山の伝承伝説に遊ぶ
山旅通信
【ひとり画ってん】とよだ 時

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▼1005号山の妖怪天狗・天狗の遺物

【略文】
この世には天狗の遺物も存在します。天狗の骸骨が、茨城県加波山
神社にありますし、鹿児島県霧島山ろくには、「天狗兵法虎の巻」
があるという。また、静岡県伊東の仏現寺というお寺には「天狗の
詫び状文」があります。天狗の爪も琵琶湖竹生島(ちくぶしま)宝
厳寺(ほうごんじ)に陳列されています。

(本文は下記にあります)

1005号「山の妖怪天狗・天狗の遺物

【本文】

いまどき天狗の話なんて…。爺サン、モウロクしているんじゃない
の?と、いわれそうです。しかし、各地の山や神社、仏閣にさえ、
「天狗」の像や、文字が目につきます。この世には天狗の遺物とい
われるものも存在します。

また天狗で有名な、山はザット数えても、富士山からはじまり、高
尾山、丹沢大山、箱根大雄山など、数多く、思い浮かべられます。
かつて、明治政府が神仏分離令を発布しました。その時、「廃仏棄
釈」の嵐が全国に吹き荒れ、仏像や、お堂など壊しまくりました。
まるでどこかの「文化大革命」のようなものだったそうです。

山梨県石割山のふもとの忍野地区に内野天狗社という神社がありま
す。第2次世界大戦中、ここの天狗のお札をお守りにすると、敵の
弾丸が当たらないといわれ、そのご利益を願って関東一円から、お
参りに来たという神社でもあります。

すると当局が、この神社が神仏習合や、仏教系のためか、「ご神体
が天狗や摩利支天とは好ましからん」と、神道系のタケミカヅチノ
ミコトという、神さまに変えてしまったということです。この神は
猛々しさが身上の、戦いの神です。このように、お上が都合のいい
ご神体に変えてしまっても、村人はいまだに天狗社、天狗社といっ
てお祭りしています。

このように、民衆の心の中には、修験道の神である「天狗」は、生
き残りつづけています。イラストのような天狗のミイラや、天狗の
爪、はては天狗の詫び状まで残っているのは、人々にこよなく愛さ
れてきた証拠ではないでしょうか。

天狗の遺物の中でも、天狗の骸骨が、茨城県加波山神社にあるとい
うし、鹿児島県霧島山ろくには、「天狗兵法虎の巻」があるそうで
す。また、静岡県伊東の仏現寺というお寺には「天狗の詫び状文」
を所蔵するといいます。天狗の爪も琵琶湖竹生島(ちくぶしま)宝
厳寺(ほうごんじ)に陳列されているそうです。

天狗とは正直なところ、修験道が盛んになり、行者たちが修行して、
呪術が向上するようになると、それに着いていけなく、落ちこぼれ
る行者が出てきます。その行者が山からふもとへ降りて行くにつれ、
村々で盗みや、かどわかしなど、悪さをするようになります。

落ちこぼれとはいっても、少しは修行をした身です。身のこなしや、
素早い動きなどは、村人とは競争になりません。そこで自分たちが
行った悪さをみんな、天狗のせいにしてしまったのではないかと考
えています。

山にすむ妖怪にはいろいろいますが、私の興味を持っているのは、
鬼や天狗、仙人などであります。桃太郎に退治される鬼も改心して、
修行を積めば天狗になれます。しかし天狗界は魔界です。この世に
怨念を残し、怨霊としての天狗になった、やんごとなきお方も数多
くいるようです。

『太平記』に出ている後醍醐天皇を始めとして、非業の死を遂げた
南朝方の要人が、北朝方の武士達に、取りついて観応の擾乱(かん
のうのじょうらん)という、内乱を起こしています。その天狗が、
さらに修行を積んで仙人といわれる人もいます。各地の山々でよく
耳にする、役ノ行者もそのひとりです。

▼【参考文献】
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50):
・『図聚天狗列伝・東日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和52)
・『図聚天狗列伝・西日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和52)
・「化け物の文化誌」(国立科学博物館)2006年(平成18)

 

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【とよだ 時】 山と田園風物漫画
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 (主に画文著作で活動)
【ゆ-もぁ-と】事務所
山のはがき画の会

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