『新・丹沢山ものがたり』CD本(加筆版)
第14章「大棚−鉄砲木ノ頭」

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▼04:鉄砲木ノ頭

【略文】
西丹沢の菰釣山から三国山への尾根にある鉄砲木ノ頭。山頂からは
山中湖と目前の富士山の展望が抜群です。石祠のある山頂には別名
の明神山の標注しかありません。明神山の名は、山頂の祠・山中明
神からの山梨県側の呼び方です。
・山梨県山中湖村と神奈川県山北町との境。

▼04:鉄砲木ノ頭

【本文】
 普通西丹沢縦走するとき、畦ヶ丸、菰釣山から南下、高指山を経
て富士山を見ながら山中湖畔平野へ降りてしまいます。しかし、も
う一歩、せっかくの雄大な展望のつづきを歩くのも一興です。切通
峠から登りきると鉄砲木ノ頭(てっぽうぎのあたま)です。


 木一本生えていない坊主頭のような山頂に山中諏訪神社奥宮の石
祠が建っています。ここのピークは、たび重なる富士山の噴火によ
る火山灰の堆積と浸食によって生まれたのだそうです。目の前に広
がった山中湖とすそ野を広げた富士山の景色にお弁当を広げる人も
多い。最近はハングライダー愛好者が多いとか。


 大分前、丹沢の本を出版するにあたり、東丹沢仏果山から大山、
塔ノ岳、蛭ヶ岳、檜洞丸経由で1週間をかけ、ほぼ全山縦走をした
ことがありました。


 あと2日で達成できるという日に、ここ鉄砲木ノ頭にさしかかり
ました。1月ということでこの山行は最初から最後まで雪の中。鉄
砲木ノ頭は風をよける場所もなく、雪さえ吹き飛ばされて、ただ凍
てついた地面に氷が張りついた祠だけがありました。


 吹き飛ばされそうな風に祠に彫ってある文字など観察もままなら
ず、三国山方面へと避難しました。その後何度もこの山を通り訪れ
ているのですが、あの凍りついた石の祠と地面の色が一番印象に残
っています。


 ところで、この山頂の標注には「明神山」の文字だけがあり、鉄
砲木ノ頭の文字はひとつもありません。もしかして別の山に来てし
まったかなと勘違いするほど。


 明神山とは山梨県山中湖方面の人たちの呼び方で、別名になって
いるのだとか。山頂の石祠の山中諏訪神社は別名「山中明神」で、
ここからつけられた山名。里宮は山中湖の西岸山中集落にあり、創
建は966年(康保3)といわれる古社とあります。ホントカイナ。
それからグーンと下って天文21年(1552)に武田信玄が戦勝を祈
願して1間社流造りの本殿を再建したと伝えられています。


 ところでここの明神山と、湯船山の西方の明神山・明神峠は関係
があるらしい。山中諏訪神社には次のような言いつたえがあります。
「古文書では、往昔、明神山頂に小祠を祀るとあり、これが現在の
御所に鎮座する諏訪神社奥宮とされている。天保12年(1841)、甲
斐国都留郡平野村の名主であった長田勝之進は、相模国小田原城主
(第8代藩主)の大久保加賀守忠愨(おおくぼただなお)と検地の
際、甲斐国の為に土地拡張を企画して、現存の明神山頂より山北町
の明神峠に奥宮を変遷した。のち神社関係者及び山中の有志諸彦
(しょげん・多くの優れた男性)が鎮座地の真相を認めて、現在地に
諏訪神社奥宮として再建された」とのことです。


 一方、神奈川県側で呼ぶ「鉄砲木ノ頭」の名前については、この
あたりは良材がとれたこともあり、伐採された木材を運ぶために、
沢のせきを利用して一度に木材を下流に流した「鉄砲水」からきた
のではないかといわれていますがはっきりしていないようです。


 蛇足ながら鉄砲木ノ頭の北にある切通峠。ある年の7月、そこか
ら東に下った沢の源頭(林道の先端)で野宿をしたことがありまし
た。日帰りの山行で、もしなにかのトラブルで下山できないときの
訓練です。


 梅雨時ということもあって夕方雨が降り出しました。しばらくし
て一瞬晴れ間が出ました。同行の人たちがなにか騒いでいます。ホ
タルです。ホタルが乱舞しているのです。思い思いの方角に飛ぶホ
タル。


 それぞれに弧を描きながら点滅する光は、まるで夢の中のよう。
誰もがただただあっけにとられて見ているだけでした。運がよかっ
たのでしょうか。あの林道の先端はいまどうなっているのでしょう
か。



▼【データ】
【所在地】
・山梨県南都留郡山中湖村、神奈川県足柄上郡山北町との境。富士
急行富士吉田駅からバス終点平野停留所下車、さらに歩いて1時間
30分で鉄砲木ノ頭。三等三角点(1291.0m)と山中諏訪神社奥宮の
祠がある。地形図に三角点の標高の記載あり。
【地図】
・旧2万5千分の1地形図:「駿河小山(甲府)」&御正体山(甲府)
(2図葉名と重なる)。


▼【参考文献】
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)
・「山中明神・奥宮前宮資料」。

 

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