【クスリなる野菜・果物】第7章
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▼9月の野菜・果物
・(1)イチジク ・(2)ウイキョウ ・(3)オオサカシロナ ・(4)キンサイ
・(5)ギンナン ・(6)サトイモ ・(7)ジャガイモ ・(8)ナシ
・(9)葉ネギ ・(10)ヒラタケ ・(11)マツタケ ・(12)メークイーン
・(13)落花生(ピーナッツ)
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(1)イチジク(秋9月)
花が咲かないうち「果実」をつけるというので漢字で「無花果」
と書くイチジク。食べる部分は実は肥大した花序の花軸。今回は
そんなユニークなイチジクのお話です。
例によってイチジクはなぜイチジクというのでしょう。その1。
江戸中期の本「和漢三才図」(寺島良安著)に「俗に唐柿(からがき)
という。一月にして熟すゆえに一熟(いちじゅく)と名づく」とあ
ります。また「1日1果ずつ熟す」ので「1熟」。それがなまって
イチジクに……。
その2。本来イチジクとは、同じクワ科イチジク属のイヌビワ
のことだった(貝原益軒の説)が、いつのころからか、こっちの
木の名前になったという説。
その3。ペルシャ語の「アンジール」から漢名の「映日果(イン
ジュクオ)」になり、日本に渡ってさらになまり「イチジク」にな
ったという説などがあり、ひとつの説にまとまるにはイマイチ機
が熟さないのであります。
さて、イチジクの原産地はいまでも野生樹があるアラビア南部
と考えられ、聖書のアダムとイブがこの葉をつづって腰に巻いた
お話はすでにおなじみです。
紀元前3000年、シュメール王朝時代にはすでに栽培。エジ
プトでは第12王朝時代の壁画にブドウといっしょに描かれ、前
2000年、アッシリア人から小アジア、地中海地方に伝播しま
す。
13世紀ころにインド、イランから中国へ、日本には1630
年ころ長崎に渡来したことは貝原益軒の「大和本草」に書かれる
ところ。
一方、新大陸へも渡ります。西インドへは1520年、フロリ
ダへは1575年ころ。そしていまの大産地カリフォルニアへの
導入成功は1769年になってから。
明治になりさらに新しい洋種を日本に輸入、10種以上の品種
になりましたが、気候の違いかどうかも品質が不良になりがち。
広く普及しだしたのは大正になってからでありました。
【効能】イチジクの実は胃腸虚弱、下痢、二日酔いなどにもよい
という。葉や枝から出る白い乳液をイボや水虫にすり込むと効果
があるといわれています。ただアレルギーの体質の人は、皮膚が
かぶれることがあるので注意。また生の枝葉を風呂に入れても痔
や神経痛によいとされています。吐血した時は生の実を食べると
よいともいわれています。
・クワ科イチジク属の落葉小高木
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(2)ウィキョウ(フェンネル)(秋9月)
全草に特有の香りがあり、若葉をハーブとして利用、果実はス
パイスに利用するウイキョウ。最近はフェンネルと呼んだりしま
す。
原産地は南ヨーロッパから西アジアとされ、古代エジプトでは
すでに栽培。古代ヨーロッパでも、古くから薬用として葉を利用。
「フェンネルを見てとらないものは悪魔だ」という格言もあるく
らいです。
その反面、この葉をいぶすと、妖怪変化があらわれるといわれ、
魔法使いが霊草として用いたという。中国へは4,5世紀に西か
ら伝わり、果実の香りが魚の香りを回復させるというので「茴香
(ういきょう)」と呼ばれました。
日本へは、9世紀以前に中国から伝来したといい、平安時代に
「久礼乃於毛(くれのおも)」の名で知られ、江戸時代には各地で
栽培されています。
ウイキョウは、高さ1,2bの宿根草の多年草。茎は緑色の円
柱形で、葉は黄緑色で細かく糸状に分裂。夏に枝先から花序をつ
くって多数の黄色い花を咲かせます。
【効能】ウイキョウの果実は、乾燥して漢方ではうい香、小茴香
といい、健胃、駆風(腸内のガスの排出)、去痰、利尿、催乳剤な
どにも利用されます。
・セリ科ウイキョウ属の多年生草木
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(3)オオサカシロナ(秋9月) |
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(4)キンサイ(秋9月)
セリ科。キンサイは農林水産省の統一名称。中国から導入され
た野菜で、キンツァイとも呼ぶ。中国ではチンツァイという。セ
ロリの原種に近い品種で、スープセロリとも呼ばれる。葉柄と葉
を食べます。
中国では古くから栽培され、日本へは1592年(文禄元)年
に加藤清正により朝鮮半島から導入されたが定着せず。
中国ではキンサイを本芹(ベンチン)、セロリを洋芹(ヤンチン)
と呼んで区別しているそうです。葉はセロリに似ていますが、セ
ロリより小形で濃緑色、緑色、淡緑色など。葉柄は細長く丸みを
