山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼094号 「山梨県・滝子山鎮西池オタマジャクシ」

★【概略】
小金沢連嶺の最南端にある滝子山。その近くの鎮西池は鎮西八郎為
朝にちなむところという。そばの白縫神社は鎮西八郎為朝と白縫姫
を祀っている。これから冬に向かう10月も末。湧き水のちっぽけな
鎮西池にどういうわけかオタマジャクシが1匹泳いでいました。大
丈夫か?
・山梨県大月市

▼094号 「山梨県・滝子山鎮西池オタマジャクシ」

★【本文】
JR中央線大月駅(山梨県)あたりから、右手に3つのピークがな
らぶ目立つ山があります。大菩薩嶺から南下する小金沢連嶺の最南
端にある滝子山(1590m)です。滝のある沢がたくさんある山とい
うので滝子山だという。その東1キロの所に湧き水が湧く鎮西池が
あります。

水たまりのような池ですが、ここは鎮西八郎為朝にちなむところと
いう。そばに建っている白縫神社は鎮西八郎為朝と白縫姫を祀って
います。その昔平安時代、保元の乱に破れ伊豆の大島に流された為
朝を慕い、白縫姫が九州からはるばるたずねてきて、ふもとの恵能
野の村に住んだという。

また為朝自身が大島からやってきてこのあたりに住んだのだともい
われています。その後、この池から為朝ゆかりの古鏡が出てきて大
騒ぎ。雨乞いにも使われていたそうです。

江戸時代の甲斐国四郡の地誌『甲斐国志』巻之三十六の鎮西ヶ丸の
項にも次のように出ています。「此ノ嶺ノ上(ヲ※かっこ内は小さ
い文字)コンドウ丸ト云フ…鎮西(ガ※小文字)丸ハ嶺ヨリ数町(ノ
・小文字)下ニアリ平地ニシテ池アリ 今ハ埋ミテ唯ダ菰(※こも)
生(ヒ・小文字)繁レリ

土人相伝フ古(へ)鎮西八郎為朝伊豆ノ国ヨリ山峰ヲ伝ヘテ此ノ深
山ニ来リ 庵ヲ結ビテ潜居セル所ナリト云(フ) 因(ツ)テ鎮西ト
称スト云(フ) 其(ノ)辺リ御馬冷シ場・菜畠ナド云(フ)地名
アリ 又池ノホトリニ楓(ルビ・モミヂ)ノ古木アリ 九重(ノ)モ
ミヂト云フ 又鏡(ガ)沢トモ云(フ)

池中ヨリ古鏡一面ヲ出(ダ)スコトアリ 又水精ノ小(ルビ・サ)
キヲ広(ヒ)得ルコトアリ 御玉ト称ス 土人此(レ)ヲ伝ヘテ壺中
ニ納メ山中無人ノ地ニ隠シ置キ旱魃(ノ)時ハ之(レ)ヲ出(ダ)
シテ鎮西ガ池ニ浸セバ忽(チ)雨フルト云(フ)」。

また正月の14日前後に笛や太鼓の音がするという。これを天狗の囃
子といい、それを聞くとその年には必ず良いことがあるとも伝えて
います。

10月も末。湧き水のちっぽけな鎮西池にどういうわけかオタマジャ
クシが1匹泳いでいます。「これから冬になるってエのに、まず助
からんな」と初老の登山者。いわれてみればたしかに…。のぞき込
んでいた人たちもみんなひとしきり同情するのでありました。しか
し当のオタマジャクシは余計なお世話だといっているようでした。

▼【データ】
・山梨県大月市。中央本線笹子駅の北東4キロ。JR中央本線初狩
駅から4時間10分で鎮西池。白縫姫をまつる祠がある。

★鎮西池:北緯35度37分58.46秒、東経138度51分05.42秒

★【地図】
・2万5千分の1地形図「笹子(甲府)」(電子国土ポータルWebシス
テムから検索)

★【参考文献】
・『甲斐国志』松平定能(まさ)編集の甲斐国四郡の地誌。1814(文
化11年)完成:(「大日本地誌大系全48巻」(雄山閣出版)
・『角川日本地名大辞典・山梨』(角川書店)1991年(平成3)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『日本山岳ルーツ大辞典』村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・『山の神々イラスト紀行』とよた 時(東京新聞出版局)1997年(平
成9)

……………………………………

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

………………………………………………………………………………………………
山旅イラスト【ひとり画展通信】
題名一覧へ戻る