山の伝承伝説に遊ぶ
山旅通信
【ひとり画ってん】とよだ 時

……………………………………

▼1016号峠の石仏・庚申、青面金剛」

【略文】
峠や道の辻などで庚申塔や青面金剛の石塔が目につきます。青面金剛
はたなびく雲と太陽や月、下段に三猿が彫られ邪鬼を踏みつけた形をし
ています。これはごちそうを食べながら徹夜して長寿を祈る「庚申待」の
講が建てた供養塔です。青面金剛の文字だけの石塔や掛軸もありま
す。

(本文は下記にあります)

▼1016号峠の石仏・庚申、青面金剛」

【本文】

 峠や道の辻などで、いろいろな石仏がならぶなかに、庚申塔や青面金
剛という字が入った石塔が建っているのを見かけます。青面金剛は、た
なびく雲と太陽や月、下段に三猿が彫られ、憤怒の顔、六臂(ろっぴ)
(六本の手)で合掌型、剣人持型があり、索縄(さくじょう)、棒などをにぎり
邪鬼を踏みつけた形をしています。

 「青面」はセイメンともショウメンとも読み、もともとは帝釈天の使者だっ
たという。顔の色が青い金剛童子のことで、病魔や病鬼を払い除くとされ
ています。仏教の青面金剛は伝尸(でんし)病(肺結核)を治す秘法とい
われ「陀羅尼(だらに)集経」というお経の、青面金剛呪法に「若し、骨蒸
伏連伝尸気病を患ふる者、呪を誦すること千遍せば、其病即ち愈ゆ」とあ
ります。

 この伝尸(でんし)が道教での三尸(さんし)と語音が似ているので庚申
信仰と結びつけられたとされています。その結果、人間の体にひそむ三
匹の虫(三尸の虫)の本体は、青面金剛だということになります。この三尸
(さんし)の虫というのは、ふだんは人間の中にいて、その人間を監視して
います。

 「何月何日、どこで浮気、ホテル代他、ン○万円也」てな具合に手帳に
ビッシリなのであります。そして人間が寝ている間に体から抜け出し、天
に昇って天帝(帝釈天)に報告します。この罪の重さによりその人間の寿
命が決まります。

 スネにキズを持つ人間としてはそれでは困ります。三尸の虫が天帝に
報告に行かせないよう考えたのが「庚申待」(こうしんまち)。ごちそうを食
べながら徹夜して、三尸の虫が体の中から抜け出すスキをつくらないよう
にしようというわけです。

 三尸の虫とは上尸、中尸、下尸の三匹の虫。上尸は顔のしわを作り、
髪を白くします。中尸は命を奪い精を悩ますのだということです。病魔を
追い払う青面金剛も、いつの間にか悪い虫に変わってしまいます。庚申
の申はサル、だから猿。どんどん変わっていくのが日本の神のユニークな
ところなのであります。庚申塔や青面金剛塔などはこの庚申待ちの講中
が建てた供養塔なのです。

 青面金剛の初期に建てられた石塔は、鎌倉時代の作といわれる東大
寺にあるもので、木製の六臂像、ハスの台の上に立っており、持ち物は
剣以外は失われてしまっているという。

 青面金剛像が、庚申の本尊として石塔に彫られるようになったの
は、室町時代あたりかららしい。東京・秋川市にある懸仏(1559年)
は、室町時代の1559年(永禄2)ものだといい、この懸仏には「生面金
剛」の文字が刻まれているという。

 下って江戸時代になると、庚申信仰は特に盛んになり全国的に塔
が建てられるようになりました。江戸時代前期の1654年(承応3)
に彫られた石塔は、神奈川県茅ヶ崎市の八幡社にあるもので、四臂の青
面金剛と二猿が刻まれた塔だとか。同市金山神社のものもよく似た形で
1655(承応4)年製です。

 庚申信仰が流行すると、像の形も二臂、四臂、八臂などができてき
て、持ち物も多種多様になります。三尸の虫に自分の罪を「天帝には
見ざる、聞かざる、言わざるで頼むヨ」というわけか三猿を、また
早く夜が明けて虫が体内から出られなくなるのを願ったのか、2羽
の鶏が合わせて彫られたものが多く見られます。

 三尸の虫に自分の罪を「天帝には見ざる、聞かざる、言わざるで
頼むヨ」というわけか三猿を、また早く夜が明けて虫が体内から出
られなくなるのを願ったのか、2羽の鶏が合わせて彫られたものが
多く見られます。青面金剛の文字だけの石塔も多く、また石塔だけ
でなく掛軸の像もあります。

▼【参考文献】
・「あしなか・255輯」庚申信仰特集(山村民俗の会)
・『信州の石仏』曽根原駿吉郎(文一総合出版)1980年(昭和55)
・『日本宗教事典』村上重良著(講談社)1978年(昭和53)
・『日本石仏事典』庚申懇話会(雄山閣)1979年(昭和54)
・『日本伝説大系3・南奥羽・越後』(山形・福島・新潟)大迫徳行ほか(み
ずうみ書房)1982年(昭和57)
・『日本の石仏9』(東北篇)板橋英三編(国書刊行会刊)1984年
(昭和59)
・『日本の民俗・全47巻』(第一法規出版)昭和46(1971)年〜昭
和50(1975)年
・『民間信仰辞典』桜井徳太郎編(東京堂出版)1984年(昭和59)
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)

 

……………………………………

 

【とよだ 時】 山と田園風物漫画
……………………………………
 (主に画文著作で活動)
ゆ-もぁ画制作処【時ノ坊】
山のはがき画の会

山旅通信【ひとり画展】題名一覧へ戻る
………………………………………………………………………………………………
「峠と花と地蔵さんと…」トップページ
【戻る】