春 編 3月

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●目次

第1章 弥生3月 真道祖神にも 春の風
 ・(1)弥生、道祖神(007) ・(2)フキノトウ(008) ・(3)シュンラン(009)
 ・(4)スミレ(010、011) ・(5)ネコヤナギ(012-1) ・(6)アマナ(012-2)
 ・(7)ウグイスカグラ(012-3) ・(8)オウレン(キクバオウレン)(012-4)
 ・(9)コオニイタビラコ
(012-5) ・(10)シダレヤナギ(012-6)
 ・(11)シロバナタンポポ(012-7) ・(12)セキショウ(012-8)
 ・(13)ツリガネニンジン(トトキ)
(012-9)

第2章 春の雪 真っ白な中に リスの影
 ・(1)リス(013) ・(2)スギの花粉(014) ・(3)ハコベ(015)
 ・(4)オオイヌノフグリ(016) ・(5)ウメ、ウグイス(017) ・(6)キブシ(018-1)
 ・(7)バイカオウレン(p18-2) ・(8)フクジュソウ(p18-3) ・(9)マサキ(p18-3)
 ・(10)マツグミ(p18-4) ・(11)ミスミソウ(p18-5) ・(12)ヤブカンゾウ(p18-6)
 ・(13)ヤマラッキョウ(018-7)

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第1章 弥生3月 真道祖神にも 春の風

 春編(3月)・第1章「弥生3月 真道祖神にも 春の風」

(1)弥生、道祖神

 田んぼのあぜ道を歩きます。遠く雪をかぶった山から吹き下ろす
風は、まだ、寒く感じます。

 しかし、このころは3月、まぎれもなく春の風です。三叉路に建
つ道祖神の石碑も、どことなくうれしそう。

 道祖神は、村境や道路の辻、峠などに祭られていて、外から入っ
てくる病気や悪魔を追い払うために、昔の人が祈った神さまです。
また、旅人の安全、道を守る神さまでもあります。丸い石や、神さ
まの像を刻んだものなど、いろいろな形があります。

 3月を旧暦では弥生(やよい)と呼びました。弥生とは、草や木
がいよいよ生い茂るという意味だそうです。昔の本(江戸時代中期
の正徳3年(1813)の「滑稽雑談・こっけいぞうだん」)にも「…
…萌(も)え出でたる草も、この月いよいよ生いさかんなれば「い
やおい月」ということを略して「やよい」というなり」と出てきま
す。
(007)

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 春編(3月)・第1章「弥生3月 真道祖神にも 春の風」

(2)フキノトウ

 暖かい土手や田んぼの斜面に、可愛いフキノトウが顔を出してい
ます。フキの花のつぼみです。

 形が「塔」のようなので、こんな名前がつきました。

 フキノトウは、天ぷらにしたり、つくだ煮、フキみそなどにし、
お父さんの酒の肴にもってこい。とって帰ると喜ばれます。

 春の山菜としてダントツの人気です。いまは畑で栽培され、スー
パーなどにも並んでいます。つぼみはだんだん花茎がのびていき、
白い花を咲かせます。

 そのフキノトウの薄い葉を一枚はがして笛にして遊びます。唇に
当てて吹くと、ふるえるような音が出ます。あまり長く吹いている
と、唇がしびれてしまいます。

 フキは、冠毛が風に乗って吹雪のように飛ぶので、昔はヤマフブ
キと呼んだそうです。
キク科フキ属の多年草・雌雄異株
(008)

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 春編(3月)・第1章「弥生3月 真道祖神にも 春の風」

(3)シュンラン

 農家の生け垣を横に見ながら、山道を登ります。林の中に道がの
びていきます。足元にシュンランの淡い黄緑色の花が咲いています。

 春早く咲くランだというので「春蘭」の名があります。また、花
弁にある斑点を人間の顔のホクロに見立てて、一名、ホクロともい
うそうです。

 昔の子供は、シュンランの花をのぞき込んで「爺(じじ)と婆(ば
ば)が抱き合っている……」と、クスクス笑ったり、花弁をはがし
ながら「ホントだ!」と大笑いをして遊びました。

 爺は唇弁の上にある頭の丸いずい柱のこと。婆は紫紅色の斑点の
ある唇弁をいったものです。

 花と茎をつみ、ゆでて酢の物、酢みそあえに。また、花をウメ酢
で塩に漬け込み、陰干しし、仕上げ塩をして漬け込み「ラン茶」を
つくるそうです。
(009)

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 春編(3月)・第1章「弥生3月 真道祖神にも 春の風」

(4)スミレ

 スミレも子どもたちのいい遊び相手です。別名・スモウトリグサ
といわれるようにスミレの首の曲がった部分をからませて引っ張り
合います。はっけよい。花が落ちた方が負けです。

