『新・丹沢山ものがたり』CD本(加筆版)
第17章「雨山・伊勢沢ノ頭・秦野峠・日影山・シダンゴ山・高松山」

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▼05高松山

【本文】
 丹沢の登山用地図の下(南)のほう、JR御殿場線山北駅のす
ぐ北に、大野山と高松山がならんで記入されています。ともに標
高800mくらいの低山ながら展望もよく登山者に親しまれている山
です。


 高松山(801m)は、鍋割山から南西に、檜岳から秦野峠方面へ延
びる尾根の一角の松田町と山北町の境にあります。山頂は二等三角点と
無線中継塔があり、広く草原状になっており、大きく育った杉やヒノキなど
の間からは、富士山・箱根・西丹沢などの山々が眺められます。


 山名は、山頂付近まで松やヒノキにおおわれているからとの説があると
いう。東南山ろくにある同じ名の集落は、第2次大戦後、引揚者が入植し
たもので、その名は高松山からとったものらしい。かつてここは「濱居場
通」といったらしい。


 しかし、いま地元でこの山名をいっても通じないという。江戸時代の地
誌『新編相模国風土記稿』(巻之16)にも、「〇高松山。北境にあり(2行
書き・登廿町許(ばかり)、)是より東方に連なりて山続きなり、濱居場通と
唱ふ、其他北に小磯山・烏山・西方に丸山と字するあり」と、濱居場通の
山名が出てきます。


 その高松山の南側にある「ビリ堂」は、お堂の基礎だけが残っていて、
そばに江戸時代後期に立てられた馬頭観音の石仏、大小二体がありま
す。ビリ堂とは変わった名前ですが、このビリは、ビリっけつのことだとい
う。手前から見て最奥の、最も山奥にあるお堂なのだといいます。馬頭観
音があるということは、山仕事の荷役場として、馬たちも活躍していたに
相違ありません。


 また南西ろくにある尺里峠(ひさりとうげ)は、高松山と第六天の鞍部に
なっています。尺里峠は、別名を「虫沢峠」とか、「第六天峠」と呼んでい
たそうです。峠はふもとの尺里集落名からきています。尺里峠には、石仏
石碑があり、台座には「左 向原」などと刻まれており、かつての道しるべ
の面影が残っています。


 この集落は、昔は「久里」と書いていたらしい。先の『新編相模国風土
記稿』にも「大井庄、◎川村向原(加波牟良務加不波良)」として、○小
名、△久里(比左利)とあります。これが明治時代になり、大日本帝国参
謀本部陸地測量部が地図をつくるとき、「久」を「尺」に写し間違えてしま
い、以後「尺里」で通しているという。


 別名の虫沢峠も峠の北方の虫沢集落からきた名。この峠は両方の集
落「虫沢」と「尺里」を結ぶ、昔からの交易路でありました。この峠には、と
ころどころに石仏があって、1814文化11年(1814)などの銘がありま
す。


 峠の東側にのびる道は第六天(山)につづく道。第六天山頂には、昔
は第六天の立派な社(やしろ)があったという。第六天とは、神道では天
神六代目に相当する面足尊(おもだるのみこと)、惶根尊(かしこねのみこ
と)の夫婦神をあてています。


 しかし、そもそもこの神は仏教で信奉している魔王のひとつで、欲界六
天の第六、すなわち欲界天の最高所に宮殿を備えた天魔なのだそうで
す。その姿といったら、身長が2里というから、7.86キロ(約7860m)とい
う途方もない大きさ。


 そのうえ寿命ときたら、人間の1600歳を一日として、1万6千歳もの長
寿だというから、仰天しひっくり返ります。また他人の楽しみを自由に自分
の楽しみにかえる力を持っており、他化自在天(たけじざいてん)というの
が本名らしい。あくまで得体の知れない神サマです。


 この神は修験者(山伏)が信奉していた仏神で、分布するのは中部地
方から関東地方にかけて多く、とくに相模国でよく見られます。丹沢の山
は修験者によって開かれた山が少なくありません。それだけに修験者が
信奉したこの第六天を福の神として、村人たちが篤く信奉したらしいとい
う。


 ある年の11月、シダンゴ山側から高松山に向かいました。西ヶ尾山ま
での途中、ハンターに出会いました。獲物はイノシシらしい。せわしなく動
き回る猟犬を横目に高松山西肩から無線塔のある山頂へ。広場は当時、
まわりの樹木が育ちすぎて展望はききませんでした。二等三角点を確
認。休日のせいか、登山者がたくさんいます。低山とはいえ、さすがにみ
んなに親しまれているらしい。



▼高松山【データ】
【所在地】
・神奈川県足柄上郡山北町。御殿場線山北駅の北4キロ。御殿場線東
山北駅から尺里(ひさり)集落を経てビリ堂経由2時間で高松山。二等三
角点(801.2m)がある。
【位置】
・三角点:北緯35度23分22.53秒、東経139度6分8.97秒
【地図】
・旧2万5千分1地形図名:山北。



▼【参考】
・『角川日本地名大辞典14・神奈川県』伊倉退蔵ほか編(角川書店)
1984年(昭和59)
・『かながわの峠』植木知司(神奈川合同出版)1999年(平成11)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『新編相模国風土記稿』(巻之16・村里部 足柄上郡巻之5 大井
庄):大日本地誌大系19「新編相模国風土記稿1」編集校訂・蘆田伊人
(雄山閣)1980年(昭和55)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)

 

 

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