秋 編 10月

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●目次

第1章 願いごと 頼んでみても 神は留守
・(1)神無月 ・(2)ドングリ ・(3)ヤマブドウ
・(4)ジュズタマ

第2章 口あけるクリ 秋の真ん中
・(1)クリ ・(2)ヤブミョウガ ・(3)ヤマノイモ
・(4)ムクノキ ・(5)サツマイモ

第3章 ドロボーグサつけて ネコの朝帰り
・(1)ドロボークサ ・(2)オナモミ ・(3)イノコズチ
・(4)ヌルデ

第4章 紅葉は 野山の収穫祭
・(1)紅葉 ・(2)ナナカマド ・(3)ノブドウ
・(4)ヨウシュヤマゴボウ ・(5)ツチアケビ
・(6)カエデ

第5章 モミジの赤色 イチョウの黄色 空の青色
・(1)イチョウ ・(2)カラタチ ・(3)イヌマキ
・(4)センブリ ・(5)アキグミ ・(6)サルナシ

第6章 トイレの前に手を洗え ハゼノキのあるキャンプ場
・(1)ハゼノキ ・(2)ナンバンギセル ・(3)アケビ
・(4)シイの実 ・(5)クルミ ・(6)サルトリイバラ

 

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第1章 願いごと 頼んでみても 神は留守

秋編(10月)・第1章「願いごと 頼んでみても 神は留守」

(1)神無月

 旧暦の10月は神無月(かんなづき)といいました。これはこの
月は、日本にいるたくさんの神(八百万・やおよろず)の神)が縁
結びの相談に出雲(いずも・島板県)に集まるため、神がいなくな
るといわれているのだそうです。

 出雲の方では逆に「神在月・かみありづき」というのだそうです。
「かんなづき」の名についてはそのほか、雷(かみなり・神鳴り)
がもう鳴らなくなった月なので、神無月というのだとか、いや、新
しくできたお米を使ってお酒をかもすので醸成月(かみなづき)が
本当の意味だなどの説があります。

 旧暦10月に神さまが旅をして、どこかへ集まるという考えは、
鎌倉時代以前からあったそうで、当時は、行き先が出雲ではなかっ
たらしく、「徒然草」を書いた吉田兼好は、その中で、「神が伊勢大
神宮へ参集するというが、今までそんなことを書いた本もないし、
その説の本説はない」と否定しています。勝手な願い事を聞いてや
ったり、旅をしたり、神さまも忙しいことであります。
(035-1)

 

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秋編(10月)・第1章「願いごと 頼んでみても 神は留守」

(2)ドングリ

 先日、奥多摩で野宿をしてきました。もし山に登ったとき、何か
起きて家に帰れなくなったときのため、テントを使わず一晩過ごす
訓練なのです。夜がシラジラと明け、野鳥のさえずりで目がさめま
した。

 どうやらウツラウツラしていたようです。朝食をとり、眠い目を
こすりながら山から降りはじめます。かさかさと枯れ葉の上を歩い
ていると、登山道にドングリが落ちているのが目につきました。マ
テバシイの実でした。早速皮をむいて食べはじめます。クリのよう
な味がして結構おいしいです。

 ドングリには、食べられるものと、渋くて食べると便秘になって
しまうものがあります。食べられるものはマテバシイのほかにシイ
ノミやイチイガシ、ウバメガシなどです。また、カシワのドングリ
からはでん粉がとれるそうです。渋いドングリもかつて凶作のとき
などは、渋をぬいてたべたそうですよ。

 ドングリは、クヌギやカシ、シイ、ナラなどの実で、いろいろな
形が違います。ドングリの名は栃栗からきた名前だそうですが、漢
字では団栗と書きます。木についているときは、下のほうにおわん
のような殻をつけていますが、熟すと風で木が揺れると、とれて落
ちてきます。

 地面に落ちたドングリは、次の年の春、水分を吸収し皮を破って
根を出し、そこから茎を伸ばしはじめます。ドングリのとがった方
には芽(根や茎)のもとになるところがあり、皮の中の白いものは
その養分を蓄えた双葉なのだそうです。栄養もたっぷり供えていて
今か今かと春を待っているんですね。

 ドングリは森や林にすむ、リスやネズミ、クマなどの大事な食料
にもなります。ドングリのとれない年は、クマがお腹が減って冬眠
できなくて、よく人里にあらわれたりします。それにしてもあんな
に渋い実を食べて動物たちはよく便秘しないものですね。それとも
食べれるドングリを選んでいるのでしょうか。

 ドングリは、木の種類によって形が違います。丸い、球形のもの
はクヌギやカシワ、アベマキなどのもの。広だ円形のものはシラカ
シ、イチイガシ、卵形だ円形のものはミズナラ、ウラジロガシ、だ
円形はウバメガシ、アカガシ、アラカシ、長だ円形はコナラ、マテ
バシイのドングリです。

 子供のころ、このドングリを使っていろいろなものを作りました。
ドングリの尻にマッチを差し込み、コマをつくります。堅いドング
リの尻にマッチの棒がなかなか刺さってくれません。やっと出来て
赤い軸を持ってまわしてもそううまくは回ってくれないものです。

 また、3つのドングリに木の枝を通してやじろべえを作ります。
そのほか、楊枝を殻にさしてひしゃくのおもちゃ。いまの子供には
「子供だまし」のようですが、林の中を駆けまわり大木にからまっ
ているツタにぶら下がって「ターザン遊び」。昔の子どもはマイナ
スイオンをたっぷり吸って遊んでいました。勉強は出来なかったけ
ど、子供の時から生活習慣病にかかるような青ビョウタンはいませ
んでしたよね。

ドングリ:コナラ・ミズナラ・クヌギ・カシワ・アラカシ・シラカ
シなどの果実の総称。
(035-2、036)

 

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秋編(10月)・第1章「願いごと 頼んでみても 神は留守」

・(3)ヤマブドウ

 秋の山道で色づきはじめたヤマブドウの葉の間に黒く熟した実を
見つけました。農山村で育った人ならおなじみのごちそうです。

 ヤマブドウのつるは、巻きひげで高い木によじのぼり、からみあ
ってやぶをつくります。つるは古いものになると直径が数センチに
なることもあるといいます。さっそく、背伸びをして房をとってほ
おばります。甘酸っぱい味が口中に広がり、子どものころが思い出
されます。これも山歩きの楽しみのひとつ。食べた後は、口の中が
赤紫色に染まっています。

 ヤマブドウは大昔から好んで食べられていたといいます。それな
ら畑で栽培されてもいいのではないかと思うのですが、いままで作
物としてつくられたことはなかったというから不思議です。しかし、
ヤマブドウとヨーロッパブドウの雑種は作られたことはあるそう
で、かつて「勝利」、「成功」という2つの品種があったそうです。

