秋 編 11月

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●目次

第1章 葉が落ちて カラスウリの 数わかり
・(1)霜月 ・(2)カラスウリの実 ・(3)コブシの実
・(4)カヤの実 ・(5)スギ ・(6)ガマズミ
・(7)クチナシ ・(8)スズメウリの実

第2章 秋深く 梢のカキは 野鳥のご馳走
・(1)カキ ・(2)サンショウ ・(3)ウラシマソウ/マムシグサ

第3章 風の音頭で 枯れ葉の踊り
・(1)落ち葉 ・(2)ニシキギ ・(3)マメガキ
・(4)ナラ ・(5)ケヤキ ・(6)ハナミョウガ

第4章 山で熟れる 赤い実 黒い実 紫の実
・(1)ムラサキシキブ ・(2)ツリバナ
・(3)リユウノウギク ・(4)シャシャンポ

第5章 枯れ葉の音は 冬の足音
・(1)トウガラシ ・(2)ミズナラ ・(3)ツクバネ
・(4)ホオノキ ・(5)ツチトリモチ

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第1章 葉が落ちて カラスウリの 数わかり
秋編(11月)・第1章「葉が落ちて カラスウリの 数わかり」

・(1)霜月

 霜月とは本当は旧暦の11月のことですがいまの暦でもよく使いま
す。平安時代の歌学書「奥義抄(おうぎしょう)」(藤原清輔著)に
は「霜しきりに降るゆえに、霜降り月というを誤れる」とあります。
また「下学集(かがくしゅう)」、「東雅(とうが)」などの古書によ
ると、文字どおり霜が降りる月なので、しもつき(霜月)といった
という。

 またおもしろい説では、「凋(しぼ)む月」、「末つ月」が転化し
たとか、「新嘗祭をやる月なので「食物月(おしものづき)」といっ
たのがなまって「しもつき」になったなどの説もあります。

 江戸時代の「滑稽雑談(こっけいぞうだん)」(其諺(きげん)著)
には「霜こもりの葉月、雪待月、神楽月」ともいうとあります。

 現代では「おしものづき食物月」の略で「新嘗祭」の月との説も
あります。霜月には収穫祭としての霜月祭りがあります。祭りの日
にちは地方によってさまざまですが、臼の上にイネをのせ、それを
田の神さまとし、供え物をしたり、大師さまにかゆを供えたりしま
す。
(067-1)


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秋編(11月)・第1章「葉が落ちて カラスウリの 数わかり」

・(2)カラスウリの実

 夏の夕方、まっ白にうきあがって咲いていたカラスウリも、いま
は葉が落ちた木に、赤くなった果実がぶらさっがています。

 カラスウリは「烏瓜」と書きます。木の上に残っているのでカラ
スガ食べ残したウリに見立てたものだそうです。果実の中にある種
子はカマキリの頭にそっくりで、また見ようによっては大黒さまに
似ています。

 米俵に乗って、打ち出の小槌を持った福の神に似ているとなれば、
そうソマツに扱われません。ムカシは財布の中に入れておく風習が
あったといいます。

 このカラスウリが薬になるというのですから大黒さまのご利益
か。果肉を酒に漬け、練った物を凍傷に。また、ひび、あかぎれに
も効果があるとか。

 根っこを土瓜根(ドカコン)といい、便秘、ゼンソク、利尿剤に。
例の大黒サンの種子は土瓜仁(ドカニン)といい、せき止めによい
といわれています。

 果肉は化粧用にも利用され、若い果実は塩づけカスづけにして食
べられます。
・ウリ科カラスウリ属のつる性植物
(067-2)

 

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秋編(11月)・第1章「葉が落ちて カラスウリの 数わかり」

・(3)コブシの実

 ハイキングで霜の降りた林道を歩きます。足元に赤い実が落ちて
います。ブツブツのある黒っぽい袋のついたままのものもあります。
見上げてみると、コブシの木が空に伸びています。コブシの実だっ
たのです。

 コブシの実は、ゴツゴツしたげんこつのような袋のなかにまとま
って入っています(集合果)。熟すと袋が破けて、種子が白い糸に
ぶら下がり落ちてきます。粘っこい牛のよだれのようなのが気にな
ります。

 種子の赤い部分は仮種子。かむと辛い味がします。別名コブシハ
ジカミと呼ばれるのもうなずけます。ハジカミ(サンショウ)のよ
うに辛みがあるというわけです。

 コブシの名は挙(こぶし)、げんこつです。こぶのある曲がりく
ねった果実の形からとも、つぼみの形からともいわれます。コブシ
を漢字で「辛夷」の字を当てていますが、これは中国の固有種を指
す文字。日本にあるコブシはその語源からやはり「拳」の字を当て
るべきだという学者もいます。

 また、鳥取県のある地方ではコブシのことを「コーバシ」と読ん
でいるといいます。コーバシは「芳ばしい」で、コブシの木の皮に
はいい香りがあり、アイヌの人たちはこの木のことを「いい香りの
出す木」という意味の「オマウクシニ」といっていたといいます。
実際、樹皮を煎じて飲む習慣があったそうです。

 一方、「いい香りを出す木」には病魔がその香りに引かれてやっ
てくるという考えもおこります。そこで伝染病などが流行ったとき
には逆にこの木を「おならをする木」とも呼んだといいます。

 コブシは、野山に生える高さ5〜18メートルにもなる落葉高木。
葉っぱは互生し長さ6〜13センチ、紙のような感じで広倒卵形を
しています。公園に植えられたり、庭木にも利用されています。

 春、まだ葉もないころ、枝先に白い香りのある白い花をたくさん
咲かせます。♪シラカバ〜、青空ァ、南風ェ〜……のコブシの花で
す。花の下に葉っぱがひとつつくのが特徴とか。

