『新・山の神々いらすと紀行』
画と文・とよだ 時

第9章 近畿の山々

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■10:大峰山・洞川竜泉寺の前鬼後鬼

【略文】
大峰山の麓の洞川集落は、この修験道の聖地で信仰登山の基地。集
落内にある竜泉寺は、山上ヶ岳への入峰者は必ず竜泉寺で水行し、
八大竜王に道中安全を祈るならわしだったという。境内のお堂の前
には等身大の前鬼(ぜんき)・後鬼(ごき)の青銅像が前面をにら
んでいる。
・奈良県天川村

■10:大峰山・洞川竜泉寺の前鬼後鬼


【本文】

紀伊半島の大山脈・大峰山系(おおみねさん)といえば山岳宗教修

験道(しゅげんどう)の祖・役ノ行者(えんのぎょうじゃ)の修行

した山として知られています。



とくに山上ヶ岳(さんじょうがたけ・1719m)は全国の修験の根

本道場大峰山寺(おおみねさんじ)というお寺のある神聖なところ

です。いまでも熊よけの鈴を鳴らしながら回峰行に励む白装束の行

者の姿をよく見かけます。



その麓の奈良・天川村(てんかわむら)洞川(どろかわ)集落は、

この修験道の聖地で信仰登山の基地になっています。



集落内にある竜泉寺は、山号を大峰山といい、真言宗醍醐派(だい

ごは)の名刹。天武天皇(飛鳥時代)の勅願による役ノ行者の開基

といわれ、平安時代に空海や聖宝(しょうほう・理源大師)なども

修行した大峰山寺の護寺院です。



山上ヶ岳への入峰者は必ず洞川集落に一泊。竜泉寺で水行し、八大

竜王に道中安全を祈るならわしだったという。



竜泉寺境内の「竜の口」からは清水が湧き出し、お堂の前には等身

大の前鬼(ぜんき)・後鬼(ごき)の青銅像が前面をにらんでいま

す。



前鬼・後鬼とは、生駒山(いこまやま・大阪と奈良県境)で役ノ行

者の修行の邪魔をして捕えられて折伏(しゃくぶく)した2匹の鬼

たち。



以来、行者の忠実な従者になり、役ノ行者昇天(仙人となり空へ飛

びたつ・『水鏡』などの古書による)した後も、2鬼は天狗になっ

て「前鬼の里」=いまの奈良県下北山(しもきたやま)村の前鬼集

落)を守ります。遠く飛鳥時代のことでした。



こんな伝説のある聖地もいまは様がわり。私が訪れたときはバブル

の真っ最中。旅館やみやげ物店が並ぶ中に、スナックの看板も混ざ

り、東南アジアの女性も働いているとのこと。「これも時代だねえ」

2匹の鬼の会話が聞こえてきそうでした。



▼大峰山ろく洞川【データ】
【所在地】
・奈良県吉野郡天川村。近鉄吉野線下市口駅からバス1時間半で洞
川集落竜泉寺。すぐそばに村立資料館がある。
【位置】
・竜泉寺:北緯34度16分10.04秒、東経135度52分45.1秒
【地図】
・2万5千分の1地形図「中戸(和歌山)」or「洞川(和歌山)」(2
図葉名と重なる)



▼【参考文献】
・『日本山岳ルーツ大辞典』村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
・『角川日本地名大辞典29・奈良県』永島福太郎ほか編(角川書店)
1990年(平成2)
・『日本歴史地名大系30・奈良県の地名』(平凡社)1981年(昭和56)

 

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