 また、花茎の先の方にツメで穴をつくり、茎の元の方を通します。
それだけでりっぱなスミレの指輪ができました。指を通してお母さ
んをうらやませてやりましょう。

 スミレの語源は、花の距(きょ・ふくろ)の形が大工さんの道具
の墨入れ(いまはあまり見かけませんが)に似ているからとか、あ
まりかわいいので、すぐ摘みたくなることから「ツミレ」の変化し
たとする説などがあります。おもしろですね。

 私たちはなんとなくスミレと呼んでいますが、スミレ属の仲間を
いう場合と、スミレ属の中のスミレという種をいう場合があります。
スミレ属の仲間は世界に450種、日本に55種ともいわれ、主要な
亜種や変種が27種もあるそうです。

 それを大きく5つのグループに分けていますが、その違いは花柱
のここがどうとか柱頭そこがこうというような小さな違いなのだそ
うです。

 スミレは、大昔から日本人にも親しまれ、『万葉集』には、スミ
レの歌が2つ、ツボスミレの歌が2つあります。平安時代の『枕草
子』(清少納言)でも「草の花は」の段でツボスミレをあげており、
近世までにもいろいろな歌人や絵師によってスミレは、詠まれたり
描かれたりしてきました。

 ヨーロッパでもギリシャ時代から愛され、ローマ人はスミレ酒を
つくって飲んだり、中世イギリス人はスミレでつくったシャーベッ
トが好きだったそうですよ。
・スミレ科スミレ属の多年草
(010、011)

 

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 春編(3月)・第1章「弥生3月 真道祖神にも 春の風」

(5)ネコヤナギ

 山の上から降りてきて、沢すじや集落の村道わきの小川の岸など
に、ネコヤナギの花穂を見るとなんとなくホットします。

 とくに、雪や雨と汗でびしょぬれの時など、銀白色に光るネコヤ
ナギを横目で見ながら「バス停はもうすぐだ。もうすぐ着替えられ
るゾ。下着まで着替えてさっぱりしよう」と、自然に足が速くなり
ます。

 ネコヤナギは、日本産のヤナギの中でももっとも早く花を咲かせ、
昔から人々に観賞されてきました。日本列島、朝鮮半島、中国、ウ
スリー川地方に分布。

 ヤナギ科の落葉低木ですが高いものは2〜3mにもなります。ネ
コヤナギは漢字で猫柳。ニャオーンなのです。葉より早くあらわれ
る花穂を猫の尻尾にみたてたものだとか。

 ネコヤナギは雌雄異株。雄花は初め厚い皮をかぶっていますが、
暖かくなるにつれて、大きく太り、自分で皮をぬぎます。水辺には
えるからカワヤナギ、犬の尾にたとえてエノコロヤナギなどとも呼
ばれ、オバナ穂をよく生け花に使われています。

 メバナ穂は実をつけ、白いわた(柳絮・りゅうじょ)は風にのっ
てユラユラ。「柳絮飛ぶ」は俳句では春の季語になっています。

 仲間にクロヤナギという変わったものもあります。ネコヤナギの
毛がなくなったもので花穂は芽鱗(がりん)を脱いでスッポンポン。
満開になり花粉で黄色になるまでその名のとおり真っ黒です。ネコ
ヤナギからの突然変異らしく、栽培されていますが雄株しかないそ
うです。

 猫柳高瀬(たかね)は雪をあらたにす 誓子
・ヤナギ科ヤナギ属の落葉低木
(012-1)

 

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 春編(3月)・第1章「弥生3月 真道祖神にも 春の風」

(6)アマナ

 早いところでは日当たりのよい草原や雑木林にもうアマナの白い
花を見かけます。アマナは甘菜の意味で、地下の球根の白い肉に苦
味がなく、生でも食べられるところからついた名前だといいます。

 アマナは一名ムギグワイとも呼ばれ、球根の形からクワイの名前
がついたのか、麦畑に野生するというのか、はたまた葉の細さを麦
にたとえたのかと、牧野富太郎博士も首をひねっています。

 ユリ科アマナ属。東北地方以西、四国、九州に分布する多年草で、
チューリップ属に含められることも多いという。しかし、根生葉が
必ず2枚あり、花茎に葉がなく、花茎が細く曲がりやすい、下の方
に2〜3枚の苞をつけるなどなどチューリップなどとは違う特徴の
ある性質を供えているところから本田正次・元東大名誉教授はアマ
ナ属として独立させています。

 アマナは春、2枚の根生葉の間から高さ15から25センチのや
わらかい花茎を1本(まれに2本)出し、先端に白い花を1つ、ま
れに3個つけます。花は広鐘形で日の光を受けて開きます。花被は
6片、せまい披針形で暗紫色のすじがあります。