 そのまだ若い、細いつぼみを乾燥した「辛夷(シンイ)」は、頭
痛や蒼毒(そうどく)、鼻たけ、蓄膿症、慢性鼻炎などの薬に使い
ます。花はよい香りがするので、香水をとります。

 毎日机に向かって仕事をしていると、どうしても体がなまってき
ます。その「なまり」解消のため、夕方近くの神社の階段の登り降
りを日課にしているのですが、ここの保安林の中にも大きなコブシ
が何本も植わっています。

 実が袋果ごと車道に落ちています。黒っぽい袋から赤い実がのぞ
いています。春の白い花にはじまり、晩秋に赤い実を落とすまで、
季節移り変わりを教えてくれます。

 コブシは、庭木のほか、盆栽や生け花、またモクレンやタイサン
ボクの接ぎ木の台木、建築、家具、楽器、器具材に使われます。北
海道、本州、四国、九州に分布。
・モクレン科モクレン属の落葉小高木〜高木
(068)

 

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秋編(11月)・第1章「葉が落ちて カラスウリの 数わかり」

・(4)カヤの実

 カヤといっても、ススキの芽ではなく、イチイ科のカヤ、榧(か
や)の方のはなしです。あのとがった葉がならんでついているカヤ。
その枝先には、特有の樹脂臭のある緑色の堅いだ円形の実がなって
います。

 日がたつと、実は紫赤色になり、果皮がわれて、種子があらわれ
ます。この実を炒って食べると、よく体が温まり、子どもの夜尿に
もよいという。また生で食べると、十二指腸虫の駆除に効果ありと
もいわれる、薬草ならぬ薬木なのであります。さらに実から油をし
ぼって上質の天ぷら油にします。

 カヤの木は、大きいものは高さ25〜26mにもなり、堅くて細い
葉は平らに2列に並び、先がトゲになっていて、さわると痛い。雌
雄異種。

 花は4月ごろ咲き、雄花は葉の裏のつけねにならんでつき、雌花
は枝の先にむらがります。果実はあくる年の10月ごろ紫褐色に熟
します。つまり1年半かかって熟すわけです。

 カヤの材は、直径2mにもなり、油気が多く弾力性あり、堅くち
密なうえ、腐りにくく加工しやすいときているから、建築、器具、
船舶、彫刻などにひろく利用されています。

 とくに碁盤、将棋盤用には珍重され、これで碁石を打つと、肩が
こらないといいます。少しくらいへこんでも、しばらくたつと自然
に元にもどる特性があるというからすごい。その他浴室用材、土木
材、彫刻材にも使用されます。種子は、塗料、灯火にも使われます。

 遠く平安時代前期の『延喜式』という本の「典薬寮」には千葉県
や富山県以西の地方から榧子・ひし(カヤの実)が献上されたとい
う記録もあります。

 カヤの名は昔、枝葉を燃やして蚊を追い払う「蚊遣り」に使用し
たためについた名前だとも、またこの丸太材を運ぶと体がかゆくな
るため「かゆい」がなまってカヤになったという説もあります。

 事実、この木の葉にはリモネン、ピネンなどいうものが含まれて
いて、いぶすと蚊が嫌う成分が出てくるそうです。
・イチイ科カヤ属の常緑高木
(069)

 

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秋編(11月)・第1章「葉が落ちて カラスウリの 数わかり」

・(5)スギ

 スギは、日本の林業樹木のなかで40%という、最高の比率をも
っていて、建築や家具、器具材として利用されています。日本全国
の各地に名木・老樹・巨木が多くあります。

 そのなかも九州・屋久島の縄文杉(じょうもんすぎ)は有名です。
スギは幹が真っ直ぐと立ち、大きな木は65mにも達するという。
これは日本特産植物でもあります。

 巨木になった杉は、なんとなく神さびた感じがするため多くの神
社やお寺の境内に植えられています。杉の大木に囲まれた神社やお
寺は人を威圧し、畏敬の念をおこさせます。

 神木としてあがめる社も多く、大杉神社、杉山神社など杉の名の
つく神社もあちこちにあります。杉はイニシエの昔から日本人にと
って必需品であり、また親しまれた木。スギとははスグのことで、
スグは直(す)ぐの意味。スクスクとまっすぐ伸びるからなのだそ
うです。

 杉はまた、お酒とも関係が深く、崇神天皇の昔、活目(いくめ)
という酒造りが三輪大神の加護により、一夜のうちに美酒をかもし
たという伝説があります。酒屋の看板杉玉を掲げるのはそこからき
ています。

 子どもころ、スギの実鉄砲というのをつくって遊びました。シノ
竹を節をひとつ残して切ります。さらに節に近い部分を切って柄に
します。柄の部分にさらに細いシノ竹、または自転車のスポークを
芯として固定します。

 次にスギの実を筒に詰めて細い芯で筒の奥にさし込みます。さら
に新しいスギの実を筒に詰めて、柄を勢いよく押すと空気に押され
て、筒の中にあった実がプチッと飛び出します。

 ただ、空気もれがあると中の実は勢いよく飛び出さず、ペチャッ
と出てきます。これを「ウンチ」になったといいました。
(070)

 

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秋編(11月)・第1章「葉が落ちて カラスウリの 数わかり」

・(6)ガマズミ

 野山を歩いていると赤い実がびっしりついている木を見つけま
す。ガマズミの実が赤く熟しているのです。小さな実のひとつ、ひ
とつが日光に光ってとてもきれいです。ガマズミの実は2、3回霜
にあたると急に甘くなって食べられます。

