冬 編 1月
………………………………………………
●目次
第1章 なんとなく 野山の草木も 正月気分
・(1)睦月(033) ・(2)門松(033) ・(3)マツ(034・035・036-1)
・(4)ミヤマフユイチゴ(036-2)
第2章 枯れ野原 凍てつく道に お地蔵さん
・(1)地蔵さま(037) ・(2)だるま(038) ・(3)サギ(039)
・(4)ヤナギ(040) ・(5)ミズキ(041) ・(6)ビワの花(042)
第3章 セリ ナズナ 七草の粥 子は残し
・(1)七草(043) ・(2)ナズナ(044) ・(3)ダイコン(045)
・(4)カラス(046) ・(5)スハマソウ(047) ・(6)ツグミ(048)
第4章 小春日和 道ばたで迎える 庚申塔
・(1)庚申塔(049) ・(2)ナンキンハゼ(050) ・(3)イラガのまゆ(051)
・(4)シモバシラ(052)
第5章 霜焼けに かかって赤い? 天狗の面
・(1)天狗(053) ・(2)アオキ(054) ・(3)竹馬(055)
・(4)シャボン玉(056) ・(5)オナガ(057) ・(6)野菜のこま(058)
…………………………………
第1章 なんとなく 野山の草木も 正月気分
冬編(1月)・第1章「なんとなく 野山の草木も 正月気分」
(1)睦月
1月を睦月(むつき)とも呼んでいます。これは本当は明治5年
まで使っていた旧暦(太陰暦)の呼び方ですがいまの暦で見通用し
ています。むつきは「実月」のことで稲の実をはじめて水に浸す月
(旧暦1月)の意味だという。
如月、弥生、卯月など1年12ヶ月の異名はすべて「稲禾生熟の次第
を逐いて名づけしなり」と「大言海」の国語学者・大槻文彦は説い
ています。
そういえば、万葉集にも「むつき」という言葉が出てきます。「牟
都奇(むつき)立つ 春の初めにかくしつつ 相(あい)し笑みて
ば時しけめやも」(大伴家持)とか、「武都紀(むつき)立ち春の来
らばかくしこそ梅を招(を)きつつ楽しき終へめ(大弐紀の郷)な
どの歌がそれ。
そのほか、正月はみんなが一緒になって祝い、仲良くする「睦び
月」が語源だとする説。これに対して、一年のはじめの「もと(元)
つ月」が略されて、むつきになったとの説があります。元ははじめ
の意味だそうです。
さらに、春陽が発生しはじめるという意味の「生む月」がなまっ
たという説などもあります。(033-1)
………………………………
冬編(1月)・第1章「なんとなく 野山の草木も 正月気分」
(2)門松
いまはあまり見られませんが、かつて門松は正月とは切っても切
れないものでした。それは正月さまの神まつりの祭場であることを
示すために、家の門口にたてます。また、山の上からおりてくる年
神さまの目じるしになるとも考えられていました。
門松のルーツについてはいろいろな説があります。中国の唐の時
代のやり方が日本に伝わったのだという人、昔から、宮中にそのし
きたりがないところから、貧しい家がきたない所を隠すためにたて
たのだという人もいます。
また、もと皇居の門前に鉾(ほこ)をたてていたのが変化したの
だという説、スサノオノミコトが巨旦将来(こたんしょうらい)と
いう人を殺した時、お墓にたてたのが門松のもとになったのだ、と
の説もあります。
門松のかわりに、家の中にクリスマスツリーのような大きな松を
たてる所や、神棚に小さな松を飾る所もあります。
昔は、松のかわりにサカキをたてていました。ところによっては、
シキミという木をたてたりしましたが、平安時代の延久・承保年間
(1069〜1077)ころからだんだん松に変わってきたそうです。
門松をたてない所もあります。群馬県の六合むらでは先祖が、落
人として住み着いたのが元旦のため、門松をたてません。でもどう
いうわけか、門松という地名があったり、松の木が生えています。
しかしいまでは一般家庭では、印刷した門松や略式の門松で代用
するようになってきました。(033-2)
…………………………………
冬編(1月)・第1章「なんとなく 野山の草木も 正月気分」 (3)マツ |
…………………………………
冬編(1月)・第1章「なんとなく 野山の草木も 正月気分」 (4)深山の苺・ミヤマフユイチゴ |