 雄しべ6個、3個は長く3個は短い。1個の雌しべは雄しべより
短い。夏になると地上部は枯れてしまいます。
(012-2)

 

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 春編(3月)・第1章「弥生3月 真道祖神にも 春の風」

(7)ウグイスカグラ

 ウグイスの鳴きはじめるころに花が咲くのでその名がついたとも
いわれるウグイスカグラ。江戸時代中期の本『大和本草』(貝原益
軒・1709年)にも説明されています。

 これを植木屋さんがグミと呼ぶことががあり、地方ではグミノキ
というらしい。私もこどものころミズグミといってよく食べました。

 ウグイスカグラは、高さ1.5〜3メートル。葉は長さ2.5〜5セ
ンチの楕円形。花は淡紅色で先が五つに裂けたじょうご形。細長い
花柄の先に下を向いて咲きます。

 実は赤く熟し、みずみずしくアズキぐらいの大きさなのでアズキ
グミ、アズキイチゴなどと呼ぶ地方もあるそうです。ほかに毛のあ
る変種あり。

・スイカズラ科スイカズラ属の落葉低木。北海道・本州・四国・九
州の山野に自生。

※追:
 果実は赤くすきとおるようで、1センチくらい。生で食べるほか、
ジャム、果実酒、さとう漬け、みつ豆の飾りなどに利用します。

 仲間のヤマウグイスガグラは葉の一部に毛があり、またミヤマウ
グイスカグラは全体に腺毛があるところが違うそうです。
(012-3)

 

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 春編(3月)・第1章「弥生3月 真道祖神にも 春の風」

(8)オウレン(キクバオウレン)

 早春、山地の樹林の下、まだ周りが枯れ草の2月下旬ころ、オウ
レンの白い花を見つけます。高さ10aくらいのみずみずしい花柄
の先に2〜3個つけた、小さな可憐な花です。

 オウレンは清熱、止しゃ、消炎、解毒作用があり、不眠、口内炎、
下痢、眼、胃病などの薬草として栽培もされています。昼なお暗い
針葉樹林の下でも平気で育つため、スギやヒノキの植林のなかに種
をばらまいただけのようなものもあり、野生なのか栽培なのかわか
らないことも。

 この草にはベルベリン系のアルカロイドがあり、根茎の断面は黄
色で、かむと唾液が黄色になるほどの苦さで、葉まで苦い。薬用に
なるところはその根茎。

 葉は根生葉(根から直接出る)で三出複葉(茎に小葉が三枚つく)。
その複葉の形によって三つの変種に分けています。三出複葉が一回
なのをキクバオウレン、二回三出するのをセリバオウレン、三回三
出するのをコセリバオウレンと呼ぶのだそうです。

 このうち栽培されるのはキクバオウレンとセリバオウレン。主に
兵庫、鳥取、福井県で栽培され、産地の名を取って丹波黄連、因幡
黄連、加賀黄連などと呼んでいます。

 オウレンの白い花弁のようにみえるものは実はがくで小さく線形
のものがほんものの花弁。花は両生花とめしべがよく発達していな
い雄花があります。草木染めにも利用。
・キンポウゲ科オウレン属の多年草
(012-4)

 

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 春編(3月)・第1章「弥生3月 真道祖神にも 春の風」

(9)コオニタビラコ

 セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズ
シロ、春の七草です。このなかのホトケノザは、シソ科オドリコソ
ウ属のホトケノザではなく、早春の水田に生えるキク科ヤブタビラ
コ属の(コオニタビラコ)のこと。

 冬の寒い時、太陽の熱を逃がすまいと、羽のように分裂した葉が
地面に平たく張りついているロゼット葉。水の落ちた田に生えるそ
の姿から、タビラコ(田平子)の名前がつきました。

 タビラコは、日本原産の越年草。早春に若葉を摘み、ゆでて水浸
してからあえ物、ひたしものにして食べます。茎や葉は、傷つける
と白い乳液が出ます。

 根生葉は長だ円形で羽裂。4、5月ごろ、茎立ちし、斜めに伸び
るものや地に寝るものなど長さ10センチくらいの少し枝を分けた花茎
を数本伸ばします。そしてその先に径7ミリほどの小さい黄色の頭状
花をまばらにつけます。

 花は、舌状形で朝太陽の光を受けて開き、夕方閉じます。小花は
6個から9個くらいで花の咲いたあと結実すると下を向きます。

 果実は長だ円形で4ミリくらい。少し、偏平で冠毛がなく、先端の
両端にそれぞれ一つ、外に曲がった突起があります。

 分布は本州、四国、九州から朝鮮半島、中国まで。また人家の周
りにはヤブタラビコというのがあって、本種に比べ葉が柔らかく毛
が多い。花は5〜7月。草の高さ20〜30センチ。
キク科ヤブタビラコ属の越年草
(012-5)

