【野の本・山の本】夏編

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【まえがき】

 夏、山に登ります。真っ青な空、雲がわき、山が招いています。
人間が本来持っている動作である「歩行」。これは、大昔から変わ
りません。重いザックを背負い、汗をかき、雪渓を渡り、お花畑を
横切り、稜線を歩きます。新しい風が、全身を撫でます。空が大き
く広がり、自分より高いものはありません。この爽快さを求めて、
みんな山に登るのです。

 みんなが待ちに待った夏休み。ギラギラ光るデッカイ太陽。入道
雲の下、海に飛び出します。白いヨット、寄せる波、かえす波。そ
こには、イソギンチヤクや貝、カニたちが知恵を出し合って生きて
います。

 夏は、また、野原もにぎやかです。むせかえるような草いきれの
中に、お地蔵さまが立っています。キリギリスやセミの鳴さ声。突
然、足元からバッタが飛び跳ねます。カンカン照りの中で、みんな
がんばつています。

 農家の庭先にヒマワリが咲いています。太陽に負けないような大
きな花が、空に内かっている様子は、まるで、人工衛星の電波を受
けるパラボラ・アンテナのようです。

 夏という字は、もと、頁に臼と攵の合字でした。頁は頭や首、臼
は両手、攵は両足のことで、合わせて人間の姿を表わしているのだ
そうです。

 また、夏の字は人が裸になり、両手、両足を露出している格好だ
ともいわれます。裸になるのは暑い時期のこと。ですから、裸はナ
ツを意味するのです。

 一方、ナツは、アツ(暑)・ナル(生)・ネツ(熱の字書)からき
ているという説もあると「広辞苑」に出ています。季節の分け方の
定義は、春分点、夏至点、秋分点、冬至点がそれぞれ春夏秋冬の初
めとしています。それを厳密に計算すると、夏は93日と15時間にな
るそうです。                           とよた 時

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(夏編・まえがき)終わり