【クスリになる野菜・果物】第2章

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▼4月の野菜・果物
・(1)イチゴ ・(2)ウド(春ウド) ・(3)エンドウマメ ・(4)オカヒジキ
・(5)キャベツ ・(6)クキタチナ ・(7)グレープフルーツ
・(8)コショウソウ(クレス・ガーデンクレス) ・(9)ソラマメ ・(10)タカナ
・(11)タケノコ ・(12)タラノキ(タラノメ) ・(13)チャイブ ・(14)ニラ
・(15)パセリ ・(16)ロケットサラダ(ルッコラ) ・(17)ワラビ

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(1)イチゴ(春4月)

 イチゴ、イチゴと申しましても、キイチゴ、クサイチゴなど、
いささか範囲が広うござりまするが、タイトルが「さくもつ…」
であるからして、あのおなじみの大形イチゴでまいります。

 まず身元調査。氏名:阿蘭陀苺(おらんだいちご)。所属:バ
ラ科オランダイチゴ属の多年生草本。南アメリカ出身です。

 さてイチゴに関する能書きに入ります。人間がいつごろからイ
チゴを食べるようになったかなど、分かるわけもないけれど石器
時代のスイスの遺跡から野生イチゴのタネを発掘。これが最も古
い証拠品であります。

 14世紀中ごろになるとフランスやベルギーでウッド・ストロ
ベリーを栽培しはじめます。もっともこれは薬用であったとかな
かったとか。

 1492年(日本でいう明応元年・室町時代)にコロンブスが
アメリカ大陸を発見後、南北アメリカの大粒野生イチゴがヨーロ
ッパへ渡ります。そこでいろいろ品種改良。いまのイチゴが作り
だされるのですが、それは17世紀になってから。



 これが日本に渡来したのは江戸時代も末期の天保年間(183
0年代)南蛮船によりもたらされたのでオランダイチゴと呼びま
した。

 しかし、当時はすこぶる評判が悪く、毒イチゴ、ヘビイチゴな
どと嫌われ、いつの間にかチョン。

 いま栽培されているものは明治2年、栽培品種を新しくフラン
ス、イギリス、アメリカなどから導入したものの子孫なのだそう
です。

【効能】ビタミンC・強壮剤・利尿・ぜん息・呼吸器疾患・血
を補う・タンを切る。ビタミンCが多く美肌に。イチゴ酒で補血
強壮。花の咲くころ葉をとって乾燥、煎じて飲むと婦人病によい。
ウオノメに、イチゴの葉を塩でよくもみ湿布、1日2回交換する
と4、5日で落ちるそうです。
・バラ科オランダイチゴ属の多年生草本 

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(2)ウド(春ウド)(春4月)

 「ウドの大木」などと悪口をいわれるウドも古くから栽培され、
軟白栽培も江戸中期から行われていたというから、そうバカにし
たものではありません。生育すると1〜2mにもなり、大きな葉
が風もないのにひとりでゆれるため「独活」とも書く。

 ウドは日本原産。野生のものを山ウド、栽培したものをただの
ウドと呼ぶ。栽培種は北海道の野生種から改良されたもの。栽培
種には、10月から1月に採れる寒ウド(休眠性がなく、低温で
も芽が出る)と3〜4月に収穫する春ウド(休眠性があって、春
暖かくなってから芽が出る)に分けられます。

 茎は長くて太く、品質がよいのは春ウドでいま軟化栽培にされ
ているのはみなこっちの方。光や風などが入らぬよう地下にトン
ネルを掘ったり、閉め切った小屋の中でつくられます。栽培方式
に普通軟化、促進軟化、抑制軟化などがあり一年中出荷されてい
るが、最盛期は3月。

 茎の赤いところが褐色になっているのは古くなったものなので
注意。節以外は白くツヤのあるものがよい。



【効能】生で食べると食欲増進。漢方では発汗・利尿作用に。風
邪やリウマチ・神経痛に、ウドを5〜10グラムをコップ3杯の
水で半量になるまで煮詰め、1日3回に分けて飲用。強壮には茎
や根の生汁を1日20〜30cc飲用。
・ウコギ科タラノキ属の多年草

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(3)エンドウマメ(春4月)