 

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 春編(3月)・第1章「弥生3月 真道祖神にも 春の風」

(10)シダレヤナギ

 ヤナギの下のドジョウ、小野道風のカエル、またはユーレイのバ
ックに使われて、シダレヤナギは故事ことわざから拾うのにこと欠
きません。シダレヤナギはイナヤヤナギとも呼ばれ、枝のたれぐあ
いから「柳腰」などと女性の代名詞にもなっています。もっともな
かには柳ごおりのような腰の人もいますが。 

 ま、それはともかく「風に柳」ということわざがあるくらい、風
になびく姿は風情があります。

 学名をバビロニカといい、一見バビロニアが原産地のようだが、
現地には野生がなくこれは「旧約聖書」の詩篇第137に出てくるコ
トカケヤナギ(ヤマナラシ属)と混同、メソポタミアのユーフラテ
ス河畔に自生するものと思われてしまったからのようです。

 日本にはふるーい時代、原産地の中国から入ってきたものらしく、
万葉集に垂柳(しだりやなぎ)の名で出ています。

 品種の一つロッカクヤナギは、枝が垂直にしだれ先端が地面につ
きます。道風の先祖、小野妹子が「隋」から持ち帰り、京都の六角
堂(頂法時)に植えたのが最初だといういいつたえもあります。

 ・ヤナギ科の落葉高木、中国原産、雌雄株。春早く葉がのびきら
ないうちに黄緑色の花が咲く

 ・シダレヤナギは雄しべの葯が黄色なのが特徴、紅色だったりす
れば枝が垂れていても雑種か別種

 ・セイコ(西湖)ヤナギという品種は枝があまり長くならず葉も
短い

 ・どういうわけかユウレイはシダレヤナギの下に出るという。ネ
コヤナギの下では迫力でないなア
(012-6)

 

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 春編(3月)・第1章「弥生3月 真道祖神にも 春の風」

(11)シロバナタンポポ

 日当たりのよい道ばたや土手にタンポポが花をつけています。そ
のタンポポに白い花を咲かせるシロバナタンポポというのがありま
す。関東地方以西、四国、九州に分布する種類で、普通のものと違
うのは、花が白いほかに葉の緑色もうすい感じです。普通のタンポ
ポより全体に大形です。

 シロバナタンポポは、頭花が直径4センチくらい、たくさんある
舌状花の上の面は白く、下方にうす墨色の広いすじがあって、先端
は少し紅色をおびています。

 花のいちばん外側についている総苞は淡い緑色。総苞の外片は内
片のなかほど、またはそれより短く、披針形から卵状長楕円形で上
部で開出し、先端から少し下にやや大きな小角突起があります。

 九州や四国には、この種類以外のタンポポが野生しないところが
あって、タンポポの花は白いものだと思われているというから面白
いものですね。

 日本のタンポポは、たんぼの周辺や道ばたなど一定間隔で草が刈
り取られる草地を好んで生えます。光がよくあたる秋から春にかけ
て生育し、ほかの草でおおわれて光の条件がよくない夏は葉を枯ら
して休眠するのだといいます。

 タンポポの名についてはいろいろな説がありますが、花の形が鼓
に似ていることから「タン」は鼓の音、「ポポ」はその共鳴する様
子の幼児語だとする柳田国男の説もあります。
・キク科タンポポ属の多年草
(012-7)

 

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 春編(3月)・第1章「弥生3月 真道祖神にも 春の風」

(12)セキショウ

 ショウブより小形のセキショウは、水辺の岩の上や砂礫地に群生
するほか、栽培もされ、自然公園などでもよく見かけます。葉の幅
がせまく、常緑性で葉の中筋がはっきりしないところがショウブと
区別されるという。

 サトイモ科の多年草で、根茎はよく分枝し、線形の葉が根茎の上
に二列に生え、高さ30から50センチになります。花は3から5月、
花茎を出し、細い長さ五から10センチの黄色の肉穂花序ををつけ
ます。葉に似た花茎は一個の苞葉がついています。

 ふつう日本産のセキショウは二倍体で、花粉の減数分裂は正常な
のに、不思議にほとんど果実が実らないという。しかし山中の渓流
の岩場に生える超小型の系統はよく果実をつけ、また中国やタイの
系統はショウブと間違うほど大きくなり、果実もよく実るという。

