【クスリになる野菜・果物】第8章

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▼10月の野菜・果物

 ・(1)アズキ ・(2)カキ(柿) ・(3)キクゴボウ(スコルゾネラ)
 ・(4)クリ(栗) ・(5)クルミ ・(6)コスレタス(タチチシャ)
 ・(7)サンショウの実 ・(8)シメジ ・(9)シイタケ ・(10)ダイズ
 ・(11)トウガラシ ・(12)ナガイモ ・(13)葉ダイコン
 ・(14)ブドウ ・(15)マッシュルーム ・(16)ミズイモ(タイモ)
 ・(17)美濃早生ダイコン ・(18)ラディッシュ(ハツカダイコン)
 ・(19)リンゴ ・(20)ワサビダイコン(ホースラディッシュ)

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▼(1)アズキ(秋10月)

 めでたいにつけ、不幸があるにつけ赤飯を炊き、また彼岸のお
はぎ、正月15日のアズキガユと、アズキはムカシから日本人の
行事に深くかかわってきた作物です。

 アズキはその赤い色から魔除けとして用いられたもので、大昔
は食用としてよりも煮ると出てくる赤い色が珍重されたという。
そんなことから神への供物にもなり、平安時代の律令の施行の規
則を細かく書いた本「延喜式」大嘗祭(おおにえまつり)の項にア
ズキのあんのことが出てくる由。

 これほど日本人の生活習慣に欠かせないアズキ。国内の70%
が北海道で生産されています。しかもその年の気候で豊作凶作の
差が大きく、北海道の天候いかんで小豆相場はあがったりさがっ
たり。そのたびに大儲け組とスッテンテン組が……。まさに「赤
いダイヤ」なのであります。

 そもそもこのアズキ、温帯アジアの原産とかで、中国では20
00年も前から栽培されていたという。5世紀の中国の世界最古
の農書の「斉民要術」には、アズキとアカアズキを区別し、その
栽培法が載っているという(読んだわけではありませんが……)。

 日本には中国から3世紀に8世紀のあいだに渡来したとされ、
あの「古事記」にも「オオゲツヒメの死体の鼻にアズキが生えて
きた」と、その名が出てきます。

 918年(延喜18)、日本で最古の本草書「本草和名」(深江輔仁)
や、934年(承平4)の漢和辞書である源順(みなもとのしたがう)
著の「倭名類聚抄」(わみょうるいじゅしょう)にはアカアズキの
名が書いてあり、江戸初頭1612年(慶長17)の「多識編」にはシ
ロアズキのことが出ています。

 また、前出の「延喜式」にはアズキがいろいろ儀式に用いられ
たことと、産地が記入されているというから、かなり重要な作物
だったわけです。

 アズキはどこに属すかということで一時論議されたといいます。
が、結局いまはササゲ属として認められ、戸籍もはっきりしまし
た。

 それではアズキはなぜアズキか。これには専門書も「?」マー
ク。ただ古い本に赤小豆と書いてアカツキと読ませているものが
あり、その他アカツブキ(赤粒木)、アツキ(赤粒草)というのも
見られ、それらがなまったのではという説もあります。

 アズキは日本人以外にはあまり好まれず、中国や朝鮮でも栽培
は少なく、アフリカでのものは日本への輸出用だそうです。



【効能】漢方では赤小豆(しゃくしょうず)とよび、利尿・解毒
・排膿作用があるとしています。また長く食べ続けると、体を痩
せさせる作用があるといわれています。水太りの人、便秘がちな
人には特によく効くと考えられます。

・腎臓病、脚気などのむくみには……味をつけずに煮たアズキを
2〜3日主食がわりに食べます。

・指の腫れ(ひょう疽・ひょうそ)には…アズキの粉ともち米の
粉を等分に合わせて酢でねり、温めて指に塗ります。

・おでき・乳腺炎・リンパ腺炎などの腫れものには…アズキ粉を
酢でねって患部に貼りつけます。

・白なまずには……アズキを炒ってから粉末にしたものに、3分
の1の量の米ぬかを混ぜてガーゼに包み、熱湯につけ1日2〜3
回、1回に5分くらい、白くなった皮膚の部分を摩擦します。ま
た、新鮮なアズキを、蒸留水で侵出したエキスを指先につけ、白
くなった皮膚を30分から1時間くらいこする方法もあります。


中医学では、アズキは「清熱利尿(せいりつりにょう)、消腫(し
ょうしゅ)、酸血(さんけつ)」(熱をとり、腫れをひかせ、鬱血を
治す)の効果があるとしています。
 むくみには、トウガンと一緒に煮るとよいといわれています。

・マメ科ササゲ属の1年草 

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▼(2)カキ(柿)(10月)

 柿は古くから栽培され、親しまれた果樹で「猿蟹合戦」や「茶
栗柿」「柿十と十一」「絵姿女房」などの昔話にも登場します。

 また1月15日の小正月の「成木責め」の呪術、柿の木の又か
ら生まれたと伝える柿本人麻呂伝説、柿の木に妖怪が出るという
俗信などもあり、柿は生命またはこの世と他界とを媒介する存在
だとする民間信仰にもかかわっています。原産は中国・揚子江沿
岸なれど、大昔日本に渡来、改良されたもの。

