タクシー20分)大谷原から歩いて8時間45分で
鹿島槍ヶ岳南峰、さらに歩いて30分で北峰。南峰には二等三角点
(2889.1m)、北峰には写真測量による標高点(2842m)がある。
地形図に鹿島槍ヶ岳の文字記載。その他それぞれに南峰の文字と
三角点の標高、北峰の文字と標高点の標高の記載あり。
▼【名山】
・深田久弥選定「日本百名山」(第47番):日本二百名山、日本三
百名山にも含まれる。
・清水栄一選定「信州百名山」(第53番)
【位置】
・北峰(標高点):北緯36度37分37.38秒、東経137度45分7.05秒
・南峰(三角点):北緯36度37分28.3941秒、東経137度44分49.39

【地図】
・2万5千分の1地形図「十字峡(高山)」or「神城(高山)」(2図
葉名と重なる)

▼【参考文献】
・『大町の伝説』(大町民話の里づくり・もんぺの会)2007年(平成19)
・『信府統記』(しんぷとうき)復刻版:全32巻・享保9(1724年)鈴木重武
/三井弘篤 編述(国書刊行会)1996年(平成8)
・『日本大百科全書5』(小学館)1985年(昭和60):(p538・要石)
・『日本伝説大系4・北関東』渡邊昭五ほか(みずうみ書房)1986年(昭
和61)
・『日本の石仏7』(南関東篇)大護八郎編(国書刊行会)1983年(昭和
58)
・『民間信仰辞典』桜井徳太郎(東京堂出版)1984年(昭和59)
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)

 

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【とよだ 時】 山と田園風物漫画文
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 (主に画文著作で活動)
【ゆうもぁ-と】制作処
山のはがき画の会

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