 昔を思い出しているのかハイキング帰りのおじさんおばさんがニ
コニコしながら口にほおばっては、種を吐き出しています。

 この実を竹筒の中に入れ、シノダケやモロコシの茎でつきます。
そして茎についているガマズミの汁やかすをなめます。塩を少しま
ぜて味をつけるとおいしいです。千葉県生まれの私の子供のころよ
くつくった「ザックザック」という遊びです。

 用意するもの。竹筒は節のあるところを底にします。竹筒の中に
入るくらいの太さのモロコシノの茎、またはシノダケ。素朴な味が
します。

 ガマズミは、野生動物の格好の餌であるとともに、大昔から人間
にもいろいろ利用されてきた身近な植物だそうです。そのため、東
北地方ではゾーミ、ジュミ、関東地方ではヨソズミ、ヨツズミ、ヨ
ツドメ、中部地方ではヨウドメ、ヨウゾメ、近畿地方ではシブレ、
シグレ、中国地方ではカメガラ、四国・九州北部ではナベトオシ、
九州南部ではイセビなどの方言があります。

 ガマは鎌(枝が折れにくいため、鎌などの道具の柄に使用)。ズ
ミは酸っぱ実の意味だそうです。木の皮を沈静剤や葉をお茶として
利用する地方もあるそうです。ガマズミを使って(タネが少しじゃ
まですが)、ドーナツ、ジャム、ケーキ、また果実酒に利用したり
します。見事な朱色の酒ができます。

 また東北地方ではダイコンを漬ける時に色を出すためガマズミを
つけ込んだりするそうです。
スカズラ科ガマズミ属の落葉低木
(071)

 

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秋編(11月)・第1章「葉が落ちて カラスウリの 数わかり」

・(7)クチナシ

 「クチナシや鼻から下は、ずぐにあご」というふざけた狂歌もあ
ります。黄赤色に熟しているクチナシの話です。

 クチナシとは妙な名前ですが、果実が熟しても口元がしまってい
て、口が裂けないので「口無し」とつけた名前といいます。また果
実を果物の梨に見たてて、上部に残っているがく片がいかにも「く
ちばし」にみえることから「くちばしのある梨」の意味だそうです。
でもこれ梨に見えます?ま、そう見える見えないはわきに置いとい
て話を続けます。

 昔は、この果実をつぶし足のふくらはぎに塗ると、足が軽くなと
いわれ、運動会のかけっこが早くなりたくて、一生懸命足にぬりた
くったものでした。そして、黄色い足をしてでよくびりを走ってい
たものです。

 完熟したクチナシの実は乾燥させて染料に使われます。この実は
無毒なので、食べ物の着色料としても古くから使われ、飛鳥時代に
は利用されていたそうです。

 果実をつぶしてできる黄色の汁でクチナシ飯を炊いたり、クリ飯
などに入れたり、またきんとん、たくあん、かき餅などの色をつけ
るのに用いられています。薬用としても、黄疸、打撲によいといい
ます。

 クチナシの実は、中国3世紀のころ、すでに薬用や染料に使われ
「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」、「日本書紀」巻第二十
九)には682年に多禰嶋(たねのしま・種子島)から支子(クチナ
シ)が献上されたとあります。

 夏に咲くクチナシの白い花にもジャスミンのようないい香りがあ
り、香水に利用したり、乾かして茶に香りをつけたりします。また
甘味があって生のまま野菜サラダの飾りつけにしたり、刺身のつま
に利用されます。果実の汁や粉末を使って、大分県では郷土料理の
黄飯(おうはん)を炊いたりします。

 花を観賞用としたのは室町中期で、最初の記録は「尺素往来(せ
きそおうらい)」(1489年)だそうです。江戸時代には花は食用に
されたという。タヒチでは花をココナッツミルクに浸し、化粧水に
使うそうです。

 将棋盤や碁盤の脚はクチナシの実をかたどっていますが、これは
「打ち手は無言、他人の口出しも無用」という「口無し」を表現し
ているのではないかとする人もいます。

 本州の静岡県以西、四国、九州、南西諸島の林縁などにはクチナ
シの自生種があるといいます。変種のヤエクチナシというのもあり、
九州や中国で古くから知られているそうです。19世紀にはヨーロ
ッパに伝えられ、青年が恋人に最初に贈る花だとされたといいます。
日本の露地栽培では梅雨期から開花するそうです。

 3月19日の誕生日の花であり、花言葉は「とてもうれしい」。
山梔子の実のみ華ぐ坊の垣(貞弘 衛)
アカネ科クチナシ属の常緑低木
(072-01)

 

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秋編(11月)・第1章「葉が落ちて カラスウリの 数わかり」

・(8)スズメウリの実

 すっかり葉が枯れ落ちた晩秋、水辺に生えた木に1pくらいの白
いボールのような果実がたくさん吊り下がっています。スズメウリ
の熟した果実です。

 カラスウリに対して、小さなウリなので、スズメのウリとして表
現したものといいます。またスズメの卵に見立てたものという説も
あるようですが、スズメの卵には斑点模様がありちょっとうなづけ
ませんよね。

 スズメウリは、河川敷や原野のやや湿った人里近いところに生え、
茎は細長く、巻ひげで他のものにからんで延びていきます。しかし
最近、田んぼのあぜ道や雑木林の縁の農道などがコンクリートの道
が増えてくるに従い、個体数が減ってきているそうです。

 スズメウリは雌雄同株の1年生つる草ですが、ときにはつるの先
が地下にもぐって越冬するといいますから頭のいい植物です。巻き
ひげは分岐しません。その巻ひげと対生する葉には柄があり卵円形
で、脈の上に毛があるほかは無毛です。