 栽培はやはり中国が古く、2500年前の儒教の五経の一つ「礼
記」に記述があるという。6世紀前の「斉民要術」には、ひこば
えの利用と接ぎ木繁殖の方法が記されています。       

 日本での記録も古く、飛鳥時代の「新撰姓氏録」に柿本人麻呂
の庭に柿ノキがあったとあるのが最初。平安時代には干し柿利用
に栽培していたという。そのころはまだ甘柿、渋柿の差はなく、
区別がでてくるのは鎌倉時代になってからだという。

 江戸時代になると、多くの品種があらわれ明治には農務省が全
国に有料品種を調査し、富有、次郎、平核無、横野などを紹介し
たこともあって、大正初期には果樹園として近代的栽培が始まり
ました。



【効能】生柿は体を冷やす作用があり、酒の酔いをさまし、胃に
熱のあるとき食べると一時的に効果があるといいます。干し柿は
体力を補い、胃腸を丈夫にし、痰・咳を治し、二日酔いに効果が
あるという。また柿のヘタは「しゃっくり」の薬として使用され、
葉、とくに若い葉はビタミンCに富み、柿茶に利用。若葉は天ぷ
らにして食べられます。

・カキノキ科カキノキ属の落葉高木

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▼(3)キクゴボウ(スコルゾネラ)(10月)

 ゴボウによく似たヨーロッパ原産の根菜にバラモンジン(サルシ
フィ)とキクゴボウがあり、両方とも根を洋食に利用されます。

 キクゴボウは花が黄色いので、すみれ色の花を咲かせるバラモン
ジンに対してキバナバラモンジンとか、根が黒褐色なのでブラック
サルシフィなどとも呼ばれています。

 4月、5月に温床にタネを蒔いて初夏に苗を定植すると、ふつう
年内に収穫できます。6月ごろ・白または黄色の花を咲かせ、早朝
開いて午後閉じる開閉運動をします。根は約30センチの直根状。表
面は暗褐色、内部は白色で多肉質。切ると乳状の液がでてきます。

 この根を肉類といっしょに煮て食用に、また若い葉はサラダに利
用します。あまり永く置くと繊維が多くなるため、若いうちに収穫
し利用します。



・キク科フタナミソウ属の多年草

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▼(4)クリ(栗)(10月)

 雨グリ日ガキ…ということわざがあります。クリは雨の日がよ
く、カキは日照りがよいという。クリは世界に12種類分布し、
なかでもニホングリ、中国グリ、ヨーロッパグリ、アメリカグリ、
チンカピングリ(アメリカ)、モノパングリ(中国)などが主な品
種。

 ニホングリは野生シバグリがもとになっていて、「古事記」、「万
葉集」にも名前が載っており、古くから栽培されていました。

 クリといえば丹波グリが有名です。飛鳥時代、丹波国(いまの
兵庫県)山南町の山すそで、数千個もの実がなているクリの木を
見つけ、用明天皇(在位585〜7)に献上したという話も残っ
ています。

 また、江戸時代中期1753(宝暦3)摂津(いまの大阪府)
豊能群能勢町の人が、広島からクリの苗木を持ち帰り栽培。その
後、天明、寛政年間(1781〜1801)になり大干ばつ。こ
のクリが飛ぶように売れて、銀貨が産地に寄り集まったというの
で、この品種を「銀寄せ」と名づけたという。



 現在、クリの新芽に虫こぶをつくる害虫クリタマバチに抵抗性
の強い品種、筑波、伊吹、丹沢、石槌などが奨励栽培されていま
す。

【効能】腰痛や腎炎に栗粥を食べます。腰や膝に力がつき運動能
力や精力が増し、胃腸にも効くそうです。皮膚疾患に外用。煎液
でうがいし口内炎・扁桃腺炎に。

・ブナ科クリ属の落葉高木

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▼(5)クルミ(10月)

 ケーキやクルミもち、クルミようかんなどに利用されるクルミ
は、日本にも自生。オニグルミ、ヒメグルミの二種があります。

 平安時代の書『延喜式』(905)にもクルミおよびヒメグルミが
信濃国から菓子として献上されたとあり、縄文時代の昔から食べ
られていたのだろうといわれています。           

 日本原産のもの以外に、ペルシャクルミが有名です。原産地の
ペルシャから世界に広まり、各国で栽培されています。中国には
4世紀ごろ、中央アジア経由で伝わり、胡(西の方にある国)か
ら伝来したというので、"胡桃”の名がつけられました。

 この胡桃が朝鮮半島から日本に渡ったのが江戸時代中期。唐グ
ルミ、朝鮮グルミと呼びました。これとは別に豊臣秀吉が朝鮮出
兵の際、兵が持ち帰ったものもあり、シナノ(信濃)グルミに発
展したという話もあります。



 明治以降、いろいろなクルミを導入、交雑されて、さまざまな
優良品種が作出されました。オニグルミ、ヒメグルミ、ペルシャ
グルミ、シナノグルミのほか、ペルシャグルミの変種テウチ(手
打ち)グルミ(割れやすい)。殻が黒いクログルミ、バターナット
などの種類があります。