 ヤマブドウは、雌雄異株。葉は円形で30センチにもなり、巻きひ
げは葉と対生して一部が花穂になったりしています。

 ブドウ科の巻きひげには1回か数回の枝分かれがあります。よく
見ると分岐点の外側に小さなうろこのようなものがあります。これ
は特殊な葉だそうです。

 またこの巻きひげの枝分かれは茎の枝分かれだといいますからち
ょっと驚きます。ふつうの種子植物で、茎が枝分かれする枝は葉の
つけねの葉腋から出ます。それは巻きひげが小さな葉の葉腋から枝
分かれするのと同じ現象だからだそうです。

 このヤマブドウの巻きひげに謎があるというのです。つるから出
る巻きひげは全部の節から出るわけではありません。各節の巻きひ
げのあるなしを見ると、あり、ありと続き、次はありません。つま
り「有有無、有有無」と3拍子になっています。

 しかしノブドウは例外で、「有有有……」と全部の節から巻きひ
げが出ています。なぜそうなのか分からないと学者先生も首をひね
っています。

・ブドウ科ブドウ属の落葉つる性植物
(037)

 

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秋編(10月)・第1章「願いごと 頼んでみても 神は留守」

(4)ジュズダマ

 昔、この実で数珠やお手玉をつくって遊んだ人も多いでしょう。
東南アジアでは、実際これでつくった数珠を実用しているところも
あり、また実でつくった細工物も装飾品としてよく使われているそ
うです。

 東南アジア原産で、大昔はるばる日本に渡来したものといわれ、
いまではどこにでも生えています。普通、実といっているのは苞の
葉鞘が変化したものだそうで、ほんとうの果実はこの固い壺形のも
ののなかに入っています。

 ジュズダマ(数珠玉)のほかにトウムギ(唐麦)、ツシダマ、タ
マヅシ、ツス、ハチコク、ズズコ(数珠子)などの名もあり、種子
は胃薬に、根はうがい薬、胃ガン、通経に効き、肌を白くする効果
もあるとか。また葉、茎、根を混ぜて利尿剤、健胃によく、種子の
仁はイボによいといいます。

 ジュズダマの栽培種にハトムギがあって、インドや東南アジア、
中国では食用、薬用に栽培しているそうです。フィリピンではこれ
を常食にしている原住民もいるとか。発酵させるとアルコールもつ
くれるという。日本でも昔は食用にするため栽培したという記録も
あります
・イネ科ジュズダマ属の多年草
(038)

 

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第2章 口あけるクリ 秋の真ん中
秋編(10月)・第2章「口あけるクリ 秋の真ん中」

(1)クリ

 秋は果物の季節。野山ではクリが口をあけて秋を楽しんでいます。
クリは「モモ、クリ3年、カキ8年……」といわれるくらい生長が
早く、かつては薪(まき)としても使われました。

 昔は「勝ち栗」などといって、武士が戦いに出陣する時、縁起を
かついで食べたりもしました。おとぎ話でも、「サルカ二合載」の
中でクリは大活躍をしています。

 クリは、食用のほかに、いがを鶏糞とまぜて、肥料にもし、以前
は食べることより、この方に使うためにとった時もあったとか。

 クリとはその色から黒実(くろみ)の意味だと、ものの本に出て
いますが、それなら「クミ」になるはず。「リ」はどこからきたの
でしようねェ。

 クリも古くから親しまれた植物。「古事記」や「日本書紀」にも
出てきます。奈良時代や平安時代から食べられていて、米や麦など
といっしょに常食にした地方もあったそうです。

 野山に生えているシパグリは、二ホングリの原種。栽培は、京都
の丹波(たんば)地方から始まったと考えられていて、この地方の
大きなクリを「タンパグリ」と呼ぶようになったそうです。

 クリの木はまた、家や家具、船などの材料にも利用され、葉、イ
ガは煎じて咳に用いるとクリッと治るとか。ヨーロッパでも、葉を
ゆでてぜん息の薬に用いるそうです。

 クリの木は神の木としても使われ、小正月(1月15日)の飾り
の材料に、なわしろの水口(みなくち)祭り、また神事の時の箸に
も使われます。モズの初音にクリが笑み始める(モズが鳴く頃クリ
も熟す)、雨グリ日ガキ(カキは日照り、クリは雨の多い年がよく
なる)などのことわざもあります。

 実に入っていない「実なしグリ」でスプーンをつくって遊びます。
(昔は調味料をもるスプーンとして本当に使われたそうです)。ま
た、いがの中にひとつだけある丸いクリをゆでて、穴をあけて楊枝
で根気よく果肉をほじくり出し、糸をつけた小枝をクリの穴の中に
入れ、糸を持って振り回すとヒョーヒョーと音をたてます。これを
ヒョーヒョーグリといって遊びました。
(039、040)

 

 

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秋編(10月)・第2章「口あけるクリ 秋の真ん中」

(2)ヤブミョウガ

 色づく木の葉、ドングリ、ヤマブドウ。秋の林は活気であふれて
います。そんな中、大きな木が太陽をさえぎり、足元はいちめんに
生えた小さな草。ひんやりとした空気がよどんだ所があります。

 そういう付近の、山道からはずれたヤブの中に、ミョウガに似た
草が、あい色や白っぽい丸い果実をつけています。ヤブに生えるミ
ョウガというので、ヤブミョウガ(薮茗荷)の名前があります。

 夏に、茎の先の花柄に円錐花序(えんすいかじょ)の白い花を咲
かせます。これには両性花と雄があり、1つの株に両方がついてい
るとか。そんなことを聞くと、いっちゃ悪いが、あまりパッとしな
いこんな花も、もう一度見直します。

 中国ではこの果実を虫さされなどの治療に用いるのだそうです。
 若葉や茎はゴマ和え、からし和え、煮浸しにして食べられるそう
です。ツユクサ科ヤブミョウガ屬の多年草
(041)

 

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秋編(10月)・第2章「口あけるクリ 秋の真ん中」

(3)ヤマノイモ

 村はずれの川岸や林の縁にヤマノイモのつるが枯れてまわりの木
や草にからんでいます。つるの葉のわきにひとつずつ、褐色の丸い
イモの赤ちゃんのようなムカゴがなっています。また平たく3枚の
羽のある果実もつるについています。

 このムカゴを採って煮たり焼いたり、ムカゴ飯にして食べるとお
いしいですよ。とって集めてお父さんやお母さんに持っていくと喜
ばれます。ムカゴの皮をむかないでも食べるとき気になりません。

飲んべえお父さんには、よくいためて塩を少しふりかけたり、バ
ターいためにして食べます。とくにビールにもってこいです。もち
ろん皮のままです。ムカゴをさらして乾燥したムカゴ粉というもの
があり、クズやカタクリ粉よりもねばり気があるそうです。