 8月〜9月、葉腋に白い花をひとつだけ咲かせます。雄花と雌花
とも白く、雄花には3個の雄しべ、雌花には雌しべが1本あります。
枝先ではたまに雄花が総状花序につきます。花冠は深く5つに裂け
細い花柄があります。

 果実は直径1pくらいの球形で、長さ15〜50oの糸のような柄
でぶら下がります。はじめ緑色ですが熟すと灰白色になり、表面は
なめらかです。なかに長さ6oくらいの黒褐色で平たい種子がたく
さん入っています。

 いつかテレビの何かの番組で、若い果実は生食できると聞いたの
ですが本当かまだ試していません。本州から四国、九州まで分布し
ているそうです。

 漢方ではスズメウリの塊根を「土白?・どびゃくれん」といい、
収斂(しゅうれん)、鎮痛、解毒の薬にもなっているそうです。

 蛇足ながら、スズメウリ属は世界に30種ほど暖地に分布すると
いう。日本には、本種のスズメウリのほか、九州以南に分布するサ
ツマスズメウリ、奄美諸島以南(伊豆半島でも記録)に分布するク
ロミノオキナワスズメウリ、奄美諸島以南の南西諸島に分布するサ
ンゴジュスズメウリがあるといいます。

 ちなみに「スズメ」がつく植物名は、スズメノエンドウ、スズメ
ノカタビラ、スズメノチャヒキ、スズメノテッポウ、スズメノヤリ
など手元の図かんでも、11種類の名がならんでいました。

 また「なんとかスズメ」とかことわざにもよく使われるスズメの
名。農家にとって害鳥とも陰口をたたかれながら、これほど多いの
は人家近くに住むスズメはやはり親しみやすいのでしょうね。
・ウリ科スズメウリ属の1年生つる草
(072-02)

 

 

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第2章 秋深く 梢のカキは 野鳥のご馳走
秋編(11月)・第2章「秋深く 梢のカキは 野鳥のご馳走」

・(1)カキ

 だんだん秋も深まり、村はずれのお地蔵さんの頭も霜で光ってい
ます。

 そんな山里の農家の庭の木の梢に、ポツンとカキが残っています。
鳥の御馳走です。“カキの実は、全部とらずに、旅人と野鳥のため
にのこしておけ”ということわざもあります。

 昔は、誰がとっても怒らない、おおらかさがあったようです。カ
キどろぼう……悪いことというよりむしろ、わんぱくへのほほえま
しささえただよいます。でも、今は、勝手にとっちゃあ、だめです
ヨ。丸太ん棒で、どやされますヨ。

 カキは中国、朝鮮、日本の原産とされますが、もともとは中国中
部の原産ではないかといわれています。栽培はやはり中国が最も古
く、今から2500年前の“礼記(らいき)”という本に書かれていま
す。6世紀前半の農業書“斉民要術(せいみんようじゅつ)”には
マメガキを台木とした接ぎ木繁殖の方法まで載っています。

 さて日本。これもかなり古く、西暦500年頃“新撰姓氏録(しん
せんしょうじろく)”の一節に柿本人麻呂の庭にカキがあったと記
されているのをはじめ「本草和名」(918年)に「加岐(かき)」「和
名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)」(923〜930年)には「加岐」
という文字で書かれています。

 この頃は、実が小さく、升ではかったとか。カキを二升だ、一升
五合だといったなんて、ちょっとこっけいです。また、当時は甘ガ
キ渋ガキの区別はなく、区別が出来たのは鎌倉時代になってから。
カキといえば渋ガキをいった。

 ちっぽけな我が家の庭にも蜂谷という渋ガキがあります。甘ガキ
のつもりで買ってきたという情けなさ。それでも大きな果実にショ
ウチュウをつけて渋抜きし、満足しています。
(073・074)

 

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秋編(11月)・第2章「秋深く 梢のカキは 野鳥のご馳走」

・(2)サンショウ

 サンショウのすりこぎは幹が硬くて強いため重宝され、そのほか
杖にも利用されています。今回は「小粒でもピリリと辛い」サンシ
ョウのお話です。

 秋に山中で、赤く熟した果実の皮が裂けて、中から黒いタネがが
ツヤのある顔を出しているのを見ます。かむとピリッと辛く、なる
ほどさすがサンショウだと納得です。

 「木(こ)の芽」の若葉は和え物、酢の物など季節感ある料理に
利用され、若い果実は青ざんしょうといって、つくだ煮などに利用
されるのはすでにご存じの通りです。

 サンショウはハジカミともいいます。これは「はじからみ」の略
で、ハジははぜること、カラミはニラのことで、「果実がはじけて、
ニラのように辛い」という意味だそうです。

【効能】山歩きなどで毒虫やハチに刺された時、葉をかみ砕いてつ
けます。タネを採った果実の皮は漢方の烏梅丸(うばいがん)に配
剤され、回虫駆除・胃酸過多症・慢性下痢・胃かいようなどに用い
られるそうです。ウルシかぶれに果皮の煎じ汁。胃腸虚弱・冷え性
・下痢・初期の風邪・ガスがよく出る人は、果皮の煎じ汁を服用。
「ものもらい」に青い実か黒い種子を5粒、米のりで薬丸にしてか
まずに飲むと治るとされています。
・ミカン科サンショウ属の落葉低木
(075)

 

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秋編(11月)・第2章「秋深く 梢のカキは 野鳥のご馳走」

・(3)ウラシマソウ/マムシグサ

 紅葉と青い空とのコントラストに目を奪われながら山道を歩きま
す。山道は登りからいつの間にか下りになり、土留めの階段を滑ら
ないよう歩くのに骨が折れます。

 小さなガレを気をつけて渡るとやっと平らな道になりました。右
側はささやぶで、その先は谷への断崖。左はヒノキの森がせまって
います。ヒノキの林の中に、赤い粒々がギッシリ固まってついた妙
なものがあります。