 セキショウはショウブと同じように一種であるのか、いくつかの
種類にわけられるのかまだよく分からない謎の植物だ(『植物の世
界』)という。斑入りのものや小形のものは観賞用に栽培されてい
ます。
 根茎には、アサロンなどの製油成分が含まれているといい、健胃、
鎮痛鎮静、駆虫などの目的でいろいろな処方に配合されて利用され
ます。民間でも浴場用として、腹痛や腰の冷えなどに用いられてい
ます。
(012-8)

 

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 春編(3月)・第1章「弥生3月 真道祖神にも 春の風」

(13)ツリガネニンジン

 夏から秋、山野を歩くとツリガネニンジンの花が咲いているのを
見かけます。釣鐘の形をした薄い青紫の花が下を向き、風が吹く度
に揺れて風鈴のようです。

 根は肉質で太く、まるで薬用のチョウセンニンジンのよう。だか
らツリガネニンジン。なるほど、なるほでであります。

 この類のものは、中国では、沙参(しゃじん)と呼び、昔から薬
用とされ、日本でも江戸の昔から輸入していたそうです。

 民謡に「山でうまいは、オケラとトトキ(ツリガネニンジンの若
苗)……」とあるように、若芽や茎の先端部は、ゆでておひたしも
の、ゴマ和え、汁の実、テンプラに。根茎も塩づけからミソづけ、
カスづけに加工。乾燥したものは、家庭酒にも利用されています。

 『救荒本草抜粋』という本にも「苗はゆでて食うべし……。また、
磨麺(ひきこ)にも浄粉にもすべし」とあるそうです。根は水中に
一昼夜以上浸し、よく振ってサポニンを溶出後、ミソづけ、煮てあ
えものに利用しています。

 根を強壮、去痰(きょたん)剤に利用します。
キキョウ科ツリガネニンジン属の多年生草本
(012-9)

 

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第2章 春の雪 真っ白な中に リスの影

 春編(3月)・第2章「春の雪 真っ白な中に リスの影」

(1)リス

 やぶ山の中を歩きます。茶色に見える木々もよく見ると、春の芽
がのびはじめています。

 ブナ林の中でテントを張りました。ホエッホエッ。遠くで野ザル
の声がします。夜中、それとなくテントのまわりを小動物がウロウ
ロする気配がします。

 朝方、やけに冷え込むなと思い、顔をテントの外に出したら、ナ
ント、いつ降ったのか春の雪で真っ白です。

 そんな中、木から木へ黒い影が飛び移っていきます。リスがあわ
てて逃げて行くところでした。わがもの顔のへんな侵入者に怒って
見張っていたのでしょうか。
 せっかく春にむかってのびはじめた草木の芽も、この雪では驚い
て首を引っ込めてしまいます。

 それでもやはり春の雪、朝食も終わり、テントをたたむころにな
ると、朝日に照らされゆるみだしていました。
(013)

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 春編(3月)・第2章「春の雪 真っ白な中に リスの影」

(2)スギの花粉

 今頃になると、くしゃみ、鼻みず、鼻づまりの人が増えてきます。
スギの花粉のアレルギーで、赤い目をショボショボさせています。
スギのたくさん植えてある山に登ってみると、黄色い花粉が舞い上
がるのがわかります。

 もうかなり前のこと、星座観察で、夜中に高尾山に行きました。
きれいな夜景を見ているうち、ふとヘッドランプがスギの雄花を照
らしました。淡黄色の、だ円形が、枝の先にたくさん群がっている
アレです。もう十分にふくらみ、今にも花粉が飛び出しそう。それ
からは、もう、星座の説明を聞くのも、上の空でした。

 真っ直ぐに伸び、巨木になったスギは、なんとなく神さびた感じ
がします。そのせいか、神社の境内に多くあり、大杉神社、杉山神
社など、神社の名前が杉に由来している所もあります。
スギ科スギ属の常緑高木
(014)

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 春編(3月)・第2章「春の雪 真っ白な中に リスの影」

(3)ハコベ

 あぜ道にハコベがたくさん生えています。秋に発芽、春早くから
やわらかい、淡い緑色の葉を茂らせています。

 ハコベは、ハコベラを略したもので、ニワトリの大好物。英語で
も、チックウィード(ニワトリの雑草)。日本でも、ヒヨコグサ、
スズメグサの名前があります。

 ハコベは、山菜としても有名で、遠い万葉の時代から食べられ、
春の七草の一つにもなっています。汁の実、ゆでておひたし、から
し和え、煮びたし、きざんで、おかゆに入れたりします。

 薬草としても、お産の後、お乳の出がよくなるよう、また、浄血
剤に、脚気、胃腸薬にと活躍しています。

 おもしろいものでは、葉や茎を軽く炒って乾かし、粉にして塩を
混ぜ、ハコベ塩と呼んで、歯みがき粉に利用したこともあったそう
です。
ナデシコ科ハコベ属の越年草
(015)

