山の伝承伝説に遊ぶ
山旅通信
【ひとり画ってん】とよだ 時

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▼042号 「北ア・槍ヶ岳北鎌尾根の独標」

【略文】
西へ西鎌尾根、東へ東鎌尾根、南に穂高への稜線。北に岩稜が続く
北鎌尾根。槍ヶ岳は尾根の十字路になっています。
5月の連休直前の北鎌尾根はただ一面白銀の世界でした。独標で3
日、3回目の幕営です。
イワヒバリが鳴きながら雪に出ている岩をつたわって食べ物をねだ
りによってきます。まわりは何の気配もない、まるで地獄のような
世界。生き物の気配はただお前だけだよ。

▼042号「北ア・槍ヶ岳北鎌尾根の独標」

【本文】
北アルプス槍ヶ岳は尾根の十字路の交差点。西へ続く西鎌尾根、東
へ東鎌尾根、南に穂高への稜線。そして北に急峻な岩稜が延びる北
鎌尾根です。北鎌尾根といえば、単独行の加藤文太郎を思い出しま
す。新田次郎の「孤高の人」も有名です。

5月の連休直前、JR大糸線信濃大町駅から高瀬ダム経由、北鎌尾
根に入りました。あたりは人の気配もなく、ただ一面白銀の世界で
す。雪のかかった天上沢の流れをかろうじて渡り、テントを張りま
した。

あくる日、小雪の中、尾根に取りつきます。ピーク2あたりの木に
先年遭難した人たちのザックやツェルトが、まだぶらさがっていて
気持ちが悪い。途中で一泊します。

次の日は独標まで。ここで3回目の幕営です。夕陽が双六岳のかな
たに沈んでいきます。

明日登る槍ヶ岳が正面にそびえています。「チョリチョリチョリ…
…」雪から顔を出している岩をつたわり、イワヒバリが雪の上に出
ている岩をつたわって食べ物をねだりによってきます。

行きも帰りも地獄のような所。まわりにいる生き物はお前だけか。
なつかしい古い仲間にあったような気がしました。

▼【所在地】
・長野県大町市。JR大糸線信濃大町駅からタクシー高瀬ダムから
3日で独標(積雪期)。標高点2899m独標)がある。地形図に北鎌
尾根の文字と独標の文字、標高の記載あり。

【位置】
・標高点::北緯36度21分12.02秒、東経137度39分19.85秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「槍ヶ岳(高山)」

【参考】
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・『孤高の人』(上・下)新田次郎(新潮社)1986年(昭和61)
・『単独行』加藤文太郎(二見書房)1999年(平成11)

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山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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山旅通信【ひとり画展】
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