 茎のような先についた赤い固まりはすごく目立ちます。ウラシマ
ソウかマムシグサの実です。この2つはよく似ています。花の時は、
ウラシマソウは花から釣り糸のようなものがのびているのですぐ分
かるのですが、実に時期になると同じようなのでまるで見分けがつ
きません。よく見ると枯れかけた葉が少し残っています。

 ウラシマソウとマムシグサの葉の違いは、ウラシマソウは葉が擬
茎に外側に外側につけますが、マムシグサの葉は普通は2個で下の
ものが大きく、擬茎に鳥の足のように小葉が7〜15つくので分か
ります。

 枯れかけた葉は、擬茎の外側に外側についています。どうやらウ
ラシマソウの実のようです。この実が地面に落ち、次の年の春に芽
を出しますが、地面には葉を出さないで、地下に小さな球茎をつく
るだけだとか。2年目になってやっと地上に葉が顔を出すそうです。

 ウラシマソウの花は、春、紫褐色の仏灸包から糸のようなものが
長く伸びています。これが浦島太郎の釣り糸に似ているので漢字で
浦島草と書くのだそうです。

 地下の球茎(球根のようなもの)にはたくさんの子球がついて、
茎のような柄のある葉を1枚出します。葉は鳥の足のような形に切
れ込んだ複葉で、高さは40〜60センチ。

 地下茎はたくさんのひげ根を生やし、小さいイモがたくさんつい
ています。子球で栄養繁殖を盛んにするため、1ヶ所にかたまって
生えます。

 この球茎を利用して漢方薬をつくります。生薬名を天南星(てん
なんしょう)といい、漢方では三生飲(さんしょういん)としてアオ
マムシグサと共に、気管支炎、偏(へん)桃炎、咽(いん)頭炎、凍瘡
(そう)、神経痛などに応用されるそうです。

 民間療法では手足のマメに、水虫に、はれ物のちらし薬に、掻破
湿疹(かきこわし)に利用すると、江戸時代の本にも載っています。
雌雄異株。

 一方、マムシグサは、偽茎とよばれる葉柄の下に、緑に紫のマム
シのような模様があるのでこんな名がつきました。一名紫蝮蛇草、
山蒟蒻、蛇の大八と、ろくな名前がつけられていませんが、ウラシ
マソウと同じ仲間で、やはり薬草です。

 マムシソウも、サトイモ科ということからこの草にも球茎があり
ます。その球茎で漢方薬を作り、気管支炎、扁桃炎、咽頭炎、凍瘡
(そう)、神経痛などに応用し、民間療法では手足のまめに、水虫に、
おできの吸い出し、掻破湿疹(かきこわし)という症状に利用され
ています。

 マムシグサは晩春、葉の間に紫色、または緑紫色、暗紫色の仏え
ん包を出します。花には臭いがあります。

 この仲間の植物は、栄養状態で花序の性が変わることで有名だそ
うで、ふつう、まず雄性の花序をつけ、株が成熟すると雌、または
種類によっては雌雄性の花序をつけるようになるそうです。
 マムシグサもサトイモ科テンナンショウ属の多年草です。
(076)

 

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第3章 風の音頭で 枯れ葉の踊り
秋編(11月)・第3章「風の音頭で 枯れ葉の踊り」

・(1)落ち葉

 落ち葉が重なりあった山道を歩きます。ヤマグリの葉がまた一枚、
カサッと落ちてきました。

 落ち葉するものは文字通り落葉樹。冬も緑の葉をつけている木は
常緑樹。アッタリマエのこと。しかし常緑樹でも、落葉はするそう
で、モッコク、キョウチクトウなどは晩春から入梅にかけて葉を落
とします。葉には、みんな寿命があり、常緑樹は葉が落ちる時には、
もう新しい葉が出ているため、目立たないだけなんであります。

 これら常緑樹の葉の寿命は、マツやスギで2〜5年、モミは9年、
リュウゼツランは15年、アフリカの砂漠のウェルウィッチアの葉
は100年も落葉しないということです。

 山野をいろどった紅葉も、次第に落ち始め、母樹のまわりに積も
り、腐葉土となって、その栄養になるのです。
(077)

 

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秋編(11月)・第3章「風の音頭で 枯れ葉の踊り」

・(2)ニシキギ

 枝や幹に、コルク質のひれのようなつばさのようなものがついた
木が、真っ赤できれいな実をつけています。ニシキギは、漢字で「錦
木」と書くほど紅葉もきれいです。

 この、2〜4方向についているひれがめずらしく、紅葉どき、落
ち葉どきをかまわず、生花の材料に利用します。このひれは簡単に
もぎとれ、鉄板の上でむし焼きにし、ごはんと練り合わせて、ネル
(紡毛糸で荒く織ったやわらかい織物)につけて貼ると、毒蛾の刺
(はり)やサボテンの刺(はり)など、一晩で抜けるという。

 種子は、だ円形で黄赤色の仮種皮に包まれて美しく、庭木として
も植えられます。昔は、果実をつぶして水油で練り、髪の毛につい
たシラミを退治するのに使われたそうです。また、ニシキギを煎じ
て打撲傷に、実は便秘に効ありと大昔の本に出ています。

 ニシキギにはこんな伝説もあります。
 その昔、出羽の狭布の里に大海(おおみ)という豪族がおりまし
た。豪族には政子という評判の美しい姫がいました。この近くを通
りかかった草域の里長の子の若者が、姫が細布を織る梭(ひ)の音
に誘われ政子を垣間見、その美しさに心を奪われました。