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 春編(3月)・第2章「春の雪 真っ白な中に リスの影」

(4)オオイヌノフグリ

 日当たりの良い道端に、るり色の小さな花がたくさん咲いていま
す。オオイヌノフグリです。この草は、もともとはヨーロッパのも
の。1870年(明治3年)ごろ、日本に。

 それが、東京に入ってくると、もともと日本にあったイヌノフグ
リは、だんだん追い出され、今では、山の中に行かないと見られな
くなってしまいました。そのイヌノフグリの大きいものなので、オ
オイヌノフグリ。

 イヌノフグリとは、雄犬がぶれさげているナニのこと。果実の形
がそれにそっくりなため、こんな名前がついてしまいました。

 それにしても、こんなかわいい花に気の毒な名前です。そこで、
この花が咲き出すころになると、新聞でも話題になり、「誰がつけ
たか、オオイヌノフグリ」などの見出しが目につきます。
ゴマノハグサ科クワガタソウ属の二年生草本
(016)

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 春編3月・第2章「春の雪 真っ白な中に リスの影」

(5)ウメ、ウグイス

 雑草が生えかけた畑に、ウメの花が咲いています。ウメはもとも
と日本のものではなく、中国が原産。奈良時代の少し前に伝わった
のだそうです(いや、日本の大分県と宮城県に大昔から自生してい
たゾ、という説も)。

 ウメの「ウ」は接頭語で「メ」はウメの韓音だとする説、熟む実
がなまってウメになったという新井白石の説、また、烏梅を薬用に
中国から取り寄せてウメと呼んだという説など、なかなかうめェ説
がたくさんあります。

 ウメには、ウグイスがつきもの。ヤブの中で、チャッチャッと鳴
いていたウグイスも、じょうずにさえずるようになり、自慢げに人
里に出てきます。鳴き声をお経の「法、法華経」と当て字したりし
ます。ウグイスの糞は、江戸時代方ら美顔用に使用したとか。きれ
いになるのもたいへんです。
(017)

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 春編(3月)・第2章「春の雪 真っ白な中に リスの影」

(6)キブシ

 沢すじや谷すじの林道を歩いていると、葉のない褐色の木から、
黄色い花が鈴なりにぶら下がっているのを見かけます。水面に次々
に垂れているキブシの花はかなり目立ちます。

 キブシは、傘の柄に利用したり、クロモジと同様につま楊枝の材
料に用いられます。

 また、枝をいろりのかぎ棒の竿に使ったりしたのでキブシを「ジ
ンザイカギ」と呼ぶ地方もあるそうです。

 キブシは、子供の遊び道具にもなります。まず、枝の髄をぬいて、
その中に竹の矢を入れ吹き矢にして遊びました。ぬいた髄を芯にし
てまりをつくります。髄はそのほか、灯りの灯心に利用されたこと
もありました。

 果実は、五倍子の代用品として、昔は粉にし、女の人の歯を黒く
染めるのに使ったそうです。キブシ科
(018-1)

 

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 春編(3月)・第2章「春の雪 真っ白な中に リスの影」

(7)バイカオウレン

 山の針葉樹林のなかの日陰地に白い五弁花が咲いています。バイ
カオウレンの花です。バイカオウレンは梅花黄蓮の意味でその名は、
花がウメのようなのでその名があります。

 この植物は、本州、四国の亜高山帯の針葉樹林の中半陰地に生え
ており、地下茎は多少肥厚してやや長く、黄色のひげ根をたくさん
出し、横にはいます。

 茎は高さ約10センチ。葉は根生で叢生し硬く光沢があり、長い柄
があって手のひら状に五つに全裂し、長さ、幅ともに約2センチ以
下。小葉は厚質で倒卵形、基部はくさび形で2〜3浅く裂け、鋭い
歯があります。

 3〜5月、根生葉の中心から直立した帯紫色の花茎を出し、茎の
頂に真っ白な花が一箇ずつつき、径は約1.5センチ。がく片は5
個で花弁状,倒卵状長楕円形で先端は純形、長さは5〜9ミリくら
い。花弁は有柄で黄色のひしゃく状となり密槽に変わっています。

 花にはおしべ多数と心皮数個があります。花がすむと袋果が輪状
散形に並らびます。袋果は側面に一本の脈があります。ウメの花の
ようなのでその名があります。

 また、葉っぱがウコギ(五加木)のそれに似ているのでゴカヨウ
オウレン(五加葉黄蓮)とも呼ばれます。日本名は梅花黄蓮の意味
で花のようすに基づいてたものだそうです。また一名ゴカヨウォウ
レソともいうそうですが,これは五加葉黄蓮で、菓がウコギ(五加)
に似ているからだという。