 エンドウも大昔から人類の食糧として深くかかわった作物で、
石器時代から栽培されていたという。古代ギリシャの記述やロー
マの牧歌などにたくさん記述があります。また、メンデルが白花
エンドウと赤花エンドウを交配させて遺伝の法則を発見した話は
有名です。

 こんなに昔から人類にとって重要な作物だったエンドウも、今
まで野生種が発見されていないことから、原産地がわからず、あ
っちだこっちだと学者の間での話がこんがらかっていましたが、
いまではコーカサス南部からイランにかけてそのあたりだとされ
ています。

 そこからギリシャを経て南ヨーロッパに伝わり、東西ヨーロッ
パへ。当時は穀物として主食にしていたという。アメリカへは1
500年ごろ、初期の移民が持ちこんだらしい。



 さて東方へ伝わったのも古く、アーリア人のインド侵入以前だ
とのこと。中国では5世紀の本「済民要術」に記録があるという。

 日本への渡来年代は不明だが、平安時代前期の本『倭名類聚抄』
(931年)にノラマメの名で出ています。エンドウの品種は非常に
多く、1928年、アメリカのヘドリックの調査では760種あまりあっ
たという。

◎【効能】カロチン(ビタミンA効力)が多く、またビタミンB1、
B2、Cもあり、緑黄色野菜に属しています。整腸、健胃作用が
あり、胃腸の弱い人、下痢やおう吐しやすい人に適した野菜。
・マメ科のエンドウ属1、2年草

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(4)オカヒジキ(春4月)

 カロチン(ビタミンA効力)、カリウム、カルシウム、鉄分な
どが多く、酢みそあえ、浸し物、酢の物、さしみのつま、汁の実
などにして食べられるオカヒジキ。美しい緑色、シャキシャキと
した歯ざわりと風味が喜ばれています。しかし、調理時、加熱し
すぎるとそれらが失われてしまうという。

 オカヒジキは、アカザ科オカヒジキ属の砂地に生える一年草。
日本のほか朝鮮半島、中国東部に分布。形が海草のヒジキに似て
いるのでオカヒジキ(陸鹿尾菜)の名があります。また同じ海藻
のミルにも似ており、オカミル(陸水松)、ミルナ(水松菜)と
も呼ばれています。



 オカヒジキ属は、日本での野生種はこれ一種だけだが、中央ア
ジアからシベリアにかけては、かなりの種類があるという。緑色
の茎は根本から細かく枝分かれし、地面をはうように広がり、細
い多肉質で先の尖った葉をたくさん出します。

 古くから栽培されてきた山形県では、県内自給用から各地へ出
荷されるようになり、特産の野菜になっています。もともとは、
春から夏のものですが、いまでは一年中栽培されています。 
・アカザ科オカヒジキ属の1年草

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(5)キャベツ(春4月)

 キャベツは丸く結球しています。だからタマナ(球菜)ともいい
ます。また見方によれば人間の頭にも似ています。それで頭の形
をした野菜という意味の英名のキャベジがなまったキャベツです。

 キャベツの原種は西ヨーロッパの海岸の崖っぷちにいまも野生
しているといいます。ギリシャ時代から薬用として栽培され、す
でに3系統に区別。

 ローマ時代には野菜として特に保健食に利用されはじめます。
そのころのものは、結球しない現在のケールのようなものではな
いかといわれますが、別に結球する種類もあったといいます。

 その後、ヨーロッパで珍重され、あーだこーだと改良が加えら
れはじめます。そして次第に結球するキャベツ、チリメンカンラ
ン、メキャベツ、カブカンラン、ハナヤサイ、ミドリハナヤサイ
といろいろな種類に発達していきます。 

 完全に結球するように品種改良されたのは13世紀ごろからで、
すっかりヨーロッパやアメリカの中心野菜になっていきます。



 さて日本。わが国に渡来したのも古く「大和本草」(1709
・江戸中期・貝原益軒著)に「おらんだな、一名さんねんな」と
紹介されています。しかし、結球については残念ながら記載があ
りません。

 でも結球性のものなら、めずらしいものとして書かないはずは
なく、この品種はやはり結球しないケールのようなものか。結球
するキャベツが入ってきたのは幕末の安政2年(1855)ころ。
横浜や函館にいくらかの定着をみたといいます。