 それからというものは姫のことが忘れられず、ニシキギに思いを
込めてこれを毎晩のように姫の家の門口に立てました。姫は若者の
心に気づき憎からずと思っていましたが、父の大海は身分が違うと
許しませんでした。

 やがてニシキギが1000束にもなろうとするころ、若者は失意の
うちに病気で倒れてしまいました。若者の死を知った姫は、嘆き悲
しんだ末に若者の後を追いました。

 父の大海はおのれの無情を知り後悔、若者と姫の遺骨をひとつに
して葬り、そばにイチョウと杉の木を植えたという(「植物と伝説」)。
この錦木塚はいまでも秋田県鹿角市(かづのし)毛馬内(けまない)
の十和田南駅にあって、そこにあるニシキギの木は秋になると美し
く紅葉、赤いの実を沢山つけるそうです。
ニシキギ科ニシキギ属の落葉低木
(078)

 

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秋編(11月)・第3章「風の音頭で 枯れ葉の踊り」

・(3)マメガキ(079)

 マメガキはもと中国原産。古く日本に渡来したもの。信濃地方や
東北地方に多く栽培されていた。マメガキはシナノガキと同じ種類
ですが果実が大きく、扁円形のものをマメガキといい、果実が小さ
くて長楕円形のものをシナノガキといい区別しているそうです。

 マメガキはカキ渋をとるために栽培、また干し柿にも利用します。
カキ渋は紙、布、糸、皮、木材の補強、防水のために塗って利用し
ます。漆(うるし)にくらべ、手軽に使え、安いのでいろいろなも
のに使われているそうです。このカキは霜が降りたあとあめ色に熟
して甘くあります。
(079)

 

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秋編(11月)・第3章「風の音頭で 枯れ葉の踊り」

・(4)ナラ

 静かな森の中、枯れ葉の音だけが響きます。あんなに落ちていた
ドングリも、リスに食べられたか、落ち葉の下に埋ったか、見当た
りません。そのドングリでおなじみのナラは、コナラ、ミズナラ、
ナラガシワなどの総称で、そのうちでもミズナラがいちばんの有用
材です。

 コナラ属は北半球の温帯に300種以上もあり、そのうち総苞片・
ドングリの皿のうろこが、瓦をかぶせたようにならぶのがコナラ亜
属。これはだいたいが落葉樹で、クヌギやアベマキなども入ります。

 ナラは材は淡灰かっ色、かたく、ち密で重く、西洋建築の腰板や
ドア、手すり、階段、床板などから、船室用材、机、テーブルなど
の洋家具材から洋酒のたるに至るまで用途は広い。

 木目が美しく、欧米人の好みにもあうので、北海道のミズナラは
アメリカへ、オーク材として輸出したこともあり、一時は木材総輸
出額の二割にも達しました。

 コナラは秋、黄葉し、若木は美しく紅葉するので万葉集にもうた
われています。コナラ属は江戸時代から葉変わりや斑入り園芸品種
が栽培されいて、「草木錦葉集」に絵入りで載っています。

 ミズナラは材に水分が多く燃えにくいので、その名があり、材は
髄線がこまかく美しくならんでおり、淡褐色をしています。

 ナラの語源ははっきりしない。ミズナラは大きいのでおおならと
もいう。コナラ、ナラガシワなどの材質もミズナラに似ており、同
じように使われる。しかし薪炭材が主でその量は少ないそうです。
・ブナ科コナラ屬の落葉高木の総称
(080)

 

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秋編(11月)・第3章「風の音頭で 枯れ葉の踊り」

・(5)ケヤキ

 農家の庭先に、ケヤキの木が高くそびえています。こずえが扇を
半分開いたような形でよく目立ちます。そこでつけられた名前がケ
ヤキ。よく目立つという意味の「けやけき木」なんであります。

 ケヤキは、日本の代表的広葉樹の一つ。万葉集にも槻(つき)の
名で出てきます。昔は、ケヤキを槻といい、ケヤキの名は室町時代
中期の“節用集”に初めて出てくるという。ところがこの槻とケヤ
キは別だという学者があって、エライさんの間で大騒ぎ。その上、
イシゲヤキとツキゲヤキと区別する方言までまき込んで、もう、よ
くわかんな〜い。

 材は木目が美しく、建築、船舶、機械、彫刻、お寺や神社の建築、
お盆や臼に使われ、枝はノリのそだ、樹皮は箕(み)などの細工物
になります。木は防風林や盆栽に利用されています。
(081)

 

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秋編(11月)・第3章「風の音頭で 枯れ葉の踊り」

・(6)ハナミョウガ

 晩秋から冬にかけ、細い毛のある広だ円形の赤い実を熟すハナミ
ョウガ。林の下やその縁に群生し、葉がミョウガに似ています。

 熟したやわらかい実を水中でもみ、薄い皮を除き日干ししたもの
が薬用の伊豆縮砂(いづしゅくしゃ)。においは芳香で味は辛味があ
り、やや苦い。芳香性健胃薬、利尿薬、香辛料に、腹痛、下痢に用
いられます。

 ハナミョウガは茎の高さ40〜50センチ。葉は紅色をおび、長さ15
〜40センチで光沢はなく、両面、とくに下面にビロードのような細毛
があり、茎に接するところに2〜4ミリの葉舌があって葉鞘が長い。
根茎はショウガのような形をしており、そこから茎がまとまって出
ています。