 このムカゴを木の細い枝などにさしてやじろえべを作って遊びま
す。また、平たく3枚の羽のある果実をなめて鼻の上につけて「天
狗遊び」をします。

 ムカゴはタネとは別のものですが、地面に落ちると芽を出して生
長します。珠芽とか零余子と書き、種子よりも養分があるので芽が
出てから早く育ちます。ムカゴを取ろうとつるをたぐると、バラバ
ラと落ちやすいのでご注意。古川柳に「引っ張るとムカゴ隣へみん
な落ち」というのもあります。

 これらヤマノイモは山地に自然に生えているので自然薯(ジネン
ジョ)とも呼ばれます。葉は畑で栽培されているナガイモよりも長
めのハート形。また茎や葉柄に紫色の色素があるので外見にも区別
ができます。しかし花の形や時期はそっくりですが、イモの部分は
粘り気がうんと強い。ムカゴや果実は両方にできます。
(042)

 

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秋編(10月)・第2章「口あけるクリ 秋の真ん中」

(4)ムクノキ

 神社の境内やお寺の石段によく黒い実が落ちているのを見かけま
す。実にはしわがよりしなびた感じの実です。そうだ。ムクの実だ。
子どものころ、学校帰りにお寺の境内で食べたのを思い出します。

 ムクノキは、高さ20メートルにもなる大木。老木にもなると樹
の皮がうろこのようになってむけます。そこで、むけるエノキのよ
うな木というので、ムクノキと名づけたといいます。ほんとかいな。

 そのほか、ムクという名はよく茂るため「茂(も)く」からきた
のだという説もあります。また、ムクは漢字で「椋」と書きます。
これはムクノキは葉がよく茂り、夏は木陰ができて涼しくなるため
に「木偏に京(みやこ)」と書くのだといいますが、みなさんどう
思います?

 ザラザラする葉は細工物をみがくのに使われたとか。口の中に入
れたらどんな感じだろ。ムクノキは堅く、木材は、かつては野球の
バット、げたの歯、くしなどに利用されたそうです。

 また、完熟した実はケ−キに利用され、やや未熟果は果実酒をつ
くるのにも利用されるそうです。

 なお、ムクロジ科のムクロジをムクとか、ムクノキと呼ぶ地方が
あり、注意が必要です。ムクロジの実は熟すと黄褐色になり食べら
れません。

 話は飛びますが、県境や大きな川の合流点に興味はありませんか。
たぶん日本中の人が知っているであろう「江戸川」と、坂東太郎の
異名がある「利根川」の合流点。地図で見ると千葉県の北端・野田
市関宿と茨城県、それに埼玉県がすれすれの県境になっている地点
があります。

 そこには小さな公園があり、よくキャンプをしている人がいると
聞きました。そこで物好きにもテントを張り1泊してみました。そ
こには竜神稲荷のホコラがあり、実際、干上がってはいますが竜神
池という池もあります。

 ホコラのそばには大きな木が3本立っていて、そのうちの1本は
ムクノキです。垂れた枝にムクノミがビッシリとなっています。少
々熟れすぎたようですが食べてみると、ン、あまい!

 仲間同士が競争で手を伸ばし、ムクノミをつまみとり口に運びま
す。口の中に広がる甘味、ムクのタネが歯に当たりカリカリという
なつかしい音。みんな童心に返ったようです。

 近くにはグライダーの練習場があり、さっき見た華麗な滑空が脳
裏に残っています。かぶれやすい童心仲間、早速グライダー遊びに
興じてしまいました。
・利用:公園樹・庭木・器具・楽器材ほか。
・ニレ科ムクノキ属の落葉高木。関東地方以西、四国、九州、沖縄
に分布。
(043)

 

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秋編(10月)・第2章「口あけるクリ 秋の真ん中」

・(5)サツマイモ

 山里の林道の奥の方に、ちっぽけなサツマイモ畑をみつけます。
霜にあい、葉が黒っぽく、しなびています。

 戦時中から戦後にかけて、あんなにモテモテだった「おさつ」も
今では、ヤキイモくらい。農家の自家用として、こんな奥の方に追
いやられてしまいました。

 原産地は、メキシコ、コロンビアなどアメリカ大陸の熱帯地。そ
れが北米のインデアンたちによって栽培され始めました。そこへコ
ロンブスの登場。ヨーロッパへ伝播。スペイン人やポルトガル人に
より、各地に広まっていきました。このようにして中国などを経由
して日本へ。1597年(慶長2年)、宮古島へ入ったのが最初だとか。

 サツマイモは、カンショともいい、やたらと品種が多く、温帯で
は一年草だが熱帯では宿根草にもなるそうです。

 サツマイモをひとつ貰い、象をつくります。目の位置にダイズの
大きさの穴をあけてはめ込みます。また、鼻にはマッチの軸を短く
したものをさし込みます。シッポはパセリを使い、できれば足もサ
ツマイモを使いたいものです。すぐにこわれてしまいますが。
(044)

 

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第3章 ドロボーグサつけて ネコの朝帰り 
秋編(10月)・第3章「ドロボーグサつけて ネコの朝帰り」

(1)ドロボーグサ

 秋、草がのびほうだいになった野道を歩いていると、ズボンなど
に、かぎやとげのある草の実がたくさんくっついてしまい、とるの
に苦労することがあります。これをドロボーグサなどと呼んでいま
す。

 ドロボーグサの仲間には、オナモミ、メナモミ、センダングサ、
イノコズチ、キンミズヒキ、ヌスビトハギなどがあります。

 かぎのようなとげの生えたオナモミの実は、風邪、頭痛などの薬
にもなっているそうです。オナモミの雄に対して、雌のメナモミ。
実にとげはありませんが、粘着性があり、服につきます。

 葉がセンダンに似ているセンダングサ。逆向きのかぎでくっつき
ます。ふくれた茎を、イノシンの膝に見たてたイノコズチ。小さな
とげが衣服につきます。黄金色の花を咲かせるキンミズヒキ。かぎ
状のとげがあります。

 ヌスビトハギはマメ科の多年草。前後2片に切れた豆果の平らな
両面に生えるかぎ形の細毛でくっつきます。豆果が、足をそばだて、
その外側で歩く盗人の足跡に似ているのでそんな名前がついたのだ
そうです。
(045)

 

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秋編(10月)・第3章「ドロボーグサつけて ネコの朝帰り」

(2)オナモミ

 草の生えた中を歩くと、ズボンなどに草の実がいっぱいついてい
ます。ご存知ドロボー草。どこを歩いてきたのか、犬や猫まで体中
につけて戻ってきます。このオナモミもそのひとつ。

 オナモミの「オ」は、雄の意味で、メ(雌)ナモミに対して全体が
ゴツイ感じなのでついたもの。ナモミとは生揉(なもみ)のことで、
ヘビにかまれたときは、もんでつけたり、かつては麹(こうじ)にこ
の汁を用いたとのことです。