・クルミ科クルミ属の落葉高木

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▼(6)コスレタス(タチチシャ)(10月)

 コスレタス、葉が直立し半結球の形から日本名をタチチシャ(立
萵苣)といっています。一見、結球ハクサイに形が似ていて、細
長い葉が円筒形に半結球しており、名前からもイタリアの起源で
あることが分かります。

 湿潤な気候を好み、夏の霧の多いイギリス、フランス地方で主
に栽培されているという。

 地中海の小孤島コス島が原産で、原産地の名からコスレタスと
いうらしい。結球している外側の葉は濃い緑色をしているが、内
側の葉は軟白されて、やわらかくクリーム色をしています。

 葉は幅がせまく、長楕円形をしている。葉肉は厚く、葉面はな
めらかで、かすかな苦味と甘味がある。サラダとして生食に利用
されます。

 コスレタスは中世のイタリアで普通に栽培されていたが、15
37年フランスの風刺作家フランソワ・ラブレイが自国にもたら
し普及させたというが、16世紀にはフランスやドイツではごく
希にしか作られていなかったという。



 その後、イギリスなどでは比較的多く作られるようになったが、
いまもアメリカなどではわずかな栽培で、むしろ家庭菜園向けだ
といいます。

 普通のタマレタスにくらべ暑さに強く、比較的暖かい地方で発
達したものなので、玉レタスでは無理な夏に収穫するのもよい。
結球があまりよくないので、出来の悪い結球白菜のようにわらで
結んで結球を助けることもあります。

 レタス類には、クリスプヘッド型、バターヘッド型、コス型、
リーフ型、ステーム型に分けられます。コスレタスはコス型に属
し、ロメインレタスもこの仲間です。

 ちなみにレタスの学名は「乳を出す」という意味だとか。これ
は茎葉を切ると乳白色の液が出ることからついた名。おもしろい
ことに日本語でも、同じことからチチクサ(乳草)からチサそし
てチシャに変化したという。

・キク科アキノゲシ属の1年草

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▼(7)サンショウの実(10月)

 サンショウのすりこぎは幹が硬くて強いため重宝され、そのほか
杖にも利用されています。今回は「小粒でもピリリと辛い」サンシ
ョウのお話です。

 秋に山中で、赤く熟した果実の皮が裂けて、中から黒いタネがツ
ヤのある顔を出しているのを見ます。かむとピリッと辛く、なるほ
どさすがサンショウだと納得です。

 「木(こ)の芽」の若葉は和え物、酢の物など季節感ある料理に
利用され、若い果実は青ざんしょうといって、つくだ煮などに利用
されるのはすでにご存じの通りです。

 サンショウはハジカミともいいます。これは「はじからみ」の略
で、ハジははぜること、カラミはニラのことで「果実がはじけて、
ニラのように辛い」という意味だそうです。



【効能】山歩きなどで毒虫やハチに刺された時、葉をかみ砕いてつ
けます。タネを採った果実の皮は漢方の烏梅丸(うばいがん)に配
剤され、回虫駆除・胃酸過多症・慢性下痢・胃かいようなどに用い
られるそうです。ウルシかぶれに果皮の煎じ汁。胃腸虚弱・冷え性
・下痢・初期の風邪・ガスがよく出る人は、果皮の煎じ汁を服用。
「ものもらい」に青い実か黒い種子を5粒、米のりで薬丸にしてか
まずに飲むと治るとされています。

・ミカン科サンショウ属の落葉低木

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▼(8)シメジ(10月)

 「においマツタケ、味シメジ」とことわざにあります。かつて
はシメジというと、それに似た形のキノコを総称していっていた
が、いまは分類が進んでそのうちの一種ホンシメジをいうという。

 しかし、いま八百屋やスーパーに売っている「シメジ」は、ヒ
ラタケの栽培品であることが多くまた「ホンシメジ」として売ら
れているのは、シロタモギタケを栽培したもの。       

 ヒラタケは夏から秋、広葉樹の枯れた枝や切り株に群生し、栽
培に適したキノコで1年中つくれます。栽培はおがくずを入れた
ビンで育成。幼菌がホンシメジににているので「シメジ」または
「なんとかシメジ」の名で販売されています。

 また「ホンシメジ」の名で売られているシロタモギタケは、秋
にブナやニレなどの枯れ株に群生するキノコで、パックなどで売
られ、傘の色が黒褐色をしています。



 ちなみにほんとのホンシメジは、コナラやアカマツの混ざった、
やや乾いた山中に群がって生えます。高さ3から8センチ、茎は
下の方が少し太くなり白い。傘は半球形から丸山形。あまり大き
く広がらず、ねずみ色または淡灰色や淡灰褐色をしています。

・キシメジ科キシメジ属のキノコ

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▼(9)シイタケ(10月)

 マツタケ目キシメジ科のシイタケ。普通コナラやクヌギの原木
に栽培することが多いが、もともとはその名の通り、シイの木に
生えていたものだという。

 1億500万年前の白亜紀に誕生したとかしないとかで、モン
ゴル、中国の西安、台湾、ニューギニア、アンデスなどのあまり
太陽光線の届かないシイの木に息づいていたと伝えられます。