…………………………………
第2章 枯れ野原 凍てつく道に お地蔵さん |
冬編(1月)・第2章「枯れ野原 凍てつく道に お地蔵さん」 (1)地蔵さま |
…………………………………
冬編(1月)・第2章「枯れ野原 凍てつく道に お地蔵さん」 (2)だるま |
…………………………………
冬編(1月)・第2章「枯れ野原 凍てつく道に お地蔵さん」 (3)サギ |
………………………………
冬編(1月)・第2章「枯れ野原 凍てつく道に お地蔵さん」 (4)ヤナギ |
…………………………………
冬編(1月)・第2章「枯れ野原 凍てつく道に お地蔵さん」 (5)ミズキ |
…………………………………
冬編(1月)・第2章「枯れ野原 凍てつく道に お地蔵さん」 (6)ビワの花 |
………………………………
第3章 セリ ナズナ 七草の粥 子は残し |
冬編(1月)・第3章「セリ ナズナ 七草の粥 子は残し」 (1)七草 |
…………………………………
冬編(1月)・第3章「セリ ナズナ 七草の粥 子は残し」 (2)ナズナ |
…………………………………
冬編(1月)・第3章「セリ ナズナ 七草の粥 子は残し」 (3)ダイコン |
…………………………………
冬編(1月)・第3章「セリ ナズナ 七草の粥 子は残し」 (4)カラス |
…………………………………
冬編(1月)・第3章「セリ ナズナ 七草の粥 子は残し」 (5)スハマソウ( |
…………………………………
冬編(1月)・第3章「セリ ナズナ 七草の粥 子は残し」 (6)ツグミ |
…………………………………
第4章 小春日和 道ばたで迎える 庚申塔 |
冬編(1月)・第4章「小春日和 道ばたで迎える 庚申塔」 (1)庚申塔 |
…………………………………
冬編(1月)・第4章「小春日和 道ばたで迎える 庚申塔」 (2)ナンキンハゼ |
…………………………………
冬編(1月)・第4章「小春日和 道ばたで迎える 庚申塔」
(3)イラガのまゆ
木枯らしが吹き荒れ木の葉もすっかり落ちてしまいました。そん
なカキの木の枝のまたに1センチくらいで、白地に太い黒い帯があ
る小さな卵のようなものがついています。
イラガのまゆです。まるでスズメの卵のようなので「スズメノタ
マゴ」の異名もあります。またスズメノマクラ、スズメノショウベ
ンタゴ、スズメノショウベンダマなどの方言もあります。
まゆは固く指で押してもなかなかつぶれません。中にはイラガの
前踊(ぜんよう・さなぎになる前に食べることをやめて体が太く短
くなった幼虫)が体を縮めて入っていて春の来るのを待っています。
これは釣りの餌として利用され、タマムシという名で売られていま
す。
イラガといえば春から夏にカキの木などの葉の裏にビッシリと行
儀よくならんで卵を産めつけられ、幼虫(イラムシ)になると別々
に行動し葉を食べまくります。
漢字で刺蛾(いらが)と書くようにとげがあり猛毒があり、触っ
たりするとビビーッとしびれ飛び上がるほど痛みが走ります。
幼虫は秋になると糸をはいてまゆをつくり越冬します。やがて春
になるとまゆの中でさなぎになり、穴をあけて外に出て羽化します。
上部に穴のあいたまゆの形が桶のようなのでスズメノショウベンタ
ゴというのだそうです。
このイラガのまゆを利用して子育てをする昆虫がいるというので
す。イラガイツツバセイボウという蜂でイラガがまゆをつくるとこ
の蜂が産卵。幼虫はイラガのさなぎに寄生して成長し羽化します。
自然は厳しいものです。
この穴のあいたところを吹くと音が出て笛にして遊べます。イラ
ガのまゆはカキ、ナシ、ウメ、サクラ、ヤナギなどにもつきます。(051)
…………………………………
冬編(1月)・第4章「小春日和 道ばたで迎える 庚申塔」
(4)シモバシラ
冬の山道を歩きます。日陰は大きな霜柱ができています。靴で踏
むとザクッとつぶれます。そばに枯れた草の茎に氷がくっつき、ま
るで霜柱のようになっている植物があります。シモバシラという野
草です。
この草は、冬、冷え込んだ時に土の中の水分が、枯れた茎の導管
を伝わって凍り、茎をやぶって外に立て氷結が霜柱のようになりま
