『新・丹沢山ものがたり』CD本(加筆版)
第13章「畦ヶ丸−菰釣山」

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▼06:大界木山・平指山

【本文】
 大界木山(だいかいぎさん・やま・1246m)は、丹沢山西部、城
ヶ尾峠の北東にある山。畦ヶ丸からモロクボ沢の頭に出て、甲相国境尾
根(山梨、神奈川の県境)を菰釣山方面に縦走する時は必ず通る山で
す。江戸時代は幕府領になっていて、木材の伐採は禁止だったため、こ
のあたりの山の木は「大留木」、「丹沢御木」ともいわれていました。甲州
側では高指山(たかざすやま)といい、江戸時代の地誌『甲斐国志』には
高叉(ざす)山と記されています。


 この山の道志側には、大指(おおざす)とか、大室指(おおむろざす)と
いう地名がたくさんあります。「指」は、昔の開墾地であろうという。開墾し
て高いところまで広げていった山、高指山はそんな開墾地の山ではない
か(『かながわの山』)。道志川から分かれて山梨、神奈川の県境の尾根
にのびる室久保沢(モロクボ)の上流に、ノマノ沢(沼ノ沢)という沢が大界
木山、浦安峠へ突き上げています。


 そのほとりに沢名通り、小さい沼があります。この沼のほとりに、ひとき
わ大きなケヤキの木があったとの道志村のお年寄りの話があります。ケヤ
キといえば江戸時代、この山で杉やヒノキなどとともに、伐採を禁じられて
いた村人あこがれの名木。地名、山名に使われても不思議はないようで
す。解説書にも大界木山は「でっかい木」の意味だとか、また大きなケヤ
キの木がある山だとするものもあります。すると「カイギ」はケヤキの意味で
しょうか。


 先の『甲斐国志』巻之三十七に、「……是レ(山中湖側)ヨリ東道志村
ニ入ル、……(中略)……。板橋・善木ノ南ニ出ヅ、……。三ヶ脊山ニ至
ル、入会山ヨリ峯分レテ一里余東ニ行キテ高叉山(タカザス)(※大界木
山・高指山)ニ至ル、此ノ間相州小田原ヘ出ヅル間道アリ、サカゼ(※三
ヶ瀬川)沢通ト云フ、……。高叉(※大界木山)ヨリ丑(※北北東)ニ峯ツヾ
キ、殿ムレ山(※鳥ノ胸山)ト云フ峯……。殿ムレ山ヨリ中ノ叉峯(ザスミネ
・※平指山か?)ヲ過ギ大群山ニツヾク」と出ています。


 また平指山(ひらざすやま)は、大界木山から北側道志村方面へのび
る尾根上の山(標高1146m)。甲相国境尾根からは道志村に外れた山
です。


 昔はこの一帯はヤブがひどく、縦走するには相当難儀をしたらしい。
1953年(昭和28)に出版された道志村の村史『道志七里』に、当時の畦
ヶ丸山行記が乗っています。それによると、「この頂(いただき)に分け入
る城ヶ尾峠からの主稜には、かそけき踏み跡すら見出しかねるすヾ竹の
一大群落帯に飛び込んでゆく。


 その高さ数尺に及ぶ尾根通しのそれは、ガサガサと顔を払い衣服に
当たる笹と潅木との猛闘が、一つの山瘤を越して大界木山の登りにかヽ
ると益々ひどくなる。眺望は勿論道志川向こうの山嶺すら漉かし見ること
も許されない。(※大界木山の)頂からこの群叢林には尚蔓草とイバラが
からみ出しここで東方に急曲する尾根通しの進路など、すべて磁石と地
図に按じつつ行動せねばならない。


 (※大界木山の)頂を過ぎるとボサは愈々(※いよいよ)猛威を振るい、
一歩一歩襲い来るジャングルへ、脚先から頭からねじ込み潜り込むの薮
漕ぎのテクニックを動員しても、何時しか足裏は土から離れて潅木の小
枝の上を歩いているのに驚かされる。


 北面室窪沢頭(※モロクボ沢の頭)一帯は檜の植林地であるが、こヽも
蔓草とボサのハンモックである。」とつづいており、並みの苦労でなさそう
です。こうした城ヶ尾峠から大界木山まで1時間10分、そこから畦ヶ丸
まで2時間、計3時間10分かかっています。ちなみにいまのコースタイム
は1時間10分です。



▼大界木山【データ】
【所在地】
・神奈川県山北町と山梨県道志村との境。JR御殿場線山北駅の
北北西15キロ。小田急線新松田駅からバス、大滝橋停留所下車、さ
らに歩いて畦ヶ丸を越えて4時間30分で大界木山山。写真測量に
よる標高点(1246m)がある。
【位置】
・大界木山標高点:北緯35度28分45.1秒、東経139度00分58.75秒
【地図】
・2万5千分1地形図名:中川



▼【参考文献】
・『甲斐国志』(松平定能(まさ)編集)1814(文化11年):(「大日本地誌
大系」(雄山閣)1973年(昭和48)所収
・『角川日本地名大辞典14・神奈川県』伊倉退蔵ほか編(角川書店)
1991年(平成3)
・『かながわの山』植木知司(神奈川合同出版)1981年(昭和56)
・『丹澤記』吉田喜久治(岳(ヌプリ)書房)1983年(昭和58)
・『道志七里』伊藤堅吉(山梨県道志村役場)1953年(昭和28)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)

 

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