『新・山の神々いらすと紀行』
画と文・とよだ 時

第8章 東海(富士山)・北陸の山々

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■04:富士山と背比べをしに海を渡ってきた山

【略文】
白山も富士山に背比べで負けてしまいました。それを聞いた外国の
山も黙っていられません。愛鷹山(富士山の南東にある)もわざわ
ざ中国から海を渡って背比べをしにやってきたという。しかし「富
士山と勝負だなんて生意気な山だ」と箱根の足柄明神に蹴飛ばされ、
頭の部分が崩れてしまったということです。

■04:富士山と背比べをしに海を渡ってきた山


【本文】

昔々、まだ日本中が国造りの途中で、あちこちに山ができたり湖が

できたりしているころの話です。富士山がどんどん大きくなってい

くのを見て、全国各地の山々は次々に背比べを挑んできました。そ

して競争に負けると富士山は相手を蹴飛ばして低くしてしまいまし

た。



そのなかでも一番有力視されていた白山も負けてしまいました。外

国の山も黙っていられなくなり、わざわざ海を渡って背比べをしに

やってきました。富士山のすぐ南東に愛鷹山(あしたかやま)とい

う山(連峰)があります。愛鷹山は昔は足高山とも書いたそうです。



柳田國男は「日本の伝説」の中でこの山について触れています。つ

まり、駿河の足高山は、大昔諸越(もろこし)という国から、富士

山と背競べをしに渡ってきた山だという。それを聞いた箱根の足柄

山の足柄明神が「富士山と勝負だなんて生意気な山だ」と怒って足

で蹴飛ばして崩してしまいました。そのかけらが海の中からだんだ

ん寄せ集まり、海岸に小高い陸地ができあがりました。それが浮島

が原だということです。



ず〜っと昔の道は、富士山と愛鷹山の中間にある峠、十里木越の峠

道を越えて、行き来をしていたのだといいます。いまも十里木街道

があり、富士サファリパーク近くに、愛鷹連峰最高峰の越前岳への

登山口があります。



一説に足柄明神に蹴飛ばされた愛鷹山の頭は、伊豆の南へ方へ飛ん

でいき海の中へドボン。海に落ちてそのまま島になりました。それ

がいまの伊豆大島だというのです。その時のうらみで、ずーっと頭

の上から煙を吐き怒っているのです。この山は富士山や箱根火山よ

りも古い火山で、実際に崩壊前は富士山よりも高峰であったと推定

される(『日本山名事典』)そうです。富士山よりも高い山が昔はあ

ったんですね。



愛鷹山は連峰になっていて、北から越前岳、呼子岳、位牌岳(いは

いだけ)、愛鷹山などの峰がつづいています。最高峰は越前岳(1504

m)。この連峰の代表名である愛鷹山は1188mと高さでは5番目。

この山には古くから愛鷹明神がまつられていて、その信仰の厚さは

諸国に届き、征夷大将軍たる源頼朝が自ら手みやげを持って参拝に

来るほどの山。そんなことからこの山がこの連峰の代表名になった

ようです。そういえば八ヶ岳も昔は富士山よりも高かったともいわ

れていますよね。



鎌倉幕府が編纂した歴史書の『吾妻鏡』(治承4年10月14、18日

の項)には波志太山(はしたやま)、鉢田山(はちたやま)と書か

れています。この「はした」、「はちた」の「は」が「あ」に転化さ

れて「あした山」になり、足高、足鷹、葦高、芦高などの字が当て

られたという。



江戸時代・天明3年(1783)の『駿河国志』や天明6年(1786)の

『駿州名勝志』、文久元年(1861)の中村高平『駿河志料』などに

は「足高山」と書かれたそうです。この足高が「あしたか」と読む

ようになり、さらに「あしたか(愛鷹)山」になったという。何と

も面倒なものですね。



ちなみに、足高山(愛鷹山)は、その足の字からか、箱根の足柄山、

富士山北麓の足和田山とともに、「富士の三足」とか「富士三脚」

とも呼ばれているそうです。日本二百名山。また鳥取県の孝霊山(751

m)は、韓国から背比べに海を渡ってきた山だという。ちなみにこ

こに生えるアシタカツツジは、日本のツツジ類の中では最も大きく、

高さが10m、幹のまわりが1m以上にもなるそうです。



▼愛鷹山(連峰)【データ】
【所在地】
・静岡県富士市、沼津市、裾野市、駿東郡長泉町の境。JR東海
道本線三島駅からバス、愛鷹山登山口停留所下車、さらに歩いて2
時間50粉で最高峰越前岳。二等三角点( 1504.23 m)がある。地
形図上には山名と三角点の記号とその標高がある
【位置】
・最高峰越前岳三角点:北緯 35度14分17.0067秒、東経 138度47
分38.4579秒
【地図】
・2万5千分1地形図名:愛鷹山(静岡1号-4)



▼【参考文献】
・岩波文庫『吾妻鏡』(巻1)龍(りょう)粛(すすむ)訳注(岩
波書店)1997年(平成9)
・『角川日本地名大辞典22・静岡県』竹内理三編(角川書店)1982
年(昭和57)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・「日本山岳ルーツ大辞典」村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・『日本伝奇伝説大事典』乾克己ほか編(角川書店)1990年(平成
2)
・『柳田國男全集25』柳田國男(ちくま文庫)1990年(平成2)

 

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