 初夏、前年の葉の中から繊毛のある茎を一本出し、その先に総状
花序というから、柄のある花が軸から離れてたがいちがいに房にな
って下から順序よく花が咲きます。

 花は白地に赤斑のあめ細工のように小さく、たくさんつくため美
しく、観賞用にもするそうです。名前はミョウガに似た葉の先に花
をつけるので、ハナミョウガ。

 がくは筒状で、長さ1センチくらい。花冠は3裂し外面にも毛が
あり、うしろの1片が立って雄しべを包みます。内輪の3本の雄し
べのうち2本が合わさり唇弁となり、外輪の2本の雄しべは唇弁の
下の両側に黄赤色の線形体になっています。ハナミョウガは、日本
では千葉県以西、四国、九州に分布します。
・ショウガ科ハナミョウガ属の多年草
(082)

 

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第4章 山で熟れる 赤い実 黒い実 紫の実
秋編(11月)・第4章「山で熟れる 赤い実 黒い実 紫の実」

・(1)ムラサキシキブ

 誰でも知っているムラサキシキブです。山道で、ガマミズやマサ
キ、マユミなど赤い実を見つけ、またヤマブドウ、エビズルなどの
黒が目につくなかで、紫色の小さなムラサキシキブは触ると落ちそ
うで手が出せません。

 ムラサキシキブは、ご存知平安時代の才媛。紫色の、この果実を
紫式部にあやかり美化してつけた名前だそうです。

 この木の幹は真っすぐ伸びるうえ、白く堅く、ねばりがあり強い
ので、とんかちなど道具の柄や杖、箸にも利用され、また木炭とし
てもよいものができるといわれます。

 さらに昔は、火縄銃の銃身の掃除や弾丸こめに使った道具「唐子
棒」には最適な材料だったそうです。また木曽地方では、ヒモミと
呼び、昔は火を起こすためのきりに使われ、洋がさの柄に買い集め
られもしたそうです。
・クマツヅラ科ムラサキシキブ属の落葉低木
(083)

 

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秋編(11月)・第4章「山で熟れる 赤い実 黒い実 紫の実」

・(2)ツリバナ

 山歩きでツリバナが赤い実をつり下げているのを見つけます。み
ごとな朱赤色をしています。

 5、6月ごろ、細長い枝に、長い柄をつけた花がつり下がったよ
うに咲きます。花は紫色をおびた緑色で、まばらなので華やかさは
ありません。

 秋になり、ぶら下がった丸い果実は、赤く、乾かすと鈍い五稜が
あらわれ、熟すと5枚のからに裂け始めます。暗赤色の内側からは、
仮種皮をもつ真っ赤な種子が出てきて、カラにたれ下がります。た
れ下がる花と種子、まさにツリバナなのであります。

 からにぶら下がった実が、少しくらいの風にも振り落とされるも
のかと、頑張っている様子がなんとなくこっけいで、手を添えたく
なります。

 昔は、この実をとって頭のシラミを駆除するのに利用したそうで
す。
・ニシキギ科ニシキギ属の落葉低木
(084)

 

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秋編(11月)・第4章「山で熟れる 赤い実 黒い実 紫の実」

・(3)リュウノウギク

 リュウノウギクは漢字で「竜脳菊」と書きます。竜脳とはタンス
などに入れる樟脳(しょうのう)に似た香りのする香料の原料。。防
虫剤などに使います。

 リュウノウギクは茎や葉に揮発油が含まれていて、指でもむと竜
脳のいい香りがします。名の由来もそこにあるという。

 日本では福島県から新潟県以西、本州、四国、九州の宮崎県に分
布。日当たりのよい山地に生え、秋10月から11月ごろ、茎の頂に
白色黄心の頭花を咲かせます。舌状花は淡い紅色をおびるものもあります。

 このリュウノウギクを食べるというのですから人間はすごい。揚
げ物に、また、ひとつまみの塩を入れてゆでて、そのほかゴマ和え
にも。上品な香りがしておいしいといいます。

 リュウノウギクはまた薬草でもあります。茎葉を内用すれば血圧
をたかめ、発汗、呼吸、血液の循環をうながすという。外用では局
所の血管の拡張がどうだかこうだかになるそうです。

 そんなことより民間療法でまいります。陰干しを刻んで布袋に入
れお風呂に……。リウマチ、腰痛、五十肩、痛風、慢性便症などに
効ありとのよし。

 秋の抜け毛に葉のアルコール浸液を塗布、また小さい切り傷に葉
の食用油浸液を温め患部へ流し込むという。その他、おできの化膿
促進、排膿によいというが、興味のある方は薬草の本をどうぞ。 
・キク科キク属の多年草
(085)

 

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秋編(11月)・第4章「山で熟れる 赤い実 黒い実 紫の実」

・(4)シャシャンボ

 初冬に低山や丘陵地に生え、果実は黒く熟します。食べると甘酸
っぱく、果実酒なども作れます。名前は、果実が丸く小さいことか
ら、小小ん坊(ササンボ)の意味からきているようです。生食など
のほか、ジャム、ジュース、ケーキにも利用します。

 シャシャンボは、関東地方南部、石川県以西に分布し、サシビ(長
崎県)、ササブ(志摩)、グレ(四国)、ミソッチョ(九州)、ヨメサ
ラ(嫁皿)=日本髪を結った嫁にできる丸い禿、京都・丹波地方)
なあどの方言があります。
 また『古事記』や『倭名類聚抄』などに「鳥草樹」の名で出てく
る。サシブとかサヒブノキとよんでいるのがシャシャンボだろうと
いうことです。
・ツツジ科スノキ属の落葉低木〜小高木
(086)

 

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第5章 枯れ葉の音は 冬の足音
秋編(11月)・第5章「枯れ葉の音は 冬の足音」