 しかし本当に野菜として注目されだしたのは明治初年、北海道
開拓使が栽培に成功してから。その後1872年(明治5)津田
仙など民間育苗家の努力で日本の気候に適した品種が次々に改良
され、当時は1個1朱の価格で取引されたそうです。

【効能】ビタミンCに富み、緑色の部分はビタミンAを含有。ま
たビタミンB1・B2・Cのほか、E・K・Uなども含む。ビタ
ミンUは、キャベツから分類されるメチオニン前駆物質なるもの
だそうで抗潰瘍因子と知られ、胃・十二指腸潰瘍の治療に用いら
れているそうです。便秘を治し、皮膚をきれいにするという。
・アブラナ科アブラナ属の越年草(花言葉:利益)

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(6)クキタチナ(春4月)

 日本で昔、野菜として利用したカブの仲間「クキタチ」という
ものがありました。このクキタチから、いまのコマツナやミズナ
などができたとされています。

 クキタチナもそのひとつ。東北や北海道などで冬の漬け菜とし
て栽培しています。

 クキタチは古くから栽培され、1645年(正保2)の俳諧書
「毛吹草」(松江重頼著)には「茎たちのはぎれはにえのかげん
哉笑計」などの句も載って居る由。

 また、1695年(元禄8)「本朝食鑑」(野必大書)には蕪
菁(かぶ)のとうを茎立(ククダチ)といって食べ、また軟化し
たものも栽培していたことを記載しています。このころは根より
葉を重んじていたということです。



・アブラナ科アブラナ属の越年草

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(7)グレープフルーツ(春4月)

 枝先に果実がかたまってつき、まるでブドウのようなフルーツ
だというので「グレープフルーツ」。

 グレープフルーツは、東洋産のブンタンの実生の変種として、1
750年ごろ西インド諸島バルバドス島で発見されました。19世紀初
期のアメリカ・フロリダに持ち込まれ、のちカリフォルニア、ア
リゾナ、テキサスに広まり、ヨーロッパなど世界各地に伝わりま
す。

 日本には1915(大正4)年にアメリカから伝来しましたが、低温
と雨が多いため栽培に適さず、日本での年産はわずか100トン程度。
和歌山県が生産地になっています。

 品種には白肉種のダンカンやマーシュ、薄紅色種のピンクマー
シュ、紅肉種のスタールビー、レッドブラッシュがあり、ダンカ
ン以外には種子がありません。

 ダンカンは、アメリカ・フロリダで1830年ごろ、突然変異でで
きた品種。アメリカ人のダンカンさんが大増植したことからこの
名ががついたといいます。ピンクマーシュはマーシュの変異、さ
らに紅肉種たちはピンクマーシュの変異です。



 カリフォルニア産のものは春から秋、フロリダ産のものは晩秋
から春にかけて輸入するので一年中出回っています。皮に張りが
あって形がよく実がつまって重く感じるものを選びます。

・【薬効】
 ミカンとほぼ同量のビタミンCを含有。健胃消化作用がありま
す。
・【四気・五味】「涼・甘酸」

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(8)コショウソウ(クレス・ガーデンクレス)(春4月)

 コショウソウ(胡椒草)は、ガーデンクレスともいい、イラン原
産の1年草で、葉をサラダ用に、種子は香辛料に利用されます。サ
ラダ用品種として葉の縮れたものと幅広く平たいものがあります。

 日本に渡来した時期は不明ながら、1765(明和2)年の書物
に記載されており、江戸末期の「草木図説」には「コセウサウ」と
して、葉は蔬菜とし実は外用して疥癬を治すと紹介しています。

 低温多湿な気候を好み、種をまくと2〜3週間で刈り取って利用
します。夏の温度の高い時期はトウ立ちしやすいため注意。

 低温多湿の土地に適し、春から秋まで種をまいて2〜3週間で刈
り取って利用。たねとり用には3月にまき、6月に開花、7月には
刈り取る(「有用植物図説」)

 日本では近年、ランドクレスという名で家庭菜園用に普及しはじ
め、室内水耕栽培用にも種子が市販されています(「日本大百科全
書」)

 なお、クレスと呼ばれるものに3種があってほかにクレソン、フ
ユガラシがあります。



・アブラナ科マメグンバイナズナ属の1年草

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(9)ソラマメ(春4月)