 そしていつのころか、その胞子が風に乗り中国や日本にやって
きました。中国では古くから不老長寿の薬として珍重されたとか。

 さて日本。シイタケ栽培で有名なのはやはり九州、とくに大分
と宮崎県。原産地から胞子が台風などに乗ってやってくるには格
好なところ。この地方では大昔から食用にしてきたといい、古書
に仲哀天皇(ちゅうあいてんのう)が熊襲征伐のため筑紫に行っ
たとき、村人が香ばしいシイの木のキノコを献上した。そのため
天皇は香椎宮(かしいぐう)とも呼ばれるようになったとも載っ
ています。

 またシイタケは昔から日本が原産地で、香茹(こうじょ)とい
う名前で中国に大量に輸出されていたともいいます。

 鎌倉時代の貞応2(1223)年、曹洞宗を開いた道元禅師が、
中国宋に渡航、明州慶元府(いまの寧波)に入港したときの話で
す。日本の船の到着を聞いた阿育王山の老典座(てんざ・老僧の
炊事係)がわざわざやってきて、シイタケを求めたという。そし
て道元に、修行僧にはシイタケのような栄養のあるものを充分食
べさせなければならないとさとした(道元著「典座教訓」)。

 シイタケの人工栽培は、江戸時代初期、慶安3(1650)年
ごろから大分県や伊豆などではじめられたといい、1696年の
「農業全書」にも書かれています。

 江戸も後期に入り、寛政8(1796)年にはシイタケ栽培の
専門書があらわれます。農学者佐藤成裕が書いた「温故斎五瑞篇
・おんこさいごずいへん」という本。この本には、原木の選び方、
伐採法、菌の発生を促進させる浸水法などまで書かれ、すでに「菌
師」という指導者までいたといいます。

 明治になると田中長嶺(ながね)、三村鐘三郎らが栽培法をさら
に科学的に改良。昭和に入るとこんどはシイタケ菌糸を純粋栽培
する「種菌接種法」が生まれさらに改良発展。

 これはアメリカでマッシュルーム栽培を学んだ森本彦三郎や農
林省農林試験場の北島君三らの考案。いまでは森喜作が発明した
クサビ型コマ製造法で台風をあてにしなくなりました。



【効能】高血圧・コレステロール・抗ガン作用。カルシウム、エ
ルゴステリン(日光に当たるとビタミンDになる)、ビタミンB1、
B2などに富み、滋養強壮剤として役立つ食品だそうです。

ハラタケ目キシメジ科シイタケ属の食用キノコ(図鑑によってはマ
ツタケ目マツタケ科)現在ほかの科に移す説が提唱されている。(07
年1月現在)

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▼(10)ダイズ(10月)

 若い実はエダマメに、熟した豆は煮豆・炒り豆・ひたし豆・豆
モヤシ・納豆・豆腐・みそ・しょうゆ・またゆばやお菓子の原料
に、油はてんぷら油、サラダ油と用途の広いダイズです。

 ダイズの祖先は東アジア、日本にも自生するツルマメというも
の。古代から食糧にされていたという。それがいつしか、いまの
栽培ダイズに改良された。その起源地は中国東北部からシベリヤ、
アムール川流域と考えられています。

 この栽培型ダイズが紀元前3世紀から紀元後7世紀にかけて中
国南部から朝鮮半島南部、日本、東南アジアに伝わったというの
です。

 また、その他ツルマメと中国南部に野生するトメントウザマメ
が交雑して栽培ダイズができたとする説もあります。

 これらとは別に中国東北部にマンシュウダイズというのがあり、
半野生化しています。このマメはツルマメと栽培ダイズの交雑だ
とのこと。あっちと交雑、こっちと交雑でだんだん複雑になりま
す。

 中国最古の栽培記録は「神農本草経」(後漢時代)で、前270
0年頃の神農の「五穀播種の儀」の作物のひとつだとされていま
す。日本でも大ムカシからツルマメを食糧としてきましたが、縄
文時代または弥生時代初期に中国から伝来したらしく遺跡から発
見されています。

 日本でのダイズの記録は「古事記」(720年)。スサノオノミ
コトに殺されたオオゲツヒメの死体から……「かれ殺されたまえ
る神の身に生(な)れるものは……鼻に小豆生(な)り、陰(ほと)に
麦生り、尻に大豆生りき」とあるのがそれ。



 平安時代に著された「延喜式」には「豆は三月(陰暦)に播種
され……すき耕してうね立て……」と記され、ダイズ主産国16
ヶ国があげられています。

 日本での栽培は明治〜大正にかけてが盛んで、多い時は48万
ヘクタールに達します。戦争をへて回復する生産も昭和36年の
輸入自由化でカックン。国内での収穫量がわずか24万トンに対
して輸入量は451万5千トン(昭和59年)になっていること
はご存知の通りです。

 いま世界一の生産国はアメリカ。ところがそのもとは日本から
導入したものがはじまり。1854年ペリーが持ち帰ってのち、
1896年農務省で試作したのが最初。20世紀になり栽培が急
激に増加したのだそうです。