おび、濃緑色、緑色、黄緑色などで、やわらかく香りが強い。一
般に濃緑色のものは香味が強く、黄緑色のものは香味が淡く、茎
がやや太めになります。
台湾から導入されているものは黄色でややトウ立ちの早い品種
です。葉柄は中空のものと、セロリと同じに充実しているものが
ある。揮発性の芳香油を含んでいるそうです。
【料理】
葉柄や葉を肉類と炒めたり、ゆでて和え物にします。葉をスー
プに入れると香りがよい(『野菜・藻類』)。煮込み、サラダ、
酢の物と広範囲に利用できます(『ザ・健康野菜』)。
【栽培】
冷涼な気候を好み、夏期は遮光、冬はハウスまたはトンネル栽
培とすれば周年栽培が可能だということです。収穫は直まきの場
合は60日目ごろから、移植の場合は植え付け後30日目ごろか
ら収穫します。………………………………………………………
(5)ギンナン(秋9月)
青緑色の色合いと独特の風味をもつギンナン。茶わん蒸しや田
楽に、いったものをむけば、酒のつまみに喜ばれます。
ギンナンは強壮、強精効果のある食品で、咳や痰を止め、体の
毒を消すといいます。
しかし最近の研究では、ギンナンの胚の中には青酸を含んでい
て、食べすぎると清化不良を起こしたり、青酸中毒で、死ぬこと
があるというから注意が必要です。
ギンナンはイチョウの種子です。熟した果実の肉質部は、もの
すごい臭いがします。その肉質部を腐らせ洗いおとした堅果が売
られているギンナンです。
ところがイチョウには果実はないという。悪臭を放つところは
果肉ではなく「種皮外層」とかで、堅果は「種皮中層」、殻の内側
の膜のようなものが「種皮内層」だとくるから、植物学はむずか
しい。
悪臭を放つ種皮外層はビロボールやイチョウ酸というものを含
み、うっかりさわるとかぶれます。この物質はイチョウ全体に含
まれていて、昔からイチョウの葉を本のしおりにするとシミがわ
かないといわれました。中国原産。
【効能】煮て食べると肺を温め、気を益し咳や痰を止め、小便を
少なくし白濁を止める。
強壮・強精効果・体の毒消しに。
・イチョウ科イチョウ属の落葉高木イチョウの種子………………………………………………………
(6)サトイモ(秋9月)
山のススキはゆれて「おいで、おいで」をすれば、畑で「いや、
いや」と横にゆれるものな〜んだ?子どものころこんななぞなぞ
がありました。答えはサトイモの葉っぱ。
サトイモは里芋と書きます。里芋とはヤマノイモが山にあるの
に対して、里にできる芋という意味だそうで、古くはイエ(家)
ノイモとまで呼ばれたという。
原産については、インドだインドネシアだマレエーシアだと説
がフンプンながら、まあ、一応熱帯アジアにしておこう、という
ことになっています。その栽培は古く、インドでは少なくても紀
元前3000年には栽培型が成立、紀元前1000年ころにはあ
っちこっちに伝わっていきます。中国には前100年の古書に重
要な作物との記録があるという。
さてニッポン。日本への渡来時期や経路は不明ながら、ムカシ、
ムーカシから農耕儀礼や儀礼食に多く利用されていて、イネの渡
来よりも古いとされ、当時は主要作物の1つであったという。
その後、「出雲国風土記」(733年・天平5)にもすでに記録
があり、「万葉集」(巻十六)にうたわれています。また「本朝食
鑑」(1695年)には芋名月や衣被(きぬかつぎ)についての記
載があります。
このようにして古くから栽培されて、山間部では主食にもなっ
たほどのサトイモ。大事にされるのは当然のこと。明治初期、群
馬県生まれの船津伝次郎は「ちょぼくれちょんがら節」と銘打ち、
♪われの栽培教えてあげましょ、そもそもサトイモ植え付けなさ
るは……と調子を張り上げ、サトイモ栽培法を普及させたという
話もあります。
サトイモについてはこんな「ことわざ」もあります。「サトイモ
は鍬を嫌う」(乾燥を嫌う作物なので、あまり鍬を使うと根が切れ
て水分の吸収が出来なくなる)、「サトイモは朝露を払うを忌む」
「ヒガンバナの早く咲くときはサトイモ不作」「サトイモは9月の
闇夜に太る」などなど……。
サトイモはまた「薬草」でもあります。まず、打ち身、捻挫、
神経痛やリュウマチに。やけど、しもやけ、凍傷にも効力ありと
いう。また、おできの吸い出し、肺炎の応急手当にもよいとされ
ています。
【効能】痰を切り皮膚を充実。ズイキは妊婦によいとされる。葉
は打ち身・捻挫・神経痛・リウマチ・やけど・しもやけ・凍傷・
おできの吸い出し・肺炎の応急手当に。
・サトイモ科サトイモ属の多年草………………………………………………………
(7)ジャガイモ(秋9月)
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(8)ナシ(秋9月)
ナシにはニホンナシ、セイヨウナシ、チュウゴクナシの3種が
ありますが、日本でナシといえばふつうニホンナシのこと。
ニホンナシは中国の中・北部に野生するヤマナシを改良したも
のとする説と、日本原産のヤマナシがもとだとする説などありま
す。
日本の果樹の栽培では、ナシは古いものの一つで、登呂遺跡(弥
