山の伝承伝説に遊ぶ
山旅通信
【ひとり画ってん】とよだ 時

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▼007号 北ア・朝日岳五輪尾根のチングルマ

富山・新潟県境の朝日岳から蓮華温泉へと向かう五輪尾根のお花畑
のチングルマ。花のあと花柱が伸びて、羽のように毛がはえ長くな
ります。チングルマは稚児車。車輪のように咲くのが名の由来だと
いう。白い雲が浮かぶ夏空の下で羽毛がゆうゆうと風にゆれていま
す。

【本文】

真っ青な空に浮かぶ白い雲。見わたすかぎりのお花畑にはひとっ子
ひとり見あたりません。ここ富山・新潟県境の朝日岳(あさひだけ
・2418m)から新潟県側の蓮華温泉へと向かう途中の五輪尾根のお
花畑のチングルマの群落。

すでに花を終えて、長く生えた羽のような毛が、風になびく見てこ
どもが「オバケ!」と叫びました。きのう白馬岳(しろうまだけ・2
932m)で咲いていた白い可憐な花と同じものとはとても思えませ
ん。

チングルマはイワゲルマともいい、バラ科の高山植物。夏に小さい
白い五弁花をつけ、水平に開きます。花が咲いたあと、花茎がどん
どんのびだし10数センチにもなります。

たくさんある雌しべが成熟しはじめると花柱も伸びて、羽のように
毛がはえます。チングルマとはチゴグルマ(稚児車)の意味だそう
です。車の輪のように咲くのでついた名だという。

また実を稚児の髪の毛にみたてのだとも、おもちゃの風車にたとえ
たのだともいう。

この羽毛のようなチングルマの実は厳しい高山の風を利用して少し
でも遠くへ飛ぼうとする自然の知恵なのだそうです。白い雲が浮か
ぶ夏の空の下で、チングルマの羽毛はゆうゆうと風にゆれています。

「我が我が」と我を張ってひしめいているゴミゴミした都会が遠い
別世界のように感じます。ちなみにチングルマは、バラ科ダイコン
ソウ属の落葉小低木。ふつうはダイコンソウ属に入れられますが、
花茎や果実の特殊な性質があるため、とくにチングルマ属とする場
合もあるといいます。

ダイコンソウ属とする場合にはチングルマ亜属とダイコンソウ亜属
に大別されるというから面倒です。

▼【データ】
【所在地】
・新潟県糸魚川市。JR大糸線白岩駅からバス、蓮華温泉から歩いて
3時間半で五輪高原。地形図に地名と少し離れたところに三角点(1
753.6m)の記載あり。

【位置】
・経緯度:北緯36度49分44.95秒、東経137度45分27.6秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「黒薙温泉(富山)」or「白馬岳(富山)」(2
図葉名と重なる)

【参考】
・「世界の植物・5」(朝日新聞社)1975年(昭和50)
・「植物の世界・5」(朝日新聞社)1996年(平成8)
・「牧野新日本植物図鑑」牧野富太郎(北隆館)1974年(昭和49)

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山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

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山旅イラスト【ひとり画展通信】
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