【効能】大腸の活動・美容効果・肝臓病の予防・カルシウム補給。
ダイズの成分にサポニンという物質があり、体脂肪を減らすとい
う。肝脂肪のもとになる体内過酸化脂質というものができるのを
防ぐので肝臓病の予防になるそうです。
・マメ科ダイズ属の1年草 

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▼(11)トウガラシ(10月)

 トウガラシは、漢字で「唐辛子」と書き、唐から渡来したとい
う意味だそうです。また蕃椒(ばんしょう)ともいい、南蛮から
伝えられた辛いものとされています。

 唐辛子はまた「唐枯らし」に通じてしまい当時は唐の国から日
本に盛んに来航していたこともあって、あまり好ましい言葉では
なかったといいます。

 原産地は、ブラジルのアマゾン河りゅういきとかで、メキシコ
やペルーでは古くから食用にしていたといいます。

 しかし、あまりに辛いので、「毒物」と考えられていて、いまか
ら150年ぐらい前まではろくに研究する人もなく、トウガラシ
について、なにもわかっていませんでした。

 このトウガラシが、ヨーロッパに伝ぱしたのは、やはりあのコ
ロンブスの新大陸発見がきっかけ。原住民が食用としていたのを
1494年スペインに持ち帰ったのが始まりです。

 1548年にはイギリスに渡り、16世紀の中頃にはヨーロッ
パ全域に広まり、辛味食品として注目されました。

 そして東洋へは、16世紀ポルトガル船がインドにもたらして
から、東南アジア、中国へと広まります。 

 日本には、1542年(天文11)ポルトガル人が中国の港を
経て長崎に持ってきたのが最初。また一説には、1592年秀吉
の朝鮮出兵のときに、兵士がトウガラシの種子を持ち帰ったとも
いわれ、高麗コショウの名前もあります。



 当時は観賞用としても栽培され、1666年「訓蒙図彙(きん
もうずい)」という本には花草の部に、1694年の「花譜」(貝
原益軒著)にも記載されています。

 ナス科の1年草として扱っているトウガラシは、ふるさとの熱
帯では多年草になるという。属名のカプシクムは「袋」という意
味で果実の形からきています。

 トウガラシはまた薬用としても利用されます。赤色または暗黄
赤色の果実を蕃椒(ばんしょう)ないしはトウガラシと称し、漢
方では肺炎、リウマチ、神経痛、筋肉痛などの皮膚引赤薬として
使用、またアトニー性消化不良の治療に利用しています。

 トウガラシは、果肉も種子も辛いのが基本になっていますが、
辛味のない変種もあり、それによって「辛いトウガラシ」と「甘
いトウガラシ」に大別され、それぞれにいろいろへんしゅのある
のはご存知の通りです。

【効能】殺菌作用・食欲増進・新陳代謝促進・熱発生を高め肥満
防止。成分を湿布して冷えからくる腰痛や五十肩に効力。

・ナス科トウガラシ属の1年草

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▼(12)ナガイモ(10月)

 ナガイモは、名前の通り、細く長く、この仲間ではいちばんヤ
マノイモ(ジネンジョ)に似ています。ところが質ではヤマノイモ
科の中で、いちばん粘りがなく水っぽい。

 ヤマノイモよりは、あの平べったい「いちょう薯」と同じだそ
うで、ナガイモはこれから芽変わりしてできたものらしいという。
事実、いちょう薯の奇形の円柱状のものからナガイモ型ができる
のを実験確認されています。

 八百屋やスーパーで売られ、広く食べられているナガイモは、
中国大陸の中部から南部の原産。ふるーい時代に日本に渡り、畑
から逃げだしたのか、やぶの茂みなどに野生化したものも見かけ
ます。

 そこで、ナガイモとヤマノイモの違いはというと……。ナガイ
モは葉の形が卵型から楕円状卵形で、ヤマノイモより短い。その
基部も心臓形で耳状になった張り出しがヤマノイモよりもはっき
りしています。また茎や葉柄に紫色の色素があるので外見にも区
別ができます。しかし花の形や時期はヤマノイモとそっくりです。

 先のいちょう薯などは植えつけて収穫まで2年以上かかるが、
ヤマノイモは1年で80から90センチに生育するので、「一年薯」の名
もあります。

 さて、ナガイモの品種について聞きかじりを一席。文字通り長
いのがナガイモ。日本の代表品種で関東以北寒冷地に多い。一年
薯、らくだ薯、江戸薯、馬鹿薯などの名もあります。やや短根で
大型なのが徳利薯。とろろ用によい。偏平でイチョウの葉のよう
ないちょう薯。関東以南で栽培され、肉の厚いものがよいという。
いもが短縮してかたまりになったものが仏掌薯で、伊勢薯、宇多
薯なそ地名をつけて呼ばれるものも同じ系列という。



 ナガイモはでんぷん質に富み、すりいも、とろろ汁、煮もの、
いもがゆなどに利用され、また、ねり性食品や菓子原料としても
大切なもの。小田原名物「山いもまんじゅう」、東京の「花園まん
じゅう」などがあります。

