【野の本・山の本】春編

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【まえがき】

 春の野原を歩きます。木陰に残っていた雪も、いつの間にか消え、
日を追って暖かさが増し、野山は緑が濃くなります。

 野原や、田んぼの斜面には、フキノトウが顔を出し、山の日溜ま
りには、タチツボスミレや、オオイヌノフグリが、かたまって咲い
ています。花たちのおしゃべりが聞こえてくるようです。

 春といえば、やはり、タンポポです。女の子をつれたお母さんが、
タンポポの花畑に座って、何かをつくっています。ヒラヒラ蝶が飛
んでいきます。それを見て、女の子が、ヨチヨチ歩きで追いかけま
す。何かにつまずいたのか、ころんでしまいました。

 春は、田んぼもいそがしくなります。ツバメが飛びかう下、あち
らこちらで、農家の人が働いています。急に世の中が活気づいたよ
うです。

 耕うん機で耕された土の中から、ドジョウがひよっこりあらわれ、
大あわてです。突然、カエルが足下から飛びはねます。

 春とは、田や畑を「墾(は)る」意味とか、気候の「晴る」意味
とも、草木の芽が「張る」からだともいわれています。

 また「春」の字は、昔は「艸」と「屯」と「日」の合字でした。
陽気がよくなり「艸(草)木」が発生する季節です。日は陽気のこ
と。「艸」は草木、「屯」は草木が芽を出そうとしてかがめることを
示しているのだそうです。

 なんといっても、春は人の心をウキウキさせます。そのせいか「大
字典」を引いてみると、春分、春光、春風、春陽、春雪など、百五
十近くの熟語が並んでいました。

 なにはともあれ、天が与えてくれた日本の春、思いっきり楽しも
う。                            
                                 とよた 時

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(まえがき)終わり