 また、ナモミとは「なずむ」のことで、この草の実が服や動物の
体にくっつくからだという人もいます。オナモミは、漢名で「羊負
来」とか「蒼耳(そうじ)」の「耳とう」と書きます。

 羊負来は、この実がヒツジの体について蜀の国から伝わったから
だといいます。蒼耳、耳とうは実の形が女性のイヤリングに似てい
るから耳の字がついているのだそうです。

 日本には遠しいムカシ、中国から帰化した「史前帰化植物」。平
安時代の本で日本最古の本草書・深江輔仁著『本草和名』(918年
・延喜18)に「し耳、和名は奈毛美(なもみ)とあるのが初めての
記録。

 オナモミの実は、生薬名をソウジといい、かぜ薬、頭痛薬、そし
て発汗解熱などに利用されます。また虫さされなどのかゆみ止めに、
生の葉をもんで汁をつけるとよいそうです。8〜10月に白い花を
咲かせます。
キク科メナモミ属の1年草
(046)

 

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秋編(10月)・第3章「ドロボーグサつけて ネコの朝帰り」

(3)イノコズチ

 どこで遊んできたのか、子ネコの背中にイノコズチの実がついて
います。この草もドロボーグサとして有名です。実が、ズボンなど
について遠くへ運ばれて行こうという寸法です。

 このイノコズチの根ッコを土付きのままつるして監燥したもの
を、漢方で牛膝(ごしつ)といい、利尿、リュウマチ、打ち身に用
いられます。

 イノコズチ(ヒカゲノイノコズチ)はその名のように林内の日陰
地に生えています。変種にヒナタノイノコズチがあり、日向に生え
る葉が厚くて毛が多く苞の基部の角質の付属体は小さくて目立たな
く、日本ではイノコズチと同地域に分布しています。

イノコズチの名は、植物和名の語源に詳しい深津正は「猪の轡(く
つわ)」からきたのではないかといっています。茎から対生する葉
の腋からでた花序が、轡(くつわ)の左右の馬銜先(はみさき)に
似ているというのです。

 また牧野富太郎は「豕槌」の意味で、節が太くふくれた節をイノ
シシの脚の膝頭(ひざがしら)に見たてたものだと著書の中で書い
ています。そのほかにも諸説があるようです。

 イノコズチ(ヒカゲイノコズチ)、ヒナタノイノコズチ、近縁の
ヤナギイノコズチなどはともに漢方に用いられます。

 イノコズチでヤジロベエをつくります。草の枝が対生している草
を切り取ります。それを逆さにし野ギクの花をかざり、指の上にの
せるとできあがり。

 また、いろいろなドロポー草の実を組み合わせてワッペン遊びを
します。イノコズチ、ヌスビトハギ、ヤブジラミなどの実を胸につ
けて紋様をつくります。

 8月から9月に穂状花序に緑色の花がつき、互いにツンとするよ
うに横をむいて咲き、地面の中には数本の太い根があります。
ヒユ科イノコズチ属の多年草
(047)

 

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秋編(10月)・第3章「ドロボーグサつけて ネコの朝帰り」

(4)ヌルデ

 赤や黄色にいろどられた野山。その紅葉のなかに、ヌルデの葉も
いちだんときれいです。ヌルデは、幹に傷をつけると白いウルシの
ような樹液が出てきます。

昔はこれを器物に塗ったため、ヌルデの名があるという。ヌルデは
またシオノキ、カツノキ、フシノキなどとも呼ばれます。

 シオノキとも呼ばれるようにビッシリついた果実が熟すと、白い
塩のような粉がついてなめると塩辛いためについた名。実際子供の
ころ、学校の行き帰りになめた思い出があります。第二次大戦中の
物不足の時は、これをなめて塩分補給に役立てたという。

 カツノキの名は、大昔蘇我氏と物部氏が戦ったとき、聖徳太子が
この木で仏像を彫り、蘇我氏の勝利を祈ったといわれ「勝つの木」
がなまったもの。

 フシノキはヌルデの葉にできる虫こぶをフシ(五倍子)というと
ころからきたもの。フシにはタンニンが含まれ、染料や写真の現像
液、また収れん剤や止血剤などの薬に利用されます。
・ウルシ科ウルシ属の落葉小低木
(048)

 

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第4章 紅葉は 野山の収穫祭
秋編(10月)・第4章「紅葉は 野山の収穫祭」

(1)紅葉

 いよいよ秋も深まりました。空は高く、すじ雲がたなびき、ガン
がくの字に飛んでいます。そんな空のもと、野山が紅葉に染まって
います。

 これは秋になって、気温が下がり、日光が弱くなると、葉の付け
根に壁ができ、葉のはたらきがにぶくなります。すると養分が茎の
方に流れなくなって、葉に糖類がたまり、アミノ酸がどうの、アン
トシアン、フロバフェンがこうので、作用しあって紅葉するのだそ
うです。だから秋になる前でも、枝や葉柄、葉脈を傷つけてやると、
そのところだけ紅葉するという。よし、今度やってみよう。

 ほかにもきれいに紅葉する条件として、昼夜の寒暖の差が大きい
こと。適当な湿度、紫外線が強いことなどが影響します。日本の紅
葉は気候や地形の関係でとくに美しくなります。
(049)

 

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秋編(10月)・第4章「紅葉は 野山の収穫祭」

(2)ナナカマド

 秋の山を彩り、登山者たちの目を楽しませてくれるナナカマドは、
葉の美しさもさることながら、真っ赤な実は、葉が落ちたあともあ
くまで高く青い秋空に映えています。モミジやカエデとならんで紅
葉する植物の代表です。

 ナナカマドは、高さ7〜10mにもなり、樹皮は灰色を帯びた暗
褐色、表面がザラザラしていて、枝に皮目があります。葉っぱは互
生し、奇数羽状複葉。小葉は5または7対あり、長楕円形または披
針形をしています。花は5月から7月ごろ。枝先に白い5弁花をた
くさん咲かせます。果実は径6ミリくらいの球形梨状果。たくさん
集まって垂れ下がり、赤くなって美しく熟します。

 ナナカマドは七竈と書き、その名は、木が堅く「かまどの中に7
回に入れて燃やしても燃えない」くらいだとか、あるいは「7つの
かまどに入れても燃えない」ようだ、というところからきているの
だそうです。

 ナナカマドの堅い木材は、ろくろの材料や彫刻の用材としてもっ
てこい。また、この木を植えると、「雷よけ」になるという言い伝
えもあり、雷電木(らいでんぼく)の異名もあるそうです。