 ナガイモは薬草でもあります。生薬名をサンヤク(山薬)とい
い、秋に外皮をむいて日乾かし、漢方で滋養強壮の目的で用いま
す。昔はヤケド、ヒビ、アカギレなどに生のものをすってつけた
りもしました。

【効能】高齢者や虚弱者向きの強精強壮食品。糖尿病・精力減退
・頻尿・寝汗などに。

・ヤマノイモ科ヤマノイモ属の宿根性つる草

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▼(13)葉ダイコン(10月)

 ダイコンは種類が多く、日本で栽培されるものだけでも100
〜120もの品種があるという。そんななかで葉とり専用のダイ
コンがあっても不思議ではありません。

 ダイコンの葉は、緑黄野菜でカロチン(ビタミンA効力)、ビタ
ミンC、カルシウム、鉄、カリウムなどが多く含まれているとい
う。そんな優良野菜が葉ダイコン。

 葉ダイコンは、葉がやわらかく葉毛が少なく、在来種の宮城県
の「小瀬菜」や、山形県の「くきとりダイコン」は、葉が1メー
トルにもなるという。また、亀戸ダイコンと美濃早生の交配種「美
菜(びさい)」は、東京でつくられた品種で長さ20センチ、軟か
く味もよい。

 油いために、汁の実、浸しもの、てんぷらなどに利用されます。



【効能】緑黄野菜でカロチン(ビタミンA効力)、ビタミンC、カ
ルシウム、鉄、カリウムなどを含有。

・アブラナ属ダイコン属の野菜

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▼(14)ブドウ(10月)

 ブドウの栽培種には、ヨーロッパ系とアメリカ系、それに両者
の交雑種があります。

 ヨーロッパ系の原産地は、コーカサス、カスピ海域で、紀元前
5000〜前4000年にすでにこの地方で栽培されていたとい
う。これが東西に伝わっていきます。

 東方インドへは紀元前620年に、中国へは紀元前128年に
漢の武帝の使者張けんが西域からもたらしたともいわれます。日
本にも相当古い時代、中国経由で渡来したらしく鎌倉時代に入る
か入らない文久2年(1186)山梨県勝沼町の雨宮勘解由(あ
まみやかげゆ)が道ばたに生えるブドウを発見しています。

 これは同地の古刹大善寺の薬草園にあったヨーロッパ系が野生
化したもの。雨宮勘解由は自宅の庭に移します。これが日本で最
初のブドウ栽培であり、甲州ブドウの起源です。



 明治になり、ヨーロッパやアメリカから多くの品種と技術を導
入します。しかし多雨多湿な気候に適さず、温室栽培の2、3種
が残っただけ。その後、両方の交雑種に日本の気候にも合うもの
が見つかり、栽培地も広がります。大正末期には品種改良も進み、
多くの有料品種が作出、次第に果樹として主要な位置を占めてき
ました。

【効能】滋養強壮・食欲増進・体力補強・のどの渇き・イライラ
解消。食べ物がつかえた時、ブドウの汁を飲む。母乳の出が悪い
時、ブドウのつるを30〜50グラムを煎じて毎日飲用。つわり
・むくみ・流産防止に、菜や茎、葉を煎じて飲むという。

・ブドウ科ブドウ属の落葉性つる植物

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▼(15)マッシュルーム(10月)

 マッシュルームは、世界でも広く栽培されており、日本のシイ
タケ、中国、東南アジアのフクロタケとならんで世界三大栽培キ
ノコ。そのなかでも生産量がダントツだという。

 マッシュルームとは、もともとキノコを意味する英語だという
が、日本での名は西洋マツタケ(栽培ツクリタケ)。マッシュルー
ムの栽培は、17世紀末ごろフランスで馬小屋の厩肥を発酵させ
て、種菌を接種したのがはじまりという。

 日本では、明治のはじめ、東京で栽培したが普及しませんでし
た。その後、大正11(1922)年、アメリカで栽培技術を学
んできた森本彦三郎が、京都で栽培を開始、事業化。種菌栽培法
も導入され、以来、各地に普及。盛んに栽培されるようになりま
した。

 栽培法は、かつては堆肥や馬ふんに種菌を植え、光の入らない
地下壕で培養されていましたが、いまは人工堆肥(コンポスト)
を使い、ビニルでの露地栽培や菌舎でも栽培されています。



 マッシュルームの品種には、ホワイト、クリーム、ブラウンに
3種があり、日本ではホワイトが多くなっています。ホワイト種
は、傘がまるくよくしまってすべすべしているものや、茎が白、
または淡黄色をしていて、太くて肉がしまっているものがよい。

 東北、北海道では牧草地に野生化しているという。

 マッシュルームはシイタケと同じように、コレステロールを下
げる作用があるという。アクが強いので根本を切り、薄い塩水で
ゆで、調理をします。
【効能】コレステロールを下げる。

・マツタケ目ハラタケ科ハラタケ属のキノコ

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▼(16)ミズイモ(タイモ)(10月)

 ミズイモは湿地やたんぼで栽培されるサトイモの仲間。タイモ
とも呼ばれます。原産は熱帯アジア、沖縄へは2000年も前に
渡来したと考えられ、おもに九州西部から南部、沖縄、奄美大島
などで栽培されています。

