『新・山の神々いらすと紀行』
画と文・とよだ 時

第8章 東海(富士山)・北陸の山々

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■03:富士山・日本一高くなった理由

【略文】
美しく成長していく妹の富士山。醜くい姉の伊豆下田富士は妹を
きらい、その間に天城山という屏風を立てて隠れてしまった。心
配した富士山は姉の様子を見ようと背伸びをしてどんどん大きく
なっていきました。姉は隠れようとますます小さくなってしまい
ました。そんな姉たちを見て末娘の八丈島の八丈富士は胸をいた
めているという。

■03:士山・日本一高くなった理由


【本文】

2013年(平成25)6月22日、ユネスコの世界遺産委員会により、

世界文化遺産に登録された富士山。これをきっかけに相当の数の

登山者が予想され、入山者数の抑制や環境保全策として、ことし

の夏山シーズンは試験的に入山料をとるという。



富士山は山岳信仰の代表的な山。ここに登れない人のためには、

各地の神社やお寺に富士山の溶岩でつくったミニ富士山(富士塚)

もあります。富士塚は階段もちょうど10段(十合目)で頂上にな

るようになっていて、ここに登れば本当の富士山に登ったと同じ

ご利益があるといいます。



これは富士山を霊山として信仰する富士講の講中がつくったもの。

江戸時代には、江戸八百八講といわれるほど盛んで、幕府から何

度も禁止令が出されたといいます。



また日本全国にその地方自慢の「郷土富士」があり、北は北海道

の阿寒富士(あかんふじ・釧路市)から南は沖縄県の与那国富士

(よなぐにふじ・宇良部岳・与那国町)まで各県に分布していま

す。それほど日本人の心の山でもあります。なかには台湾富士(た

いわんふじ・玉山・台湾)まであるというから驚きです。



ところで静岡県下田市、伊豆急行伊豆下田駅の北西500mのところ

に標高191mという丘のような下田富士という山があります。こ

の山は富士山のお姉さんだという。昔々のその昔、まだ日本中が

国造りの途中で、あちこちに山ができたり湖ができたりしている

ころの話だそうです。



妹の駿河富士(富士山・木花開耶姫・このはなさくやひめ)と姉の

伊豆の下田富士(静岡県下田市・191m・磐長姫命・いわながひめ

のみこと)は高さも同じくらいで、仲のよい姉妹山だったといいま

す。姉妹はお互いに励まし合いかばい合っておりました。



お姉さんの下田富士は、妹の富士山の面倒をよくみてやっていまし

た。強風が吹けば雲の手を長くのばしてかばってやったり、雨が降

りそうになると駿河富士に「かさ雲」をかけてやったりいろいろと

世話をしてやっていました。富士山になびく細長い雲や「かさ雲」

はお姉さんのせいだったのですね。



しかし成長するにつれ、妹(駿河富士)は美しく、姉(下田富士)

は醜くくなっていきました。長いすそ野をひいた端正な形。ほんの

りと積もった雪で薄化粧をした山頂付近。朝日や夕日に照らされて、

頬を紅色に染めた妹の富士山の姿はそれはそれは気品がありまし

た。



姉は自分の姿とくらべて悲しみ、次第に妹を嫌いはじめました。下

田富士は、妹の姿が見えないようにふたつの山の間に、天城山とい

う屏風を立ててしまいました。姉の姿が急に見えなくなって妹の富

士山は驚きました。心配した妹は姉の様子をうかがおうと背伸びを

します。すると姉は身をかがめてますます小さくなっていきます。



妹は背伸びをしながらどんどん大きくなり、とうとういまのような

高さになってしまいました。日本一の高さになった富士山をみて、

あちこちの名山といわれる山々が、われもわれもと背比べをいどん

でくることになるのでした。



一説に駿河富士(木花咲邪比畔命)と下田富士(磐長姫命)と、

八丈島の八丈富士(佐伎多摩比畔命)は三人姉妹山だったという。

こうした二人の姉さんたちの様子を見て、八丈の末娘の富士は、胸

をいためているという(下田市の民話と伝説 第1集より)。



また類話として、姉妹が逆で駿河富士が姉さん富士で下田富士が妹

富士とする話もあります。駿河の富士(富士山)と下田の富士、八

丈島の富士は3姉妹でした。中の妹下田富士は美しい姿形をしてい

ました。醜かった駿河の富士は、ねたみ心をおこして、下田の富士

と顔を合わせないよう、天城山という屏風をつくってしまいました。



それ以来、この屏風があるため、奥伊豆ではどこからも富士山を見

ることができなくなってしまいました。末の妹の八丈富士は、ふた

りの姉の仲が悪いのに心を痛めているということです。(『日本の伝

説・伊豆の巻』)



▼富士山【データ】
【所在地】富士山頂
・山梨県富士吉田市、同県鳴沢村と静岡県富士宮市、富士市、御
殿場市・小山町との境だが八合目付近から上部は富士山本宮浅間
大社の「私有地」になっており、境界がはっきりしていない。
・富士急行河口湖駅からバス、河口湖口五合目から5時間30分で
富士山頂。山頂剣ヶ峰に電子基準点(3777.39m)と二等三角点(3
775.63m)、白山岳に二等三角点(3756.36m)がある。火口内に写
真測量による標高点(3535m・標石はない)がある。
【位置】(山頂剣ヶ峰に電子基準点と三角点、白山岳に三角点、火
口内に標高点がある)
・剣ヶ峰電子基準点:北緯35度21分38.78秒、東経138度43分
38.24秒
・剣ヶ峰三角点:北緯35度21分38.26秒、東経138度43分38.51

・白山岳三角点:北緯35度22分00.02秒、東経138度43分46.42

・火口内標高点:北緯35度21分46.51秒、東経138度43分53.22

【地図】
・旧2万5千分の1地形図:「富士山(甲府)」



▼【参考文献】
・『日本伝説大系7・中部』(長野・静岡・愛知・岐阜)岡部由文ほ
か(みずうみ書房)1982年(昭和57)
・『富士山・史話と伝説』遠藤秀男(名著出版)1988年(昭和63)
・『名山の日本史』高橋千劔破(ちはや)(河出書房新社)2004年
(平成16)

 

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