 ソラマメは、空豆とか蚕豆と書きます。「その実、空に向かう
ためにソラマメと名づく」(『大和本草』1709年・貝原益軒著)、
また「ソラマメのさやは、かいこの形に似ているので蚕豆と名づ
ける」(『農業全書』1696年・宮崎安貞著)と古書にあります。

 ソラマメは、エジプトや古代ギリシャで栽培された跡もあり、
トロイの遺跡からも出てくるというから古い。1935年に行われた
ソ連のバブロフの実地踏査では、中央アジアや地中海地方が原産
地とみています。

 紀元前15世紀ごろ、インドに侵入したアーリア人が、のち中
央アジアから西方に移った時に広まり、ギリシャ、ローマを通っ
て南ヨーロッパに伝ぱ。スペインやポルトガル、エジプト、モロ
ッコ、トルコなど地中海に広がったのだそうです。

 アメリカ大陸へは1600年代にわたっていきましたが、どうもい
まいち気候に合わず、ついに発展しませんでした。

 次は中国。「中国への伝来はすこぶる古しといえども、宗時代
にはいまだに広く伝わらず。明の時代にいたり……」と古書にあ
るように、南宗時代(1200〜1267)以後だろうとされています。

 しかし、王禎の農書(1313)や『救荒本草』(1400〜1425)、
また『雲南通史』(1691)にソラマメの記述があるにはあるが、
不明な点だらけだという。



 さて日本。聖武天皇の天平8年というから奈良時代、西暦736
年・インドの僧が中国を経由して渡来。諸国を巡遊中の僧行基に、
持っていたソラマメを与えたという。

 それをいまの兵庫県武庫で試作したのが関西の主要品種の「於
多福(おたふく)」のはじまりだとされています。が、文献上では
『多識編』(1637)に記載されているのが最初です。

 先の『農業全書』には「百穀に先だって熟し、青き時さやなが
ら煮て菓子にもなり、また麦より先にできるゆえ、飢饉年とりわ
け助けとなるなり。また、麦は少なく粉にして餅に作り食するも
よし」と、その有用なことを記述しています。

 ソラマメの栽培には、温和な気候がよく主産地は地中海沿いの
温暖な国が多いが、イギリスやエチオピアでも栽培しているとい
う。

 若ざやの豆は煮て食べ、熟した豆は煮豆、いり豆、甘納豆、み
その原料に、茎葉は飼料、肥料用に利用しています。

【効能】
 ソラマメには、タンパク質やビタミン類が多く、胃を快くして
くれるので酒のさかなに打ってつけ。中国では、ソラマメの花や茎、
葉までも「止血清熱」(血を止め、のぼせをさげる)の目的で薬用
に使うという。

 また、花を煎じて飲むと高血圧、鼻血、かっ血に効くとされてい
ます。熟したソラマメの皮は、利尿作用がありオシッコの出が悪い
とき、むくみを治すのに利用します。
・マメ科ソラマメ属の1年または2年草

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(10)タカナ(春4月)

 冬から春にかけて出回るタカナはカロチン(ビタミンA効力)、
ビタミンB2・Cや鉄分、カルシウムなどを多く含み、緑黄野菜
のひとつに数えられています。草の丈が高くなることからタカナ
(高菜)と呼ぶのだという。

 中央アジア原産のタカナは、台湾やマレー、インドなどでは重
要野菜のひとつだという。温暖な気候に適し、日本では主に西日
本に栽培され、漬け物、煮物に利用されています。

 日本へは、奈良時代または平安時代初期にカラシナ(芥菜)と
ともに渡ってきたらしい。しかし、文献によっては弥生時代に中
国を経て渡来した古い野菜のひとつといい、種実用のものをカラ
シナ、茎葉用をタカナと呼ぶという。

 古くは菘と書いて「たかな」と訓じ、平安時代918(延喜18)年こ
ろに、深江輔仁が著した日本最古の本草書といわれる『本草和名』
にも記載されています。カラシナに似た大形の野菜なのでオオガ
ラシ、オオバガラシの名もあります。

 各地にいろいろな品種があり、北九州の三池タカナ、柳河タカ
ナ、筑後タカナなどは有名で、紀州タカナ、阿蘇タカナ、長崎タ
カナなどと、それぞれ地域名のつけられているものが多い。