 屋久島や台湾には地下茎が短く、全体が大きい形になる変種のオ
オゴカヨウオウレンが分布しているという。変種に根茎がつる状の
ものがあります。これをツルゴカヨウオウレンというそうです。(『日
本大百科全書』、『牧野新日本植物図鑑』から)

 だいぶ前のこと、和歌山県の大塔山系の法師山にニホンオオカミ
を探す会に参加したことがありました。ちょうどその日は雨から雪
に変わり、翌日山頂へ機械を撤収に行ったときは、一面の銀世界。
途中、雪の登山道に咲いていたバイカオウレンの花がいまでも頭に
焼きついています。
 キンポウゲ科オウレン属の多年生常緑の小草本。
(p18-2)

 

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 春編(3月)・第2章「春の雪 真っ白な中に リスの影」

(8)フクジュソウ

 よく正月の鉢物として売っているフクジュソウも、初めから栽培
されていたわけではありません。深山の落葉広葉樹のふちや林床に
自生する多年草。

 漢字で福寿草と書くからおめでたい花ですね。2〜3月ごろ、茎
の先に黄色い花をひとつつけ、日があたると上向きに開きます。大
きく育った苗では分岐して数個の花をつけることもあります。

 茎は花の時はまだ葉がのびず、高さ10センチ内外ですが、果実
ができるころに20〜40センチにもなるそうです。

 フクジュソウが正月の飾り花として栽培されるようになったのは
江戸時代前期かららしく、天和元年(1681)の『花壇綱目』という
本には「福寿草、正月初めより花咲く、花黄、朔日草とも元旦草と
もふくづくそうとも俗にいう」と記載。

 江戸末期になって『草木奇品家雅見(そうもくきひんかがみ)』

(1827)にはいくつかの品種が、弘化3年(1846)『百花培養考』に
は11品種、文久2年(1862)『本草要正(ほんぞうようせい)』のこ
ろにはなんと126種もの品種にふくれあがったそうです。

 フクジュソウの茎葉は3、4回羽状に細く分裂しています。花は
直径3センチくらい。花弁は12から20枚。早春、木の葉や大きな
草が生え茂って日陰になってしまう前の、短い間に日をあびて生長
し、実を結ばねばならない、忙しい草なのだそうです。
・キンポウゲ科フクジュソウ属の多年草
(p18-3)

 

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 春編(3月)・第2章「春の雪 真っ白な中に リスの影」

(9)マサキ

 寒い風が吹いているとはいえ、どことなく春の足音が聞こえる海
岸近くの林。その中に、常緑低木のマサキの木が大きく育っていま
す。
 その葉を採り、葉柄の方から筒のように巻き込み、片方をつぶし
て吹くと「ブェーッ」と鳴り「葉巻き笛」が作れます。吹いても息
がつまり、鳴らないときは、歯で少し噛み切って吹くとよく鳴りま
す。

 マサキの枝はなめらかで緑色。冬でも青いので「真っ青の木」ま
た、まさに木のなかの木という「正木」縁起がよい「真幸(まさき)」
などの意味からきた名前だといいますががはっきりしません。漢方
では木の皮をトチュウ(杜仲)の代用に利用するそうです。

 マサキは高さ2〜6mにもなり、葉は楕円形で、ふちが少しギザ
ギザしており厚く、表面に光沢があります。6〜7月ごろ、淡い緑
色の花をたくさん咲かせます。丸い果実は淡紫色に熟し、われると、
中から赤い種子が出てきてきれいです。
(p18-3)

 

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 春編(3月)・第2章「春の雪 真っ白な中に リスの影」

(10)マツグミ

 モミ、ツガ、アカマツなどの大木の枝につくヤドリギのマツグミ。
3〜4月に実が赤く熟しています。この実をとり、果実酒をつくる
人もいます。2ヶ月で黄色い酒ができおいしいとか。滋養強壮、疲
労回復、健胃整腸に効くという。興味のある方はどうぞ。

 アカマツによく寄生し、果実がグミに似ているのでマツグミ。常
緑半寄生低木とかで、若枝には褐色の毛があり、のちに落ちます。
よく枝分かれし下部は多少這い、宿主に吸着していることがありま
す。日本特産。

 初夏のころ、葉腋に2、3個赤色の花を集散状に咲かせます。直
径5ミリぐらいの果実は、やや球形でなかに白い種子が1個ありま
す。枝や葉を利尿剤にすることもあります。
・ヤドリギ科マツグミ属の落葉小低木
(p18-4)

 

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 春編(3月)・第2章「春の雪 真っ白な中に リスの影」

