【全国の山・天狗のはなし】  

▼24:群馬県の山

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▼05:相馬ヶ岳相満坊

【略文】
榛名湖の東方にそびえる相馬山は、昔から不思議な出来事おこるた
め、かつては「総魔」とも書いたといいます。山頂の黒髪神社(水
の神さま暗?神(くらおかみ)がなまったもの)があり、相馬大神
の親しみのわく石像が大いばりしています。
・群馬県高崎市・渋川市・榛東村との境

▼05:相馬ヶ岳相満坊

【本文】
 榛名山の火口原湖である榛名湖は標高1084m。その東方にそび
える相馬山は、一名黒髪山(くろかみやま)と呼ばれています。「誰
袖の秋のわかれのくしのはの黒かみ山そまなくしくるゝ」(「北国
紀行」)と、戦国時代の文明19年(1487)9月、上野の国長野陣所
を訪れた京都常光院の僧・尭恵(ぎょうえ、1430年〜没年不詳)
がこう詠んでいます。

 近世になると登るものもなくなったらしく、「上野国志」(安永
3年・1774年)には「総魔嶽、魔所なり、人登を不得」とあるく
らい不思議な出来事・怪異が多かったという。幕末からは木曾の
御嶽山の行者たちの御嶽教の修行地になっていきます。相馬山上
には、神社や石仏、大山祇(おおやまずみ)神などの石像がなら
んでいます。なかでも大いばりしているのは石造りの権現立像・
相馬大神です。

 これは慶応4年(1868)、中村(いまの渋川市)の講中が建立し
たものとか。明治14年(1881)、黒髪神社の奥宮が山頂に建てられ
ました。翌年コレラが大流行し、その時神勅があったとされ登拝
者が押し寄せたこともあったという。

 黒髪とは、雨をつかさどる神・暗?(雨冠に龍・くらおかみ)
神がなまったもので、よく雷がおこる相馬山を神として信仰の対
象したものだそうです。このあたりには源頼朝に従った千葉常胤
(つねたね)の先祖千葉常政(将)にまつわる伝説が多くありま
すが、相馬山も常政の一子相満丸が天狗とすんだところといわれ
ています。

 相馬山には「相馬ヶ岳相満坊」という天狗がいることになって
います。相満坊は、その弟(あるいは三男)の群馬三郎相満(す
けみつ)のことだそうです(市古剛『前橋風土記』貞享元年(168
4)成立、前橋の風俗・社寺を記した地誌)。一説には南部太郎光
行、南部三郎祐光の兄弟天狗だという説もあり、「南部光行祐光兄
弟」と「群馬満行相満兄弟」の名が同じ「ミツユキ・スケミツ」
でもありかなり混乱しているようです。

 弟分の相馬ヶ岳相満坊は暴れん坊天狗として知られ、かってはこ
こに登るには、17日の潔斎してからでないと異変があるといわれ
たそうです。先の『上野名跡志』には「相馬又総魔と書し」とも
書いています。明治の末、日本最後の仙人であり明治期の天狗使
いといわれた、国安普明(くにやすふみょう)の弟子が、相馬山に
入り不思議な老人に出会ったという。

 下山してから師匠にあれが相馬山の天狗だと教えられ、思い当た
るふしがあったという話もあります。相馬山頂には相満坊をまつ
る黒髪神社があって、わきの石仏群の筆頭に相満坊天狗の化身相
馬大神が口を「へ」の字に曲げて立っています。



▼榛名相馬山【データ】
【所在地】
・群馬県高崎市旧榛名町地区名(旧群馬郡榛名町)・群馬県渋川市
伊香保町(旧北群馬郡伊香保町)・群馬県北群馬郡榛東村(しんと
うむら・合併せず)との境。JR高崎線高崎駅からバス榛名湖畔・
歩いて1時間30分で相馬山。写真測量による標高点(1411m)と
黒髪神社の奥宮がある。地形図に山名と標高点の標高と神社記号(鳥
居)の記載あり。
【位置】
・標高点:北緯36度28分28.13秒、東経138度54分2.83秒
【地図】
・2万5千分の1地形図「伊香保(長野)」

▼【参考文献】
・『角川日本地名大辞典10・群馬県』井上定幸ほか編(角川書店)
1988年(昭和63)
・『古代山岳信仰遺跡の研究』大和久震平(名著出版)1990年(平成2)
・『山岳宗教史研究叢書16』(修験道の伝承文化)五記重編 (名著
出版)1981年(昭和56)
・『山岳宗教史研究叢書17』(修験道史料集1・東日本編)五来重編
(名著出版)1983年(昭和58)
・『神道集』安居院作(南北朝時代の説話集)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)
・『日本歴史地名大系10・群馬』(平凡社)1987年(昭和62)

 

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 (主に画文著作で活動)
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