【全国の山・天狗のはなし】  

▼17:岩手県の山

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▼17-01:早池峰山「遠野郷清六天狗」

【略文】
「遠野物語拾遺99」にも出てくる早池峰山の天狗。酒が好きでい
つもヒョウタンを持っていていくらでも酒が入ったという。遠野
市には、その天狗の着ていた「天狗の衣」がいまでも伝わってい
るという。袖に十六紋の菊が綾織りになっていて、胴にもヒョウ
タンの形の中に菊の紋があるということです。

▼17ー01岩手県・早池峰山「遠野郷清六天狗」

【本文】
 東北の名山として早池峰山(岩手県)は、山頂に霊泉といわれ
る池があり、これが山名のもとのなってといます。この山の麓に
は天狗の話がたくさん残っています。その一つ、村に足の速い男
がいました。村人がそろって早池峰山参りするのときも、いつも
人の後から家を出ます。

 みんながあえぎあえぎ、やっと山頂に登ってみると、いつの間
にか先に来ていて「お前たちは何をしていたのだ」と笑っていま
す。名前を清六天狗といい、花巻あたりの人で酒が好きで、さび
付いた小銭で酒代を払い、差し出す小さなヒョウタンには酒がい
くらでも入ったという。

 民俗学者柳田國男の「遠野物語拾遺99」に出てくる話です。清
六天狗は酒が好きで、いつも小さなヒョウタンに酒をつめて持ち
歩いており、酒がなくなるとさびついた小銭を払って酒を所望す
るのですが、ヒョウタンには酒をいくらつぎ込んでもみんな入っ
てしまうという。

 遠野市には、天狗が着ていた「天狗の衣」が伝わる家があり、
それは袖の小さい青い襦袢のようなもので袖に十六紋の菊が綾織
りになっていて、胴にもヒョウタンの形の中に菊の紋があるとい
う。また天狗の衣のほかに、清六の履いた下駄も大切にしていた
という。

 また清六の末孫という人がいまも岩手県花巻市にあたりに住ん
でいて、まわりの人はこれを「天狗の家」と呼んでいたといいま
す。さらにその家の娘が遠野の町でいたことがあったそうです。

 彼女は夜中にどんなに厳重に戸締まりしてあっても、どこから
か出て行って町を歩きまわり、時々人のリンゴ園に入り込みリン
ゴをとって食べているという。その後一関市の方に住んでいたと
いう話もあります。

 ある夏、早池峰山に登り、薬師岳を経由して、遠野側下る途中
の小田越えの避難小屋に泊まりました。小屋は以外と広く快適で
す。日がかたむき、誰も居ず静かです。清六は飛ぶようにしてこ
の付近を通るのだろうか。

 運よく一目でも見られればこんないいことはありません。突然
小屋の戸が開きました。こども連れの一家がドヤドヤと入ってき
ました。それからは賑やかなこと賑やかなこと。深田久弥選定の
「日本百名山」のひとつ。また田中澄江選定「花の百名山」にも
入っています。




▼【参考文献】
・『岩手の伝説』平野 直著(津軽書房刊)1983年(昭和58)
・『図聚天狗列伝・東日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和
52)
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・『遠野物語拾遺』:(『遠野物語』柳田国男(角川文庫)1979年(昭
和54)p69に収録)
・「バケモノの文化誌」(清六の遺物)下駄・衣・網袋・弓矢・掛け
軸・湯飲み茶碗。

 

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【とよだ 時】 山と田園風物漫画
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 (主に画文著作で活動)
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山のはがき画の会

 

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