 福岡県のカツオナもこの仲間で、明治中期に中国の四川省から
導入した山形のせいさい青菜が元になってできたものという。三
池タカナは、紫色を帯び、佐賀県相知地方の在来の紫タカナとの
交雑からできたものらしい。

 タカナの葉は多肉で広く、楕円形で品種により緑色や紫色をし
ており、縁に切れ込みはありません。葉柄は、長さ50から80セン
チもあり、長くて幅広い。株は漏斗状をしています。

 和歌山県の「めりはりずし」はタカナ漬けで包んだすしで、食
べると目を見張るほどうまいという意味だそうです。



【効能】カロチン(ビタミンA効力)、ビタミンB2・Cや鉄分、
カルシウムなどを多く含み、緑黄野菜のひとつに数えられる。
・アブラナ科アブラナ属の越年草

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(11)タケノコ(春4月)

 タケノコは文字通り竹の子どもです。筍とも書くのは、芽生え
始めて10日(旬)すぎればもはや「コ」ではなくただの竹にな
るという意味。

 それだけ生長が早いということで、1日に1m20センチも伸び
た記録があり、食用にするには旬のうちの若い「コ」の時、地表
に出る前が勝負だといいます。とりたては生食もできますが時間
がたつにつれえぐくなります。

 普通タケノコといえばモウソウチクのこと。中国の孟宗という
孝行息子が病気の母のため、真冬、雪を掘りおこし取って食べさ
せ、母を喜ばせたのがこのタケノコ。それ以来、この竹を「モウ
ソウチクと申そう」と決まったとか。

 モウソウチクは中国原産。大型で高さ12m、径20センチにもな
り、江南竹ともいい、16世紀に沖縄を経て九州南部に渡来。「仙
巖別館江南竹記」という本には、元文元年(1736・江戸中期)3
月にも薩摩国の藩主・島津吉貴公が琉球からコウナンチクを20
株取り寄せ、鹿児島県吉野村の仙巖別館に植えたとあり、そこら
あたりから全国へ。

 江戸にきたのははっきりしないが「武江年表」には安永8年(1
779)に薩州候、品川の藩邸にタケノコを初めて植え、人々がめず
らしがったことが載っています。

 竹はモウソウチクでけではなく、マダケもあればハチクもあり
ます。これらは「モウソウ」が渡来する前から食べられており、
その他のササ類などどの種類も食用にできます。

 ハチクは味が淡白でえぐ味が少ないのでアワタケ(淡竹)の名も
あり、出荷はモウソウチクより1か月ほど遅い。クレタケ、カラ
タケともいい、工芸品に利用しています。

 マダケのタケノコも竹材用に栽培する副産物。苦味があるので
「ニガタケ」ともいいます。

 タケノコの皮の毛をとり、中にウメボシを入れ、しゃぶった思
い出。なつかしがって子どもに作ってやったことがありましたが、
あまり喜んではくれませんでした。



【効能】割に低カロリー。カリウム・タンパク質が多く、胃・大
腸系によし。中国明代の本草書「本草綱目」に「消渇(小便の多
くなる病気・糖尿病など)に水道を利し(排尿状態をよくする)、
気を益す」。また「気を下し、熱を化し」、痰を消して胃をさわ
やかにするとあります。タケノコの皮には防腐作用がありおにぎ
りや料理を包むのに利用。湿っぽくずんぐりしたものを選びます。
・イネ科タケ亜科のタケ類マダケ属の地下茎の芽

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(12)タラノキ(タラノメ)(春4月)

 山菜としてよく知られているタラノメ。なかでも変種のメダラ
は、ハウス栽培用としても適し、各地でつくられています。ふつ
うのタラノキ(オダラ、オニダラという地方もある)は、茎や葉
柄に大小のトゲが密生しているがメダラにはそれがなく、小葉の
裏に淡褐色の短い毛(縮毛)があり区別できます。

 タラノメはゴマみそ和えに、てんぷらなどにして食べるのがふ
つうだが、ある図鑑を見ていたら「生のまま味噌をつけて食べる
のもよい」とあった。これからは山に入るときは味噌を持って行
かねばなるまい。

 タラノキはそのトゲトゲ棒から一名「オニノカナボウ」と呼ぶ
という。しかしその樹皮にはタンニンやコリン、マラリンなどの
薬成分が含まれており、乾燥したものを「タラノキ皮」といい、
煎じて糖尿、腎臓、胃腸病などのため服用するという。

