『新・丹沢山ものがたり』CD本(加筆版)
第15章「三国山−不老山」

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▼03:いい湯だな♪・湯船山

 西丹沢・不老山から西に、山中湖・三国山方面へ延びる尾根上に
湯船山という山があります。いい湯だな♪ゆったりと、なんとなく
いい気持ちになりそうな山の名前です。それもそのはず、南麓の静
岡県駿東郡小山町湯船集落の名前からついたものといいます。

 古くは「湯船官林の頭」といったそうで、北側の神奈川県山北町
水ノ木方面では三日月山といっていたそうです。いまの三日月山は
この山の南にある丸山をさしています。三日月山とはいい名前です
ね。湯船山の名の元の湯船集落は、その昔ボロボロに朽ちた湯ぶね
が発見されたので「湯船」の集落名になったという。

 ここはかつては湯量も豊富な温泉地でしたが、江戸時代中期の宝
永4年(1707)の11月、富士山が大噴火。宝永山が出現してから
は湯量も減り泉温も下がってしまったという。現在では1軒の湯船
温泉「あさかえ湯」があるだけだという。


 足柄山の金太郎は、この温泉の東の中島地区の生まれだとされ、
母の山姥がよくここに湯治に来たという。いま近くに金太郎公園が
あり、酒田金時をまつった金時神社もあります。山姥は温泉に夕方
来て、朝になり家に帰っていたというので、あさかえ湯と呼ばれ、
この温泉の源泉地になっています。

 また、近隣の村人たちがこの湯宿に泊まり、翌朝に帰ったからと
の説もあります。ここには「湯船字あさかえ」と記した古文書もあ
るといういうから古くからの土地に違いありません。ちなみに金時
神社拝殿のあるところは、坂田金時の子孫の家があったところだそ
うです(『駿河記』)。

 また金太郎を産んだ山姥の名は八重桐といい、ここで育てられ足
柄峠を通りかかった源頼光に見出されて家来になったとされていま
す(小山町役場商工観光課)。


 ある年の2月、雪の不老山から湯船山経由、三国山、菰釣山を目
指しました。ことしは雪が深い。途中急坂のデブリなどでラッセル
に手間取ります。湯船山手前で日も暮れかかりました。場所を選ん
でテント泊。

 次の日は南風が吹いています。湯船山あたりからやたらと暖かく、
雪が溶けだし登山道はグチャグチャです。おまけに雨足が強くなり
まるで服を着たまま温泉に入っているようです。

 これ、春一番じゃないのか?暖かい風と大雨、みるみる雪は溶け
だし、大きなブナの木は雨水を集めてまるで滝のようです。これは
たまりません。明神峠から逃げ下りたことがありました。あの時は
まさに湯船山でありました。


▼【データ】
山名:湯船山(ゆぶねやま)
【異名・由来】
・由来:南麓の湯船の集落で、昔、朽ちた湯ぶねが発見されて湯船集
落の地名が生まれ、その集落名にちなむ。

【所在地】
・神奈川県足柄上郡山北町と静岡県駿東郡小山町の境。御殿場線駿河
小山駅の北西6キロ。御殿場線駿河小山駅から歩いて4時間10分で
湯船山。二等三角点(1041.0m)がある。

【位置】
・湯船山:北緯35度24分5.18秒、東経138度57分26.85秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「駿河小山(甲府)」


▼【参考】
・【静岡県駿東郡小山町広報】
・『角川日本地名大辞典14・神奈川県』伊倉退蔵ほか編(角川書店)
1984年(昭和59)
・『角川日本地名大辞典22・静岡県』小和田哲男ほか編(角川書店)
1982年(昭和57)
・『かながわの山』植木知司(神奈川合同出版)1981年(昭和56)

▼03:いい湯だな♪・湯船山

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