生時代後期)から炭化したナシの種子が出てきたほど。書物では、
720年の「日本書紀」の持統天皇の条にナシやクリ、クワなど
の草木を植えることを奨励し、米や麦など五穀を助けしむとあり
ます。
901年の「三代実録」には信濃国から、927年の「延喜式」
には甲斐国からそれぞれナシが献上されたという記録があります。
江戸時代になると栽培が盛んになり、後半には全国に広まってい
きます。
明治20年後半には「二十世紀」や「長十郎」が発見され、大
正以後急激に発達していきます。病害に強く肉質のよい品種開発
が次々に試みられ、大戦後三水(幸水、新水、豊水)が生まれ、
甘みが強く無袋栽培ができるため広く普及していきます。
三水、長十郎、新高などの赤ナシ系と、二十世紀、菊水などの
青ナシ系統があります。
・【ことわざ】
・「ナシ尻カキ頭」=おいしい部分の表現。果物はへた(花柄)の
ついている方を頭、へたのない方を尻ということが多い。一方皿
などへのせるときは、梨は頭を上、カキは頭を下にしておき、上
になった部分を頭、下になった部分は尻と呼ぶ。結局同じ部分が
おいしいということである。果物それぞれのどの部分がおいしい
かは異論があるが、一般的には花柄のない方(植物学では果頂と
呼ぶ)が甘くておいしいようだ。
・「江戸者のナシを食うよう」=ナシのようにサクサクしてさっ
ぱりこだわらないという意味。
【効能】咳が出て、痰のきれないとき、また扁桃腺炎、咽頭炎に
はナシのジュースを飲むと効果がある。「ナシには体を冷やす性質
があるので、糖尿病・暑気あたりなどで口がかわきすぎ、のどが
痛むときや熱があり咳が出て、痰のきれないとき、また扁桃腺炎、
咽頭炎にはナシのジュースを飲むと効果がある」とモノの本に載
っています。ただ、たくさん食べすぎると冷えるので体が弱って
いるとき、また胃腸の弱い人は注意が必要という。
中国明代の本草書「本草綱目」には、下痢やおう吐の止まらな
いときやキノコの中毒には、ナシの葉っぱの煮汁を飲むとよいと
も記されています。
・バラ科ナシ属の落葉高木
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(9)葉ネギ(秋9月)
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(10)ヒラタケ(秋9月) |
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(11)マツタケ(秋9月)
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(12)メークイーン(秋9月) ジャガイモは栽培が簡単で、全国どこでもつくられていますが、 一般には冷涼な土地を好むという。今回は代表的な春作用品種メ ークイーン。 メークイーンは、1917年(大正6)イギリスから導入され たらしいという。煮くずれしにくく、味もよいので料理用として は優良種。 長紡錘形というから、円柱形の両端のとがったものを長めにし た形。皮は黄白色で肉が黄色みをおび、やや粘質な肉質は、デン プンの含量が少ない。早生種または中生種。イモの表面が緑化し やすく、ときどき苦味の出ることもあります。 北海道南部と九州の長崎県で栽培されており、長崎県の雲仙で は水田の裏で連作されているそうです。 ・ナス科ジャガイモ属の作物の1品種 |
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(13)落花生(ピーナッツ)(秋9月) ラッカセイは落花生です。6〜9月ごろ咲く黄色い蝶形の花は 自家受精し、花が落ちるとともに花柱が脱落し、子房(しぼう) 柄が下に向かって伸び、子房が地面の中に入って発育します。落 花生とはよくぞつけたものです。 落花生の子房が発達し、莢や種子ができるには、水分と暗黒の 環境が必要という。明るく、水のないところでは子房柄のまま残 るか、涸れてしまうというのです。 また、一度地中に入った子房柄を途中で地上に出してやると、 土の中ですでに種子の形になりかかっていれば、莢の大きさはそ のままになるが、種子はある程度肥大してしつづけます。そして また、土中に入れると莢も種子もふたたび大きくなる性質がある という。 さて原産地からまいります。いままでラッカセイの原産地はブ ラジルだと考えられていました。しかし、最近、栽培種と同じ4 倍体の野生種アラキス・モンチコラなるものものがアルゼンチン 北西部で発見されました。 これを現地で確認した日本の育種学の田中正武博士は、この野 生種と栽培種が簡単に交雑して稔性のある雑種ができることから、 野生種モンチコラこそ、ラッカセイの祖先であると、1975年 に報告しています。
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第7章(9月)終わり
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