 また、不確かながら、昔から胃ガンや胃かいようにも効きめが
あるといわれています。根の皮を胃腸病に、葉は煎じて健胃剤と
して応用されるとも聞きます。

 タラノキの材は赤味があり軽くて軟らかく、箱や盆、下駄、杓
子、マッチの軸などに使われます。岐阜県では、主人の行動にい
つも目を光らせている女房には、タラノメを食わせろという。

 各地にタラノメを食うとシカの角が落ちるという格言があり、
タラノメを女房に食わせ、はえた角を落とそうとの魂胆らしい。

 山形県では「タンタラタタキ」といい、セリとタラノメをたた
きながら「セリタラたたきのタラたたき」とはやしながら、1月
の七草粥に入れる風習があるという。

また対馬では1月に「ダラ正月」と呼ばれる日があって、タラノ
キを切って門松や神さまに供えたり、それを削って嫁の尻たたき
の祝い棒(コッパラボウ)を作るという。

 九州地方では、1月6日に一対のトゲだらけのタラノキの棒を、
門口に立てて鬼の侵入を防ぐ「タラタテ」の行事があるという。
そのほかこの木を使って鬼や厄神を追い払おうとする風習が各地
にあります。



・ウコギ科タラノキ属の落葉低木

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(13)チャイブ(セイヨウアサツキ)(春4月)

 北海道と東北に自生するエゾネギ。セイヨウアサツキ・チャイ
ブともいい、タマネギをずっと小さくしたような形の鱗茎から、
アサツキに似た細い葉を密生させます。その中空の葉と鱗茎を、
生のまま細かく刻んで、スープやシチュー、サラダ、オムレツな
どに利用します。ネギやタマネギよりも弱いマイルドな香り。

 原産はヨーロッパから、アジアにかけての寒冷地といわれてい
ます。セイヨウの名はつくが、日本でも古い昔から利用されてき
たもののひとつという。



 春から夏にかけて、紅紫色のきれいなネギ坊主を小さくしたよ
うな、花を咲かせます。主産地はイギリス。ちかごろは細かく刻
み、乾燥したものが市販されています。
・ネギ科ネギ属の多年草

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(14)ニラ(春4月)(春4月)

 「葷酒(くんしゅ)山門に入るを許さず」といいます。葷とは臭
気の強い野菜のこと。仏家では、ニンニク、ヒル、ニラ、ネギ、
ラッキョウを五葷といっています。

 これらの野菜は刺激が強いの「辣」、しかし食べるとおいしい
ので「美」をつけ美辣(みら)。ラッキョウをオオミラというのに
対し、ニラは小さいのでコミラと読んでいました。これがいつの
まにかなまり、ニラになったのです。

 ニラはパキスタンから日本まで分布しており、中国やインドで
は古〜い時代から栽培。日本にも自生しており、また栽培種は弥
生じだいに中国から伝わったものだといい説の分かれるところ。
あまり古代からの栽培でわからなくなってしまったのです。

 中国の「史記」の貨殖列伝に「千畝の韮畑を所有するものは、
みな収入において、千戸の領地をもつ諸侯と等しい」と出ている
ほどだから、当時はニラ様さまだったようです。



 日本の記録では「古事記」の久米歌に「臭韮一茎(もと)」に歌
われ、「日本書紀」、「万葉集」にも出ています。「新撰字鏡」
(892年)には「弥良(みら)」とあり、「本草和名」(918)、
「和名類聚抄」(923〜930)には「古美良(こみら)」と記さ
れ、これを食べると病を除く効があるとも書かれています。

 薬効については中国の「本草綱目」には「賢をおさめて精力を
盛んにし早漏をとめる」とあります。種子は韮子(きゅうし)と呼
び泌尿疾患に漢方薬として用います。

【効能】強精食品。血液の循環・古い血を排泄。消化促進、発汗、
解熱、消炎など。吐血・鼻血・下血・痔の出血・生理不順などに
はミキサーで生汁を飲みます。また打ち身やねんざには、ニラの
根をすりつぶして貼ると、痛みや出血を止めるという。
・ユリ科ネギ属の多年草

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(15)パセリ(春4月)

