第13章 あとがき

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 私たち原稿の締め切りに追われる者にとって、カレンダーは必需品です。日ごろからこのカレンダーを見るたび不思議に思うことがありました。そこに書かれている「雨水」や「啓蟄」「清明」「穀雨」「立夏」などなど、どういう意味なのか、なぜそんなものがあるのかと気になっていました。

 一方、子を持つ親の悩みのタネの節々のお祝い儀礼。3月の節供のゴーカな雛壇。5月の節供の鎧かぶとに鯉のぼり、また七五三など財布からアシが出る行事ばかりです。こんな「くだらない」ものをつくり出したケシカラン奴は誰だろうなどとも思っていました。

 その後、縁あって富民協会発行の「農業富民」誌に「ふるさとの行事」と題し、画と文で昔から伝わる農村行事の紹介を連載しました。農家生まれの私にはこの農村行事は懐かしいことばかり。いろいろ調べていくうち、どんな「つまらない」ちっぽけな行事でも、ホントウはちゃんとした理由があり、それなりの意味があるのに驚きました。あのドンチャンさわぎの「花見」でさえ、「ドンチャン」になる前には神に対する大事な意味があることが分かりました。お祝い行事も大昔はほんの内輪で行う心のこもった祝い事だったそうです。

 たとえば正月のお年玉はもとは子どもたちに、正月遊びの道具ををあげるものだったし、雛まつりの雛も前身は草やわらでつくった人形(ひとがた)だったという。この人形を撫でて人についたけがれを移し、翌日海や川に流したといいます。それがいつのころからか、人の見栄や弱みにつけでゴーカ・高価なものをつくりはじめ、世の親たちをなげかせるようになったという。ひとつひとつ目からうろこです。

 そんなことから、正月とは?節分とは?七夕とは?盆おどりとは?月見とは?冬至とは?除夜の鐘とはなんだ?とエス方レート。あげくのはて、昔から伝わる行事に、いま流行の外国から入ってきた行事まで入れて、1冊にまとめられたら…などと不埒なことを考え出すしまつ。

 いざ本にまとまるように調べはじめてみると、ナントナント、あっちの本からこっちの本、そっちの協会へ電話し、すぐこっちの事務所へ取材に行く。図書館へ行っても1項目で1日終わることもありました。

 元来、漫画を描くのが商売の私、エライものに手を染めたかなと思うこともありましたが、こうして形になってみると、そんなことはどこへやら、今度ははこれも「くだらない」行事である?「人生儀礼」に挑戦してやろうかなどと思ったりします。

2006年6月     とよた 時


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本製品は、1984(昭和59)年、財団法人 富民協会(毎日新聞社)より出版された「イラスト家庭行事なんでも事典」に、追記、改訂したものをCD化したものです。

「あとがき」終わり

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