 葉柄が長くイモのつき方が少ない、ズイキ用の品種と、イモを
食べる親イモ用の品種があります。鹿児島県の「ミガシキ」や福
岡、佐賀、広島、岡山県などで栽培されている「ミゾイモ」など
はズイキ用の品種だという。佐賀県にはこれのズイキを三杯酢で
食べる「にいもじ」という名物料理があるそうです。生ズイキは
根元に小さいイモをつけたまま店頭に並べられています。

 親イモ用の品種である沖縄のミズイモ(沖縄ではターンムと呼
ぶという)は、大きくなると大形のヤツガシラくらいになるとい
い、切るとうす紫色で独特の香りがします。沖縄ではこのイモの
両端を切断して蒸して売られているという。当地では昔から重要
な食料で、農漁村では太平洋戦争前ごろまでこれを主食にしてい
たそうです。

 親イモ用ミズイモは子孫繁栄の象徴として祝い料理に用いられ、
沖縄では「ドゥルワカシー」や「田芋田楽」などがその代表的な
料理だという。



 ドゥルワカシーはズイキやイモ、豚肉などを鍋で炒め、だし汁
と少量の塩で煮る。イモが軟らかくなったら木じゃくでつぶし混
ぜ合わせカマボコとグリンピースを混ぜたもの。 田芋田楽は蒸
したイモを黒砂糖などで煮含めたもの。クリきんとんのように練
り上げる方法もあるという。

 またすりつぶして飲み物にしたり、から揚げなどにも利用。そ
の他、生ズイキはムジともいい、油炒め、和え物、汁物にされま
す。特に「ムジのお汁」は豚肉、豆腐などと煮て出産祝いには欠
かせないという。(トメ)

・サトイモ科サトイモ属の多年草

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▼(17)美濃早生ダイコン(10月)

 首が太く、その太さが4分の3くらいまで続き、先が急に細く
なる美濃早生ダイコン。暑さに強く、発育が早く初夏にまいたも
のが夏ダイコンとして収穫されます。

 真っ白でやわらかく浅漬け用に、煮物として利用されます。も
とは東京・板橋の志村町あたりで盛んに栽培されていたもの。1
0月19日に開かれる日本橋大伝馬町の「ベッタラ市」の浅漬け
のダイコンはこれを使っています。

 だいたいダイコンは晩秋、寒さが厳しくなるとともに 養分を
根に貯蔵して収穫できる冬の野菜。だが、時季以外に欲しがるの
が人の常。それにこたえようと昔から生産者は苦労を重ね、年間
を通じて収穫できるよう、品種を改良してきました。江戸時代の
本にもすでに「夏生ハ秋冬ノモノ比スルニ形同ジケレドモ味オ卜
ル」と記載しています。



 江戸中期、東京では「練馬ダイコン」の早生の系統が、夏のダ
イコンとして栽培されていました。このなかから旧暦の9月9日
ころ穫れる「白九日大根」という品種ができました。これを東京
・滝野川地方の巳之とか巳之吉とかいう人が改良してできたのが
本種だという。そのほか岐阜(美濃)の「島ダイコン」から改良
されたという説もあります。

・アブラナ科ダイコン属の野菜

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▼(18)ラデッシュ(二十日ダイコン)(秋10月)

 このごろ、会社の名前をカタカナに変更するのがはやりですが、
野菜でもカッコよく英名で呼ばれはじめています。「ラディッシ
ュ」、むかし流でいうハツカダイコンです。

 漢字で二十日大根。種子をまいてから二十日くらいで収穫でき
るのが名前の由来とか。ダイコンの一群ながら、見ての通りの小
つぶもの。それが恥ずかしいのか、つっぱっているのかまっ赤に
なっています。しかし、トマトやシンジン、タマネギと、最近の
ミニ野菜ブームにのってラディッシュさんも一躍スポットライト
をあびている感じです。

 暑さのきびしい7、8月を除けば一年を通じてできますが、本
当にできがよいといわれるのは10月に種子をまいて11月、12月に
とれるものと、2月にまいて3、4月にとれるものとか。これら
の時期にはさすがに二十日というわけにいかず、四十日もかかる
というから面白い。やはりよいものができるには手間ひまかかる
ものらしい。

 ダイコンの原産地は地中海東部地方だといいます。エジプトで
は4500年も前から食べられていました。ピラミッドを造るの
に使役されたどれいたちがダイコンを食べていたという記録があ
るのは有名です。いまでもエジプトの人たちは細長いハツカダイ
コンを生で食べているのだそうです。



 ラディッシュは、ラテン語の「根」が語源。古代ギリシャやロ
ーマでも大事な冬の食料。薬用としても使われたといいます。と
ころでラディッシュの赤い色はアントシアンという色素。水に溶
ける性質があり、酢に合うと赤みは増しますがそれに長く漬けた
り、煮たりすると色が溶け出してきます。

 日本には明治の初め欧米から渡来。当然ながら大型ダイコンが
主流の時代とて、こんなちっぽけダイコンは見むきもされません
でした。ふつうに見られるラディッシュは、まるく小型で紅色の
ものですが紡錘形や白いという変わったものもあります。