 ある年の秋、北アルプスの剱岳(つるぎだけ・2998m・富山
県)の仙人池から剱沢二股へ下山。途中、ナナカマドが色づいてい
ました。とくに真っ赤に輝く実の向こうに裏剱の岩峰が荒々しく、
そして小窓、三ノ窓雪渓。天気はよし、帰るのが惜しくなりました。
赤い果実や紅葉は生け花にも使われます。
・雲脱がぬ穂高へ紅しななかまど  藤原零子
・バラ科ナナマカド属の深山に生える落葉高木
(050)

 

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秋編(10月)・第4章「紅葉は 野山の収穫祭」

(3)ノブドウ

 ノブドウは野山や道ばたの木に巻きひげでからみついて育つつる
植物です。葉っぱはヤマブドウよりもずっと小さく、3〜5の切れ
込みがあります。

  果実は正常なものは6〜8ミリのまるい球形ですが、普通は、ブ
ドウタマバエ、ブドウトガリバガなどの虫が入ってゆがんだ形にな
ってしまうようです。変な形の果実なっているのが多いですよね。

 果実の色は白や紫、青色に変わってしまいます。食べられないと
図鑑にありますが、色を見ただけで食べようとは思いませんがね。

 ブドウ科の巻きひげには、1回か数回の枝分かれがあります。こ
の巻きひげに謎があるというのです。巻きひげはつるの節から出て
いますが、全部の節から出るわけではありません。

各節の巻きひげのあるなしを見ると、あり、ありと続き、次はあ
りません。つまり「有有無、有有無」と3拍子になっています。

 しかしノブドウは例外で、「有有有……」と全部の節から巻きひ
げが出ています。なぜそうなのか分からないと学者先生も首をひね
っているそうです。「ウ、ウ、ウ……」

 ノブドウはヤマブドウと同じブドウ科ですが、ブドウ属ではなく
ノブドウ属の植物なのだそうです。
・ブドウ科ノブドウ属の落葉つる性植物
(051)

 

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秋編(10月)・第4章「紅葉は 野山の収穫祭」

(4)ヨウシュヤマブドウ

 ヨウシュヤマゴボウ、漢字で洋種山牛蒡。一名アメリカヤマゴボ
ウと呼ばれ、文字通りあちらから渡来したもの。

 北アメリカ原産で日本には明治の初め渡来、すっかり「日本人(草)
化?」し、空き地や道ばたに生えています。ブドウのような果実が
たれさがり黒く塾し、つぶすと赤紫色の汁が出て、ズボンやシャツ
につくととれないので始末に負えません。

アメリカの地方では若い葉と茎をよく煮て食用にしている所もある
ようですが、一方不完全な調理をしたり、うっかり毒の多い根まで
食べて中毒をおこす人もいて、こわがれているそうです。

 毒があるというのは裏がえせば毒だということ。同じアメリカで
は根を吐剤としたり、リュウマチや皮膚寄生虫の駆除に使われたこ
ともあったといいます。インデアンは熱のあるとき、根を足の裏に
はりつけて解熱に用いたともいいます。 

日のよくあたる原野、路傍、荒れ地を好み、根はゴボウのように肥
大して肉質になります。草の高さは2メートルにもなり、茎は円柱状で
紅紫色、葉は有柄で互生、卵状長楕(だ)円形から長楕円状披針形を
し、先がとがり、表面はなめらか、ふちにはぎざぎざがありません。
秋にはきれいに紅葉します。

 夏から秋にかけて上向きにのびて垂れる柄の軸に総状花序(柄の
ある花が軸から離れて互い違いについて房になる)を出し、わずか
に赤味がかった白い花をつけます。

根には少量のサポニン様苦味配糖体とアルカロイドが、また新鮮な
葉にはフラボノイドというのも含まれているのだそうで、サポニン
は胃の粘膜では悪心・おう吐を、腸では下痢をおこさせ、フラボノ
イドは緩下作用をおこさせるといいます。

 民間療法として動脈硬化に葉を干して熱湯を注いで飲む方法があ
るといいますが、生兵法はクワバラ、クワバラ……。
・ヤマゴボウ科ヤマゴボウ属の帰化植物
(052)

 

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秋編(10月)・第4章「紅葉は 野山の収穫祭」

(5)ツチアケビ

 秋の山を歩いていると、林の枯れ葉の間から、赤いバナナのよう
なものがたくさんなっているのを見つけます。ツチアケビの果実で
す。
 その形がアケビに似ているのでツチアケビとか、色が赤いので山
トウガラシともいうのだそうですがどちらかというとウインナーソ
ーセージの方がピッタリの感じです。

 茎は坊さんや修験者が持っている杖のようなの形なので「山の神
の錫杖」とも呼ばれています。

 夏、地面の下をはっている根茎から、ところどころに茎を出し、
高さ50センチから1mに伸びます。そして短い柔らかな毛の生えて
いる枝先に黄褐色の花をたくさんつけます。花は半開きで、直径2
センチくらい、がく片は3個で長楕円形。肉質で斜開、花弁は2個
でがく片に似ています。

 ツチアケビは葉緑素をもたない無葉ランの多年生植物とか。つま
りランの仲間なのです。

 ツチアケビも薬草です。強精、淋病、肺結核、糖尿病によいとか
でよくとっている人を見かけます。よく知っているご老人も、この
果実でツチアケビ酒を作るんだと採っていました。

 そのせいか、いまでもかくしゃくとして山歩きをしています。た
だしいまだ味見をさせてもらったことなし。
・ラン科ツチアケビ属の腐生植物
(053)

 

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秋編(10月)・第4章「紅葉は 野山の収穫祭」

(6)カエデ

 カエデは紅葉が美しくなり、果実に翼がある落葉高木の総称です。
世界に160種もあるそうで、日本にもイタヤカエデ、イロハカエデ
など26種も分布しています。

 カエデは蛙手(かえるで)の略で葉の形からきた名前だといわれ、
紅葉(もみじ)するほとんどがカエデ類なので、モミジと呼んでカ
エデを指しているようです。平安時代より前は「黄葉」と書いてい
たそうですよ。

 カエデは漢字では「楓」と書きますが、中国で楓というのはマン
サク科の大木のことだそうで、似ても似つかぬ別の植物をいってい
るという。

 なぜこんなまちがいがはじまったかというと、827年というから
平安時代は天長4年、「経国集」という本で、淳和(じゅんな)帝
と滋野貞主(しげのさだぬし)という人が使いはじめたのだそうで
す。

 この二人が、実際には見たことのない中国の楓をカエデと混用し
て歌に詠ったのを、後生の「知識人」と称する人々が使ってしまっ
たのだという。

 美しく紅葉するのは、秋は夜が寒くなり昼間葉でつくったでんぷ
んから変わった糖分の流れが止まってしまい、その結果、葉の中に
ある黄色素が還元され赤色のアントシアンになるためだという。