す。この形からユキヨセソウ(雪寄草)の名もあります。
シモバシラは、関東から西の太平洋側の山地と、四国、九州、沖
縄にも分布しているといいます。沖縄でも凍って霜柱になるのかし
ら?シモバシラ属のシモバシラという種は、日本特産の草。
シモバシラ属のほかの種は中国にもう1種あるだけだそうです。
何とも貴重な草ではありませんか。みごとに発達した氷結は根元か
ら高さ60センチ、横は10センチにも伸びることがあるといいます
からスゴイものです。
シモバシラの草は山の木かげに生え、茎が堅くて4角形、高さは
40センチ〜60センチ。葉っぱは対生(茎に向き合ってつく)で、
短い柄があり長さ6〜20センチ、うすい洋紙質でうちに腺点があ
ります。
9月から10月ごろ、枝の上の方の葉のつけねから6センチ〜9
センチの総状花序(ヤナギランやフジなどのように、軸の下の方か
ら順に枝が出て、それぞれの先に花がついた形)を出し、小さい白
い花が2個ずつ対になってつき、一方向に向かってたくさん咲きま
す。みんな同じ方を向いているのですからそのお行儀は見事です。
花には短い柄があり唇形をしています。小さな唇が、同じ方向を
向いてズラーッとならぶのですからすごい。がくは長さ9ミリ、花
冠も長さ7ミリ上。唇は浅く2つに、下唇は3つに裂けています。
雄しべは4本。長く、花の外に突きだしていて、下の2本がすこし
長くなっています。
シモバシラのようなシソ科のものは他にも同じように冬、氷結が
つき、これらをひっくるめて「霜柱草」と呼んでいるそうです。
ちなみにシモバシラ属は、英語ではケイスケア属といいます。ケ
イスケアは江戸末期から明治時代にかけて知られた、日本で初めて
の理学博士で植物学者の伊藤圭介の名前にちなんでつけられたのだ
というからすごい!ですよね。
もう20年も前のある年の冬、家族で丹沢の雨山峠から鍋割山へ
歩いていました。こんな所に?と思うほどのくさり場があります。
そこを越えて、もう1度の登りに入るきわにシモバシラ(枯れた茎
だったのでもしかしたらシソ科の他のものかも知れません)があり
ました。結構見事なものでした。
図鑑をみて、名前は知ってはいましたが、実際に見たのはその時
が初めて。さっそく子どもたちを呼び、いっぱしに受けうりの説明
をしました。自慢げに話すオヤジに、息子はつまらなそうな顔をし
ていました。関東地方から西・四国・九州に分布
・シソ科シモバシラ属の多年草(052)
…………………………………
第5章 霜焼けにかかって赤い? 天狗の面
冬編(1月)・第5章「霜焼けにかかって赤い? 天狗の面」
(1)天狗
山の中で天狗の相撲場、天狗松(スギ)という所がよくあります。
相撲場は、山の茂みの中で、10坪以上もの砂地やコケの生えた所。
いかにも天狗が相撲をとって遊ぶような場所です。
天狗松(スギ)は、マツやスギの枝が二また分かれたり、こぶが
あったりして、腰掛ける具合いのよさそうなマツやスギのこと。天
狗が休んだり、遊んだりするのに都合がよいというわけです。また、
天狗のすみかだともいいます。
鼻の高い赤ら顔の天狗は、日本だけの想像の妖怪。中国の昔の本
に「流星は下りて地に止まるや狗(いぬ)に類す」とあり、天を走
る狗・天狗とは流星のことでありました。
それが日本に入り、日本書紀には天狗(あまつきつね)と出てき
ます。天狗が今のような形になったのは、鎌倉時代以降、修験道が
発展してからだといわれています。(053)
…………………………………
冬編(1月)・第5章「霜焼けにかかって赤い? 天狗の面」
(2)アオキ
薄す暗い林の中で、赤いアオキの果実が色づいています。赤だの、
青だの、黄だのと、信号のようですが、れっきとした植物の話です。
アオキは青木、葉から幹、枝までも青く、そこから名前がきてい
ます。属の名の「アウクバ」はもともと青木葉の意味。さすが日本
特産、外国でもアオキの名前で通ります。
アオキは北海道から沖縄まで分布しており、葉に白や黄色の斑
(ふ)の入ったものなど園芸品種がたくさんあり、欧米にも輸出し
ています。
アオキの葉は薬用にも使われ、生の葉をもんだり、火にあぶった
りして、ドロドロにしてはれものに貼ったり、やけどにも貼るなど、
