第3章「丹沢表尾根」

…………………………………

▼04「丹沢表尾根・三ノ塔とヒメハナワラビ

【略文】
三ノ塔は南ろくでは「菩提山」とも呼んだという。また北側では
「水沢の頭」といいました。三ノ塔の名前は、横野集落の唐古神
社の神燈が峰の上に灯った順に一の燈(塔・神社)、二ノ燈(塔)、
三ノ燈(塔)とつけたという。この山頂には、小さい(ヒメ)花
の形のワラビ(胞子葉)のヒメハナワラビがあり、珍種だといい
ます。

▼04「丹沢表尾根・三ノ塔とヒメハナワラビ

【本文】
 三ノ塔は、丹沢表尾根、二ノ塔かつづいたピークで、南ろくの菩提集
落の上にそびえるので「菩提山」とも呼んだという。また北側の諸戸、札
掛など集落では藤熊川支流の水沢の上にあり、「水沢の頭」といいまし
た。三ノ塔の名前は、南ろくの横野集落の唐古神社の縁起からきている
ようです。

 その昔、毎晩のように山に何か光るものが現れたといいます。
村人が不思議に思って見ているとと、突然天空に大きなご神燈が
輝きました。次に、山の上のピークに1つ、そして別のピークに
もう1つの神燈が灯りはじめました。

 村人たちは驚き、最初のご神燈(一ノ燈)が灯った場所を神聖
なところと感じて、神社を建てました。それがいまの秦野市横野
にある加羅古(からこ・唐子・唐古)神社なのだそうです。

 そして、それぞれ神燈が灯ったピークを二ノ燈、三ノ燈といい
ました。それがいつか二ノ塔、三の塔の字を当てるようになった
のだそうです。加羅古神社の縁起に残るお話です。

 なお別の説としてこんなのがあります。いつのころからか、山仕事で山
に入ったむら人の休憩所として、「一の所・二の所・三の所」というように
なりました。そしてこの「二の所」というのを「二のト」となり「二ノ塔」になっ
たともいわれています。さらに、入峰した修験者たちが休憩する第3の所
「三のト」が三ノ塔になったという説もあります。

 またこんな人もいます。二ノ塔、三ノ塔には、塔ノ岳のように「お塔」と
呼ばれる、信仰の対象になった目立つ「立岩」がありません。ここは山そ
のもを堂塔伽藍と見たててこの名があるのではないかというのです。また
は高須茂(登山家、民俗学者 1979年没)がいっているように、「塔はタオ
で、鞍部のこと」ではないかというのは、『丹澤記』吉田喜久治の説です。

 だだっ広い三ノ塔にヒメハナワラビというちょっと変わった草
があります。春に芽生えて秋に枯れる夏緑性シダで高さ10〜20セ
ンチ。茎のような葉柄はふたつに分かれ、扇形をした葉っぱをつ
けたものと、丸い花のようなものをつけたものになっています。

 これは栄養葉と胞子葉というもので両方とも葉っぱだそうです。
扇形の栄養葉は1回羽状(軸の左右に小葉がならぶ)の形。葉の
柄が途中から二又に分かれているのをヘビのふたつに分かれた舌
に見立ててヘビノシタの異名もあります。

 この仲間はハナヤスリ科。垂直に立った胞子葉がヤスリに似て
おり、見たところ花のようなのでそんな名がついたのだそうです。
小さい草だから「ヒメ」。当然オオハナワラビ、ハナワラビもあり
ます。ハナワラビはフユノハナワラビともいい、こちらは春に芽
生え秋に枯れる冬緑性。

 これはヨーロッパでは霊草とされ、魔女が月夜に摘んで呪術に、
またこの草の霊力を借りて錬金術師が水銀を純銀に変えるのに使
ったそうです。ナツノハナワラビというのもあるそうです。
・ハナヤスリ科オオハナワラビ属の夏緑性シダ(異名・ヘビノシ
タ)


▼三ノ塔【データ】
・三ノ塔(さんのとう)
【所在地】
・神奈川県秦野市。小田急小田原線秦野駅の北北西8キロ。小田
急秦野駅からバス、ヤビツ峠から歩いて40分で旧ヤビツ峠。また
1時間45分で二ノ塔、さらに15分で三ノ塔。三等三角点(1204.8
m)ベンチと、休憩所がある。
【位置】
・三等三角点:北緯35度26分11.64秒、東経139度11分29.58秒
【地図】
・2万5千分の1地形図「大山(東京)」


▼【参考文献】
・『角川日本地名大辞典14・神奈川県』伊倉退蔵ほか編(角川書店)
1984年(昭和59)
・『かながわの山』植木知司(神奈川合同出版)1981年(昭和56)
・『古代山岳信仰遺跡の研究』大和久震平(名著出版)1990年(平成2)
・『植物の世界・12」(朝日新聞社)1996年(平成8)
・『世界の植物・10」(朝日新聞社)1977年(昭和52)
・『丹澤記』吉田喜久治(丘書房)1983年(昭和58)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・『日本歴史地名大系・神奈川』平凡社1990年(平成2)
・『牧野新日本植物図鑑」牧野富太郎(北隆館)1974年(昭和49)