(11)ミスミソウ

 ユキワリソウという野草があります。雪割草と書き、まだ雪の残
っているころに花が咲くサクラソウ科の多年草。

 ところがキンポウゲ科にも雪割草と呼ばれる野草があります。ミ
スミソウとその品種のスハマソウです。同じようにまだ雪のある時
期に咲くためについた名前。

 ミスミソウは「三角草」と書きます。葉が三角形をしているかめ
の名だと聞きますが、なるほど定規で計ったような三角形。まさに
「サンカクソウ」なのであります。

 ミスミソウはキンポウゲ科ミスミソウ属の多年草。山地の落葉広
葉樹林などの下に生え、高さ5〜10センチのかわいい草。長い柄
のある葉はみんな根元から生え、高さ、2、3センチ、幅3〜5セ
ンチで三つに裂けた裂片の先がとがっているのがミスミソウ丸いの
がスハマソウです。

 春まだ浅き3月ごろ、枯れずに冬を越した葉の元から10センチ
位の、これまた長い柄を出し、その先に白また淡黄色の花をそれぞ
れひとつずつつけます。

 径1.7センチの花は花びら6〜9枚……といいたいところです
が、実際はがく片。花びらはないのだそうです。花のすぐ下に輪生
する3枚の緑色の、がく片に見えるものは実は茎葉というまぎらわ
しさ。

 花はつぼみの時はうつむいていますが、開くと次第に上向きに。
花がおわると新しい葉が広がっていきます。
(p18-5)

 

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 春編(3月)・第2章「春の雪 真っ白な中に リスの影」

(12)ヤブカンゾウ

 草原の中に黄赤色の八重のきれいな花が咲かせるヤブカンゾウ
は、ワスレグサとも呼ばれます。平安時代の辞書「和名抄」に「一
名、忘憂」とあり、これを身につけると憂いを忘れることができる
と信じられていたという。

 これは中国伝来の俗信で「万葉集」には「忘れ草我が下紐に付け
たれど醜(しこ)の醜草言(こと)にしありけり」(大伴家持)な
どと詠まれ、恋愛や望郷の憂いを忘れるために衣服の下紐に付けて
いたこともあったという。のち、憂いを忘れるよりも人から忘れら
れるという場合に使うように変化していったという。

 ワスレグサ(ヤブカンゾウ)はあの有名なニッコウキスゲ(ゼン
テイカ)の仲間。海岸の浜に生えるハマカンゾウ、野に生えるノカ
ンゾウも仲間です。そしてそれよりも人里近くのやぶに生えるので
ヤブカンゾウと呼ばれます。

 この草もかつては若葉をゆでておひたしに、あえ物に、また花を
三杯酢にして食用にしたというが、いまでは数も少なくなってしま
い、食べるにはなりません。

 葉は根元から生え、左右に2列にならんで、細長い。その間から
長い花茎を出して、その先に花をつけます。雄しべ雌しべが不規則
に花弁化しています。実は結ばないというからかわいそうです。
(p18-6)

 

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 春編(3月)・第2章「春の雪 真っ白な中に リスの影」

(13)ヤマラッキョウ

 まだ野山に木の実や草の実がない季節。野山の食卓にはもっぱら
若苗や球根が自然からの恵みです。野草のひとつヤマラッキョウも、
冬は地上の部分は枯れてしまいます。

 しかし、その球根はじっと春を待っています。これは「山に生え
るラッキョウ」という意味で名づけられたという。球根はラッキョ
ウに似てはいますがずっと小さい。

 ヤマラッキョウは地上部、球根とも食用にされ、一年中利用でき
ます。ゆでて酢みそ和え、辛子和え、ゴマ和え、油いため、その他、

生のまま適当に切って低めの温度で揚げたりします。

 ヤマラッキョウは、日あたりのよい山間の草地に生え、葉は茎の
下の部分に2、3本あり、円柱形で長さ20〜50センチ。断面は三角
形をしており、下の端はさやになっています。

 晩秋のころ、その葉の間から緑の茎が1本出てきて、30から50セ
ンチの高さにのびます。しかし大体は葉より少し短い。茎の先には
紅紫色の花が束のようになって生え、径3、4センチのボール形の
散形花序(軸から同じ長さの柄が傘の骨のように出て花がつく)に
なって咲きます。花が美しく秋の野原で人目を引きます。

 ヤマラッキョウとラッキョウの交雑は難しく、栽培されるラッキ
ョウの直接の原種ではないという。

 分布の南限は、鹿児島県の奄美大島北部の海岸(笠利町)までと
いう。また北限はこれまで関東地方と考えられていましたが、その
後、秋田県の雄物川流域で新に自生が発見されたそうです。
・ユリ科ネギ属の多年草
(018-7)

 

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3月終わり