 カエデは、カエデ科カエデ属の落葉高木の総称、熱帯と亜熱帯に
は常緑のものもあるそうです。その中のイロハカエデの系統には多
数の園芸種もあるという。その名前は、7つにさけた葉を昔「いろ
はにほへと」と数えたことに由来しているそうです。

 また、イタヤカエデは、よく葉が茂って屋根を板でふいた「板屋」
のように、雨がもれないという意味だという。花はふつう雄花と両
性花があり、雌雄同株のものも異株のものもあるというから複雑で
す。花弁とがく片はふつう5枚、雄しべはふつう8本あります。カ
エデの材はボウリングのピンやレーンにも使われるそうです。

 カエデの葉やドングリ、木の実を使ってチョウチョウも作れます。
ドングリの両脇にキリで穴をあけてカエデの葉の葉柄をさし込み
ます。
(054)

 

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第5章 モミジの赤色 イチョウの黄色 空の青色
秋編(10月)・第5章「モミジの赤色 イチョウの黄色 空の青色」

(1)イチョウ

 神社やお寺の境内が黄色いイチョウの落ち葉で埋まっています。
ボロボロに切れてしまっている葉もありますが、きれいにそのまま
になっている葉もあります。この葉を使ってってウサギやキツネを
つくって遊びましょう。

 まずウサギをつくります。葉の真ん中部分に穴をあけ、次に先側
に2個所縦に切れ目を入れます。こんどは葉の茎(葉柄)をくるり
と回して穴に通します。切れ目を入れた両側が耳になるよう指でつ
まんで調節しましょう。最後に目の部分に細い枝で穴をあけると耳
の長いウサギの出来上がり。

 次ははとがった耳になるようにはさみでイチョウの葉を切りま
す。やはり穴をあけた部分に葉柄を通してキツネの形に指で調節し、
目尻が上がった「キツネ目」につめで葉に傷をつければ立派なキツ
ネができました。

 また3角形の葉の柄を上にし、両側を手前に着物を着るように重
ね合わせ、底辺を折り曲げて小枝でとめます。葉柄の所に花でもさ
せば花の顔した人形になります。

 そのほかいろいろ自分で工夫してみましょう。失敗してもイチョ
ウの葉はいくらでもあります。安心してつくって下さい。

 イチョウはもともと中国の原産だそうで、6世紀の半ばに日本に
伝来したとされています。この木はかなり太い木でもさし木で殖や
せるそうです。またお寺にとくに多いところから、昔イチョウの杖
をついた旅のお坊さんが各地のお寺に寄って突き刺していったもの
がついたのではないかといわれています。

 イチョウには雄の木と雌の木があってギンナンが生るのは雌の株
の方。その見分け方として樹勢が上へ上へと伸びているのが雄で、
枝が横に伸びるのが雌だとか、葉が扇状になっている葉の真ん中に
切れ目があるの(ズボン形)が雄木で、ないの(スカート形)が雌
木だとの説。

 またギンナンの形がどら焼き型になっているのが雄株になり、3
面体(丸味)の形は雌株になるなどの説が語り継がれていますが、
どれもイマイチ分からないということです。雄株か雌株かは4月ご
ろ花が咲いてからはじめて分かるそうで、房状の花を咲かせるのが
雄株。雌花は細長い枝の先に緑色の胚珠がむきだしになって咲くそ
うです。
イチョウ科イチョウ属の落葉高木。
(055)

 

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秋編(10月)・第5章「モミジの赤色 イチョウの黄色 空の青色」

(2)カラタチ

 トゲだらけの木に黄色いカラタチの実がなっています。カラタチ
は唐橘(からたちばな)の略で、唐のタチバナのこと。中国中部の
原産で遠い昔、日本に渡来しました。

 黄色い実は、短い毛におおわれていて、外観はさえず、皮はなか
なかむけません。やっとむいても、ひと通りの酸っぱさではなく、
食べられません。

 カラタチは、他のかんきつ類と活着しやすいので、ウンシュウミ
カンなどの台本によく使われています。

 北原白秋の♪カラタチの花が咲いたヨ……の歌。子どもの頃、学
校への行き帰りに見た物を詠んだとか。我がご幼少のおり、投稿の
途中、お墓の隣にカラタチがありました。

 実をとろうと手をさし込んでもとげで傷だらけ。どうやってとっ
たのか、がき大将は、実をまりのかわりにして、ひとり遊んでいま
した。
(056)

 

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秋編(10月)・第5章「モミジの赤色 イチョウの黄色 空の青色」

(3)イヌマキ

 農家のわきの細い道を歩いていると、生け垣のなかにイヌマキの
実を見つけました。人形のような形をした実は、紫色に熟していま
す。

 頭にあたるところが種子で、胴の形のところが花托(かたく)な
のだそうです。花托は熟すと甘いので、昔の子どもはおやつがわり
食べました。いまは、おとなが山歩きの途中に懐かしんでつまむく
らいです。

 イヌマキの材は丈夫で美しく、シロアリの害に強いので、建築材
に使う地方もあるそうです。また、割れやすいが堅く耐水性がある
ので、器具や機械、土木などにも利用されるということです。

 その他、生け垣に、果樹園の防風垣に、また庭園、公園よく植え
てあります。マキとは円木の略。また、杉を真木(本当の木の意味)
といい、この木を卑しんで犬の字をつけたというあります。ワン!
ごめん。マキ科マキ属の常緑高木
(057)

 

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秋編(10月)・第5章「モミジの赤色 イチョウの黄色 空の青色」

(4)センブリ

 センブリは漢字で「千振り」と書き、千回煎じ降り出してもまだ
苦いというのでついた名だという。成分はスウェルチアマリンとい
うもので、一万倍に薄めてもなお苦いとの実験報告があるからモノ
スゴイ。千振りどころか「万振り」なのであります。

 かつてはこの煎じ汁で髪の毛を洗ったという。あまりの苦さに毛
ジラミも苦しみ逃げ出したという。また糊に練り混ぜると、これで
貼ったものには虫がつかないといわれ、それを聞いて一人娘に塗っ
た人がいたとかいないとか。

 秋、白色で紫色の条線のある花を咲かせます。花冠は深く五つに
裂け、雄しべ5本、雌しべ1本、ほとんど離弁花のように見えます。
花の咲いている間はものすごく苦い。その花が咲いているころに採
集、黄色で分岐する根を水洗いして、全草を乾燥。粉末にしたり煎
じたりして胃腸薬に使用するのは有名。

 アルコールを飲み過ぎて気分の悪いときには、葉茎の濃い煎じ汁
を茶わんに一杯飲むと、胃の内容物が吐き出せて気分がよくなると
いう。また、センブリ常用者に胃ガンになる人が少ないという人も
います。センブリは日当たりのよい山野に多くトウヤクとも呼んで
います。
・リンドウ科センブリ属の2年草
(058)

 