・(1)トウガラシ

 晩秋の野山。あんなにきれいだった紅葉も、今は枯れて、むなし
く風に舞っています。そんな山道のわき、溝の向こうの田んぼの一
角が畑になっています。

 霜でまっ白になった中、赤いトウガラシが目立ちます。山里の人
が収穫するのを忘れたのか、これからとりに来るのでしょうか。

 トウガラシは漢字で「唐辛子」と書くように、1542年、ポルト
ガル人が唐の国経由で長崎に持ち込んだものだという。また一説に
は1592年、秀吉の朝鮮出兵の時兵士が種子を持ち帰ったともいわ
れ高麗コショウの名もあります。

 原産地は、ブラジルのアマゾン河流域とかでメキシコやペルーで
は古くから食用にしていたという。そこへあのコロンブスがやって
きて、1493年、ヨーロッパにもたらします。十六世紀には全域に
広がり辛味食品として注目されました。

 トウガラシは辛いのが基本ですが、辛味のないものもあります。
それにより「辛いトウガラシ」と「甘いトウガラシ」に大別され、
それぞれにいろいろな変種があります。

 トウガラシの辛みは、殺菌作用があり食欲を増進させ、体を温め
ます。また新陳代謝を促進させ熱発生を高め、よく食べる人には肥
満が少ないといわれています。またこれの成分を湿布して、冷えか
らくる腰痛や五十肩に効力ありとしています。
・ナス科トウガラシ属の1年草
(087)

 

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秋編(11月)・第5章「枯れ葉の音は 冬の足音」

・(2)ミズナラ

 クマザサが一面に生えた中に、大きなミズナラが天に枝をのばし
ています。ナラ材は、いろいろなものに利用されていますが、なか
でも有用とされるのがミズナラです。

 幹が30mにもなり材は淡い褐色。ずい線が細かくならんでいて
美しく、家具、建築、手すり、階段、床板、ドアかあら船室用材、
机、テーブル、酒だる、楽器、下駄の歯まで間に合わせてくれます。

 ミズナラとは、木に水分を多く含み、燃えにくいところからつけ
られた名。大木なので、オオナラとも呼ばれ、材面の美しさに北海
道から北アメリカへオーク材として輸出したことも。

 5月頃、新しい枝のもとからひものような雄花の穂をつり下げま
す。雌花は上部の葉腋につき、短く、秋になる果実は、おなじみの
ドングリです。
・ブナ科コナラ屬の落葉高木
(088)

 

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秋編(11月)・第5章「枯れ葉の音は 冬の足音」

・(3)ツクバネ

 お正月に羽子板を買います。羽子板は羽根つき遊びのための板。
羽根つきの羽根を“つく羽根”と呼びます。その「つく羽根」と同
じ名前の植物があるのです。

 ツクバネ。半寄生で、他の樹木の根から養分の一部を補給して生
きています。寄生する相手はスギ、ヒノキ、ツガ、モミなどだそう
で、根を掘りだしてみると、ツクバネの白い根っこがほかの木の根
にぴったりのくっつき、さかんに養分を横取りしています。

 くっつく方はいいとして、くっつかれる方はたまりません。蹴飛
ばしたくとも、動けない植物という身分。いたしかたのないことで
す。

 果実は、クチナシに似ており、先に小苞(しょうほう)の育った
四枚の羽根が広がるアレ。羽根つきの羽根にそっくり。ツクバネと
はよく名付けたものです。
・ビャクダン科ツクバネ屬の落葉低木
(089)

 

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秋編(11月)・第5章「枯れ葉の音は 冬の足音」

・(4)ホオノキ

 バサッ、バサッとホオの葉が落ちてきます。高さ30mにもなる
大木のホオノキ。アメリカやヨーロッパでは庭木にするというから
規模が違います。かつて「ウサギ小屋」といわれたちっぽけな家の
せまい庭になんか、とても植えられません。

 ホオノキはホオガシワともいい、カシワと同様に昔、この葉に食
べ物を盛ったのでついた名前。では、ホオとは何んぞや?これだ植
物学者は困っているとかいないとか。

 なあに、この木をかつて大柏といっていたのが、なまってホオガ
シワになったのさ。という人もいます。なんだ簡単じゃないの。

 木の皮をはいで乾燥し、日本製の厚朴(和厚朴=漢方薬)として、
煎じて健胃剤、駆虫剤に利用します。平安前期の本「延喜式」に、
当時、大和や伊勢などあちこちから厚朴(こうぼく)を年貢としてと
っていた記録があります。
・モクレン科モクレン属の落葉高木
(090)

 

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秋編(11月)・第5章「枯れ葉の音は 冬の足音」

・(5)ツチトリモチ

 山には妙な植物も生えています。赤く丸い坊主頭に、葉もない気
孔も葉緑素もない、ないないづくし。しかも雌雄異種なれど、いま
だの雄の株が発見されないときたもんだ。

 ですから学者も分類で大騒ぎ。一応ツチトリモチ科だとして、日
本には1属7種ありとしています。しかしいまでも学者によって異
なり、さらにいくつかの科に細かく分ける説もあります。

 ツチトリモチは、ミヤマツチトリモチ、キイレツチトリモチ、ヤ
クシマツチトリモチなど、みなその仲間。樹木の根に寄生する多肉
植物です。根茎は塊状でいくつかに枝分かれしています。昔はこの
根茎を石でつぶし、水でさらして鳥もちをつくりました。

 ツチトリモチの丸い坊主頭を山寺の和尚さんに見たてて、ヤマデ
ラボウズの別名もあります。それにしても見つかっていない雄株を
発見しちゃったらエライことですぞ。
・ツチトリモチ科ツチトリモチ属の多年草
(091)

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11月終わり