山の伝承伝説に遊ぶ
山旅通信
【ひとり画ってん】とよだ 時

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▼043号「朝日連峰以東岳の避難小屋」

【略文】
東北朝日連峰・以東岳の山腹にはコウモリ傘をひろげたような大鳥
池が、静かに水をたたえているのが見えます。
怪魚タキタロウ伝説のある池です。頂上直下の避難小屋。中は暗い
ため小屋の前の広場でテントを張りました。
日本海に夕陽が沈み、まばゆい星空の下、イカ漁でしょうかイサリ
火がやけに光っていました。

▼043号「朝日連峰以東岳の避難小屋」

【本文】
東北の磐梯朝日国立公園の中に以東岳(いとうだけ・標高1771.4
m)という山があります。山形県と新潟県境にあり、新潟県側で
は昔は朝日岳といっていたという。

その以東岳の北西山腹にはコウモリ傘をひろげたような大鳥池が、
静かに水をたたえています。山頂には高山植物の中に遭難碑がぽ
つんと一つ建っています。

ある年の8月初め、朝日連峰を鳥原山から入山、大朝日岳、以東
岳へ縦走しました。日本海に夕陽が沈みます。当時、頂上直下の
避難小屋は1階建ての暗い小屋でした。

それを避けて前の広場でテントを張ります。小屋にはだれもいま
せん。以東岳全体が貸切りです。ニッコウキスゲやミツバシオガ
マは、もう闇の中。ザックの隅に大事に持ってきたお酒を取り出
し、みんなで何回もカンパイをします。

何の物音もしません。まばゆい星空の下、イカ漁でしょうかイサ
リ火がやけに光っていました。

翌日、大鳥池のほとりへ下り、裸で日光浴。ここにはタキタロウ
という怪魚がすむという伝説があります。無駄とは思いながらも
湖面にタキタロウを探します。

かつては深山幽谷、人の姿もまれだった大鳥池もいまはキャンプ
場もあって、泡滝ダムまでマイクバスも入ります。

帰り、登山口の旅館のマイクロバスの運転手が「絶対にいる。オ
レが何メートルもあるタキタロウの姿を見てるんだ」と言い張っ
ていました。

▼【データ】
【所在地】
・山形県鶴岡市旧朝日各地区名(旧東田川郡朝日村)。羽越本線村
上駅の北東36キロ。JR羽越本線酒田駅からバス大鳥終点。歩い
て延べ9時間15分で以東岳。一等三角点(1771.4m)地形図に山
名と三角点標高と伊東小屋の文字の記載あり。

【位置】
・三角点:北緯38度20分34.71秒、東経139度50分56.52秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「大鳥池(村上)」

【参考】
・『角川日本地名大辞典6・山形県』誉田慶恩ほか編(角川書店)1
981年(昭和56)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)

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山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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山旅通信【ひとり画展】
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