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秋編(10月)・第5章「モミジの赤色 イチョウの黄色 空の青色」

(5)アキグミ

 秋の山野でアキグミを見つけるのも楽しみの一つです。枝にびっ
しりと赤い実をつけたアキグミは、河原に多く生え、秋空とまわり
の枯れススキに美しく映えています。

 大きいものは高さ3m以上にもなるという落葉低木です。3m以
上になっても低木なんだなと思ったら「厳密な定義は存在せず。文
献によりまちまち。一般的には樹高5m以下もしくは5m以下の
木のことを指す」なのだそうです。

 夏に熟すグミだからナツグミ。秋のグミだからアキグミ。なるほ
どなるほどと、口にほおばります。うまいけれど小粒なので、種子
を吐き出すのがめんどう。いいかげんでやめてしまいます。

 新潟県や山口県のことわざに「アキグミはいくら食べてもよいが、
ナワシログミ(この場合トウグミのこと)は食べ過ぎると腹をこわ
す」というがあるそうです。

 ナワシログミの果実(トウグミ)は大きいのでつい食べ過ぎにな
ってしまうが、そこへいくとアキグミの果実は小粒なので種子をは
き出すのが面倒になり、いい加減なところでやめるからではないか
という。

 アキグミの方言もその地方で、アズキグミ、コメグミ、マメグミ
などといろいろありますが、どれもアキグミの果実の小さいことか
らきた名前だそうです。

 もっとも鹿児島県でコメグミというのはコメの実るころ食べられ
るからだそうで、かつては春、コメグミの花の咲き具合でその年の
稲の豊作を予想したという。

 中国地方では、アキグミをアサドリというそうです。鳥取県では
5,6月にその新葉を摘んで、乾かしてから炒り「アサドリ茶」を
つくって飲むそうです。また、鳥取県ではアサドリの葉を干して蓄
え、冬の間の家畜の餌にまぜて食べさせるという(「植物の世界・44
号」)。

 民間薬としても利用するという。葉と皮を煎じて飲んで胃病に、
根を陰干ししてかぜ薬としても用います。アキグミの材はねがり強
いので、道具の柄(え)や囲炉裏(いろり)の自在鉤(かぎ)に使
用したそうです。

 ちなみに、伊豆七島と関東地方南部の海岸に生えている、葉の幅
が広くて丸いものをマルバアキグミとして区別しているそうです。
・グミ科グミ属の落葉低木
(059)

 

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秋編(10月)・第5章「モミジの赤色 イチョウの黄色 空の青色」

(6)サルナシ

 猿が岩のくぼみにに、木の実をためてつくるといわれる「猿酒」
の話はだれでも一度は聞いたことだあるでしょう。その主な原料は、
このサルナシだといいます。

 色や味ががナシに似ており、猿が食べるようなナシでサルナシの
名前がありますが、人が食べてもおいしいため、なっているのを見
つけると人間さまもよく「横取り」をして食べます。果肉は甘酸っ
ぱい味ですが、細かい種子がたくさんあり、口から吐き出すのが面
倒というので果実酒にします。

 サルナシのつるは腐りにくく、丈夫なので、杖やかんじき、いか
だの材を結ぶのに使われ、また細工物などや蔓橋の材料にも利用さ
れます。                 太い幹は床柱にした
り、輪切りにすると年輪の幅が狭く、太い導管と広い放射組織の模
様がおもしろいので、どびん敷きを作ります。

 サルナシは、スイトウボク(水筒木)とかミズカズラ(水蔓)と
か呼ぶ地方があるそうです。この太いつるを切ると下の切り口から
水が出るからです。

 山仕事でのどが乾いた村人はよくこの水を利用するという。この
樹液は体にもよく、脚気、心臓、腎臓、咳やたんなどの薬として飲
用する地方もあります。
・マタタビ科マタタビ属の落葉つる性植物
(060)

 

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第6章 トイレの前に手を洗え ハゼノキのあるキャンプ場

秋編(10月)・第6章「トイレの前に手を洗え ハゼノキのあるキャンプ場」

(1)ハゼノキ

 野山を美しく染めるものの一つに、ハゼノキがあります。戦国時
代の末期頃、中国から輸入されたとかで、果皮からろうを採るため
栽培されましたが、野生化もしています。

 果皮を蒸し、圧搾してとったろうでつくる和ろうそくは、手間が
かかり、何度も溶かしたろうの中に灯芯を浸し、絵ろうそくをつく
ります。

 ハゼノキは、ウルシの仲間。幹に傷をつけると、白い漆液が出ま
すが、ウルシとしての用途はほとんどない。リュウキュウハゼ、ロ
ウノキ、ハゼウルシ、サツマウルシ、トウハゼ、ハジノキと、栽培
が古いので方言が多くあります。

 紅葉のきれいなハゼノキも問題はウルシ。登山、山歩きの時、間
接的にもつくことが多いので、くれぐれもトイレの前に手を洗いま
しょう。かぶれたひどい目にあうことがあります。
(061)

 

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秋編(10月)・第6章「トイレの前に手を洗え ハゼノキのあるキャンプ場」

(2)ナンバンギセル

 ナンバンギセルは漢字で書くと南蛮煙管。その名のように南蛮渡
来のキセルのような形で、先端に「がんくび」のような花を咲かせ
ます。

 この植物が寄生性であることは有名で、山道などでススキの根元
に生えているのをよくみかけます。寄生するものは、ススキのほか、
サトウキビ、ヒエなどのイネ科のほか、ミョウガ、スゲ属の植物な
ど。

 ナンバンギセルはハマウツボ科ナンバンギセル属の一年生草本。
全体はやや肉質で無毛。直立した茎のように見えるのは実は花茎で、
茎はほとんど地上に出ず、赤褐色のりん片状の葉を数枚つけます。

 その葉のわきから15〜20センチの花茎を出して、その先に横向
きに淡紫色の花をつけます。がく片は、合着して舟形になり先がと
がっていて、片方が裂け淡紅紫色のすじがあります。花冠は筒状。

 さく果は卵球茎で1〜1.5センチくらいの大きさ。種子は小さ
く多数。草は寄生性のため葉緑素があありません。ナンバンギセル
は薬草だという。強精、強壮、不妊症によいというのです。

 この草をショウチュウに漬けて、冷暗所に1ヶ月置いたものをサ
カズキに毎日1〜2杯飲むとバッチリだとものの本に書いてありま
す。ただし私はまだ試していませんが……。

 古くは「オモイグサ」と呼ばれ、「万葉集」にも出ています。日
本全土の山野で見られます。
咲くといふものにはあらぬきせる草 森田公司
・ハマウツボ科ナンバンギセル属の寄生植物
(062)

 

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秋編(10月)・第6章「トイレの前に手を洗え ハゼノキのあるキャンプ場」