 だいたいダイコンの仲間はユニークなものがそろっています。
赤いもの、黒いもの、緑色のもの、櫻島大根のような大型から長
い守口大根、小さいねずみ大根、なにをひねくれているのか「ら
せん状」にひん曲がった群大根など、その他なんだかんだとにぎ
やかです。

【効能】ダイコンとほぼ同じ薬効があり、健胃、消化促進、風邪の
咳、熱、痰、咳などに効果があるという。カブのような根茎よりも
葉の方にビタミンCが多く含んでおり、葉っぱも捨てずに利用し
ます。
・アブラナ科ダイコン属の1、2年草

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▼(19)リンゴ(10月)

 リンゴは、西洋の果樹栽培史上、最も古いくだもので、スイス
の杭上住居の遺跡から、炭化したリンゴの乾果が出土しており、
紀元前2000年位から栽培していたことになる勘定です。

 リンゴの原産地は、アジア西部からヨーロッパ南東部あたりだ
といわれています。地図を開けば、だいたい黒海とカスピ海の間
らしい。いまでもリンゴの原種らしい木が野生していると聞きま
す。

 それが、古代民族の移動により、次第にヨーロッパ一円に広が
ります。このころのリンゴは小さく、いまの果実観賞用に栽培さ
れるヒメリンゴのようなものだったらしい。このころは、アップ
ルといえば果物全体の総称だったといいます。

 このリンゴが栽培、育成、改良されて16世紀以降イギリスな
どで大きなくだもの用品種として発達します。またアメリカへも
移民とともに伝えられ、リンゴ酒の原材料として栽培。19世紀
中ごろから、大きく味のよい生食用の品種が数多くつくり出され
てました。

 一方中国では、中国原産の小果種で花紅(果)とか沙果とか呼
ぶヨーロッパのリンゴとは別種のものがありました。この花紅が
日本へも古い時代に伝来。時期は不明ながら、平安時代初期の「倭
名類聚抄」には、林檎とあり、「リウコウ」と読ませ、のち転化し
てリンゴになったという。                 



 鎌倉時代には、林檎が菓子の名で記述されており、江戸時代に
なると栽培が普及します。かつて地リンゴ、和リンゴと呼ばれて
いたのがそれです。

 これとは別に、いまつくられている西洋リンゴ(オオリンゴ)
は、文久年間(徳川末期)渡来ながら、本格的に導入されたのは
明治5年以後。開拓使や政府内務省勧業寮が欧米、とくにアメリ
カからさまざまな品種を輸入します。大きな西洋リンゴが普及す
るにつれ、小さな林檎(和リンゴ)はすたれ、いつかリンゴとい
えば西洋リンゴをいうようになってしましました。だからいまの
リンゴに林檎の字をあてるのはまちがいという人もいます。

【効能】リンゴには体を冷やす作用がないという。寝る前に食べ
ると翌日通じがつく。下痢にはすり下ろして食べる。

・バラ科リンゴ属の落葉高木

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▼(20)ワサビダイコン(ホースラディッシュ)(10月)

 英名でホースラディッシュとも呼ばれます。西洋ワサビ、陸ワ
サビ(同じく陸ワサビとも呼ばれるが畑ワサビとは別)ともいい、
根を香辛料として利用。根をすりおろしてローストビーフやステ
ーキのつけ合わせとして使ったり、魚料理用にホースラディッシ
ュソースの材料に利用します。最初ドイツで用いられたらしいと
いう。

 フィンランド原産の多年草で、日本には明治初年アメリカを経
由して渡来したが、日本料理に合わず普及しなかった。(そのなご
りがいま北海道に野生化しているという)。しかし最近、ワサビの
生産が不安定なうえ、高いため、香辛原料としてワサビダイコン
が見直され、栽培面積も増加しているという。根茎は長さ30か
ら50センチ、太さは3から5センチでゴボウを太くしたようで
ワサビより大きい。なかは白く、味はワサビに似て辛いが、ワサ
ビより辛味、香りともにうすい。

 根茎を粉末にし、粉ワサビとしてワサビのかわりに使用。また
粕漬けにしたり、ゆでて塩味やみそ和えにして食べます。辛味の
成分はワサビと同じシニグリンというものだそうで、酵素ミロシ
ナーゼによって分解されて辛味ができるという。



 栽培の歴史が浅いことから品種、系統の分化がまだはっきりし
ないという。涼しい気候を好み、長野県が栽培の中心。いまは1
年中出回っています。気温により葉の出かたが変わり、20度前
後ではシダのような葉が出るが、28度以上になると丸い葉が出
るという。種子は全くできず、できてもごくわずか。繁殖は収穫
の時とる側根を種根として植え付けて増やします。根が深く張る
ため耕土が深く、肥沃で保水のきく所に植えます。春に植え、晩
秋葉が黄色になってから機械で収穫します。

 4、5月ごろ50から90センチの花茎が立って白い多数の小
さい四弁花を総状花序につけます。古くから香辛料のほか薬用に
されます。

・アブラナ科ワサビダイコン属の多年草

 第8章(10月)終わり

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