消炎や鎮痛の効果があるといわれています。これはたぶん青葉アル
デヒドのような抗菌成分があるせいではないかといわれていますが
はっきりしません。
・ミズキ科アオキ属の常緑低木(054)
…………………………………
冬編(1月)・第5章「霜焼けにかかって赤い? 天狗の面」
(3)竹馬
よく「竹馬の友」といいます。竹馬に乗って遊んだ頃からの友、
幼な友だちのこと。それほど子供の代表的な遊びです。昔からどう
いうわけか、冬になると竹馬に乗って遊びました。
初めはペシャ馬に乗り、うまくなるにつれ、足掛けを高くし、駆
け足、並み足と、歩き方にも変化をつけます。さらには、ちり取り、
鉄砲かつぎ、かつお節けずり、ひっかけ、鬼ごっこ、石けり、陣取
りなどもします。
そもそも竹馬のルーツは、室町時代、田楽で用いた高足。高足は、
十字形の棒の横木に乗って飛びはねるもの。それが江戸時代になっ
てから今の形に。
それとは別に、葉のついた竹に手綱をつけ、馬に見立てまたがっ
て走りまわるのも竹馬です。平安時代からあった遊びで、江戸時代
に入るとこれに馬の首と車をつけ、春駒と呼び遊びました。(055)
…………………………………
冬編(1月)・第5章「霜焼けにかかって赤い? 天狗の面」
(4)シャボン玉
これも知らない人はいない遊びの一つです。シャボンとは石けん
のこと。ポルトガル語のサボンが語源で、日本に「シャボン」が最
初に渡来したのは室町時代。シャボン玉が文献に初めて載ったのは
1680年、江戸前半の洛陽集という本。
当時、石けんは貴重品。シャボン玉遊びなど、そう簡単にできる
ものではありません。そこで、どこでどう思いついたのか、ムクロ
ジやイモガラ、タバコの茎などを焼いた粉末の溶液をつくり、水圏
戯(すいけんぎ)という似たような遊び。その液もシャボンといっ
ていました。
「嬉遊笑覧(きゆうしょうらん)」という本に出ています。なぜ
玉ができて、虹色に輝くのか、ホイルやニュートン、イギリスのヤ
ング、フランスのフレネルなどが研究。表面張力がどうの、薄膜が
層状構造でこうのと、とてもたいへんなのです。(056)
…………………………………
冬編(1月)・第5章「霜焼けにかかって赤い? 天狗の面」
(5)オナガ
ゲェーイ、ゲェーイとにぎやかに、オナガが飛んでいます。全長
の半分が尾という、まさに尾長の名にピッタシ。頭は黒、背面は灰
青色、尾は淡青で、中央の二枚は先端が白くきれいです。
また、飛び方もゆったりとした波形で優美。ところが姿に似合わ
ない乱暴もの。小鳥はいじめるワ、他の鳥の卵やひなを盗んでは食
べるワで、まさに「人の迷惑かえりみず…」なのです。
小さな群れをつくり、雑木林や人家付近を飛び回り、マツケムシ、
カナブン、クワの実、カキなどを食べる雑食性。勢いあまって、果
樹園を荒らすこともあるといいます。
庭にパンや牛脂をおくと食べに来ます。最近どういうわけか、西
日本にいなくなり、東日本では逆に分布を広げてきたといいます。
どうりで、さわがしいわけです。(057)
…………………………………
冬編(1月)・第5章「霜焼けにかかって赤い? 天狗の面」
(6)野菜のこま
お母さんが料理に使った野菜の切れはしをもらい、こまを作りま
す。ナスやニンジンのへた、ジャガイモの残りに、楊子やマッチ棒
の心棒をさしてできあがり。そのほか、ピーマン、キュウリなどな
んでもできそうですが、桜島ダイコンとなるとちょっと考えてしま
います。
これらのこまは、回すとニンジンのへたの輪がなんともいえない
模様になります。ほかのこまにもマジックで輪をかいて風格をつけ
てやります。
ここで野菜のおせっかい解説。まずナス。名前はよくなるという
ので「為(な)す」。6世紀前半の中国の「斉民要術(せいみんよ
うじゅつ)」という本に詳しく記述。日本では奈良時代から栽培の
記録があり、ナスビともいいます。
ニンジンは、紀元前からヨ−ロッパで食用として栽培。日本には江
戸時代前期に渡来。当時は赤、黄、白、紫などの色のものがあつた
そうです。今のものは明治時代に輸入した∃−ロッパ系の洋種ニン
ジンです。(058)
…………………………………………………………………………………………………
1月終わり