 パセリ、和名オランダセリ。パセリには葉が巻きちぢれた縮み
葉種と平たい葉の平葉種、ニンジンのように大きくなる根を利用
する根用種があります。根用種は北部ヨーロッパで発達、ニンジ
ン同様に利用するという。日本では縮み葉種の米国系パラマウン
ト、モス・カールやこれらをもとにした育成種がほとんど。

 原産は、ヨーロッパ中南部から北アフリカの砂れき地帯。ギリ
シアでは紀元前4〜前3世紀の記録があり、古くから栽培されて
いました。

 日本での記録は、江戸中期の「大和本草」(貝原益軒)に「オ
ランダゼリ」とあるのが最初。オランダ人がもたらしたという。
しかし広まるまでにはいたらず、明治後半、とんかつを考案した
銀座の「煉瓦亭(れんがてい)」の木田元次郎が、パセリを添え
てから大いに普及。

 日本で、主に飾りとして使われるのはこれが影響しているとい
う。種子をまいて2年目、花茎をのばし、黄緑色の小花を咲かせ、
夏に枝がのびて葉が堅くなります。



【効能】カロチンとビタミンCが圧倒的に多く、カロチンはホウ
レンソウの2.4倍、ビタミンCは3倍もあり、そのほか、ビタミ
ンB1,B2,カルシウム、鉄分なども多い。弱視・角膜潰瘍・
白内障・結膜炎・眼炎・瞳孔反射遅鈍に、生パセリ汁にニンジン
汁かセロリ、キクヂシャの混合汁を混ぜて飲用すると効果大。生
パセリ汁は、非常に濃く、単独で飲むと神経系の不調和を起こす
ことあり。ほかの野菜汁と混ぜると効果大。青汁療法の原料とし
ても珍重。
・セリ科オランダゼリ属の2年草

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(16)ロケットサラダ(ルッコラ)(春4月)

 野菜というやり野草といった方がピッタリのロケットサラダ。
南欧・地中海沿岸の原産で、寒さに強いアブラナ科の1年草。

 茎は高さ30〜50センチで、葉は、ちょっと二十日ダイコン
に似ていますが、切り込みが深く、ふつうのアブラナ科の作物と
ちがい、夏の8〜9月ごろから花が咲き始めます。



 花は十字花で、品種によっていろいろですが、わが国には白い
ものが多い。花が咲いておわると、黄色に変わるものもあります。
目立つ花ではありませんが、ミカンに似た甘い香りがするといい
ます。どの品種も花弁に紫色の脈があるのが特徴。エル−カとか、
キバナスズシロの名もあります。
・アブラナ科キバナノスズシロ属の1年草

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(17)ワラビ(春4月)

 ワラビを図鑑で調べます。A図鑑ではワラビ科、B図鑑ではウラ
ボソ科、C図鑑ではイノモトソウ科と出ています。これじゃ私のよ
うなシロウトにはなにが「ナンダ科」でさっぱりわかりません。そ
こで一番新しい図鑑にあるイノモトソウ科としておきました。

 ワラビはなぜワラビというか。ワラビの出る様子が、わらが燃え
るようにいっぺんにまとまるため、その火にたとえ、「わら火」と
したという説があります。

 また、ワラビのビはアケビのビと同じで、食べられる物としての
実(み)から転化したビとする説もあります。

 そしてまた、ワラビは茎が芽である、というので、昔は茎芽(か
らめ)といっていたといいます。そのカラメがいつかワラビになっ
たともいいます。いろいろ考えるものであります。

 普通ワラビといえば先の巻いた芽立ちをいいます。では葉の開い
たものは……???。やはりワラビですが、ホドロとかホダなどと
も呼ぶのだそうです。この茎は昔はたたみのかわりに家や山小屋な
どで敷物として利用したのだそうです。



 ワラビはビタミンB1を破壊する成分を含み、牧草としてはあま
り利用できず、もっぱら山菜用として栽培されています。食べ過ぎ
には注意。

 根からはでんぷんがとれ、これだワラビもちやダンゴを作ったり
します。全世界に分布しますが東南アジア以外では利用しないそう
です。

【効能】解熱作用。ワラビの根を焼いた灰を油で練ってつけると、
ヘビや虫の毒に効くという。
・イノモトソウ科ワラビ属の夏緑性シダ(コバノイシカグマ科に入
れる事典もある)

 第2章【春の野菜・果物】(4月)終わり