(3)アケビ

 秋の山道にアケビの皮が落ちています。中味がありません。サル
でも食べたあとなのでしょうか。どこに木があるのか、まだ実が残
っているか気になります。

 見あげる首が痛くなるころ、「あった、あった」。皮がさけ、おい
しそうな果肉をあらわしています。でもとてもとれる高さではあり
ません。くやしまぎれに「ほかのサルに残してやろう」などと、ひ
とりごと。

 アケビの果肉は、食べると甘いですがタネが多いのが欠点。いち
いち吐き出しているのは都会育ちの人。山里育ちの人たちはタネご
と飲み込んでしまいます。アケビの果肉は、食べるとむくみのよい
といわれています。

 アケビは熟すと口をあけ、中味を出すので「開け実」・「欠び」・「開
けつび」の意味からきたのだという説と、同じ科で口をあけないム
ベが口を開けたという意味の「アケウベ」がつまってアケビになっ
たのだという説があります。

 アケビの若葉やつる先は、ゆでてあくを抜いて、ゴマ和えや油み
そ和え、酢じょうゆ油、油いためにしたり、塩漬けにしても食用さ
れます。一度蒸してから軽く炒ったり、そのまま刻んで干しフライ
パンで軽く炒ってまた干し、熱湯を注いで「アケビ茶」として利用
するという。

 また、果実の皮もゆでて一晩水にさらしてあくを抜き、刻んで油
でいため、砂糖を入れて和えながら煮込んで食べたりします。

 中国明時代の本草書で、飢饉の時に救荒食物として利用できる植
物を解説した「救荒本草」にも「嫩果(どんか・若くてやわらかい
実)を採り、水を換え煮食す。樹にて熟する者もまた摘み食うべし」
とあり、奨励しているそうです。

 あのタネも食用油原料になり、また軽く焙って焦がして食べたり、
果肉といっしょによく噛んで食べたりします。

 つるは、アケビ細工として、どびん敷き、果物かご、おしぼり入
れ、状差しなどをつくります。

 大きくなった蔓は、薬用としても利用されます。生薬名は木通(も
くつう)。成分にアケビン、多量のカリ塩を含み、消炎性の利尿薬
として、漢方で脚気、利尿剤、むくみに利用するという。

 アケビにはこのアケビのほか、小葉が3個あるミツバアケビや5
個あるゴヨウアケビがありますが、みな食べられます。本州、四国、
九州に分布。
・アケビ科アケビ属のつる性植物
(063)

 

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秋編(10月)・第6章「トイレの前に手を洗え ハゼノキのあるキャンプ場」

(4)シイの実

 朝から晩まで机に向かっていると、どうして実運動不足になりま
す。そこで毎日夕方になると近所の神社に散歩に出かけます。

 シイの実が落ちる音がします。犬の散歩に来た人がその実を踏み
そうになり、あわててまたぐようにしてかけていきます。

 シイは5月下旬のころクリの花によく似た強い匂いのある花を穂
状花序に咲かせ、果実は次の年の10月に熟すというのんびり屋さ
んです。

 シイにはコジイ(ツブラジイ)とイタジイ(スダジイ)のふたつ
の種類があり、実は両方とも炒ってもそのままでも食べられます。

 まだ農業を知らなかった大昔の人たちは、シイの実が大事な食料
であったらしく、古墳からたくさん発見されています。
・ブナ科シイノキ属の常緑高木の総称
(064)

 

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秋編(10月)・第6章「トイレの前に手を洗え ハゼノキのあるキャンプ場」

(5)クルミ

 ケーキやクルミもち、クルミようかんなどに利用されるクルミは、
日本にも自生。オニグルミ、ヒメグルミの2種があります。平安時
代の書『延喜式』(905年)にもクルミおよびヒメグルミが信濃国
から菓子として献上されたとあり、縄文時代の昔から食べられてい
たのだろうといわれています。

 日本原産のもの以外に、ペルシャクルミが有名です。原産地のペ
ルシャから世界に広まり、各国で栽培されています。中国には4世
紀ごろ、中央アジア経由で伝わり、胡(西の方にある国)から伝来
したというので、「胡桃」の名がつけられたという。

 この胡桃が朝鮮半島から日本に渡ったのが江戸時代中期。唐グル
ミ、朝鮮グルミと呼びました。これとは別に豊臣秀吉が朝鮮出兵の
際、兵が持ち帰ったものもあり、シナノ(信濃)グルミに発展した
という話もあります。

 明治以降、いろいろなクルミを導入、交雑されて、さまざまな優
良品種が作出されました。オニグルミ、ヒメグルミ、ペルシャグル
ミ、シナノグルミのほか、ペルシャグルミの変種テウチ(手打ち)
グルミ(割れやすい)。殻が黒いクログルミ、バターナットなどの
種類があります。
・クルミ科クルミ属の落葉高木
(065)

 

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秋編(10月)・第6章「トイレの前に手を洗え ハゼノキのあるキャンプ場」

(6)サルトリイバラ

 山中の木などにからんだつるに、赤く熟したサルトリイバラの果
実がよく目立ちます。果実は渋味と酸味に甘味があり、食べられま
す。完熟が少し手前のものがよく、塾しすぎるとスカスカになって
しまいます。これで、淡紅色の果実酒をつくる人もいます。

 きれいな果実と、節ごとに曲がる木性のつるは、生け花にも好ま
れます。子供のころ、この葉の大きいのをよくとりに行かされまし
た。自家製まんじゅうを蒸すとき、この葉で包んで使うためでした。

 茎は緑色で硬く、高さ3mにもなり、まばらにトゲがあり、これ
にサルもひっかかるというのでサルトリイバラ(猿捕り茨)の名が
あります。

 また実際に、昔の猟師は丈夫なこのつるを、サルをとる仕掛けに
使ったことから名づけられたといわれています。

 若い葉はゆでて野菜の代用にし、また昔は大きな葉をカシワの代
わりの菓子やもちを包むのに利用されました。

 この根茎を山帰来(さんきらい)といい、利尿、解熱、解毒、浄
血剤として、膀胱炎、梅毒、こしけ、はれ物などに用いられます。
中国では土伏(どぶく)りょうという。
 「山帰来」というのは、昔は不治の病だった梅毒にかかると、ム
ラから追われて、山中で生活したという。食料に困ったある人がイ
モのようにふくらんだサルトリイバラの根を食べたところ、いつの
間にか病気が治り、山から帰ってこられたとのエピソードもありま
す。

 「山帰来」というのは、昔は不治の病だった梅毒にかかると、ム
ラから追われて、山中で生活したという。食料に困ったある人がイ
モのようにふくらんだサルトリイバラの根を食べたところ、いつの
間にか病気が治り、山から帰ってこられたとのエピソードもありま
す。・ユリ科シオデ属の落葉つる性植物
(066)

 

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10月終わり