『新・山の神々いらすと紀行』
画と文・とよだ 時

第7章 南アルプスの山々

………………………………………………

■06:三伏峠口塩川小屋

・【略文】
諏訪神社の祭神が塩の井戸を発見したといわれる食塩鉱泉もある三
伏峠登山口。塩川小屋は風呂もあり、下山してきた登山者は前を流
れる塩川をながめながらくつろぐ。しかし最近は登りのきつい塩川
経由よりも楽な鳥倉林道から入る人が多くなりバスも不便になっ
た。
・長野県大鹿村

■06:三伏峠口塩川小屋


【本文】

南アルプスの三伏峠、塩見岳への登山口・大鹿村は、集落が小渋川

と鹿塩川が合流する落合地区を境に南の大河原集落と北の鹿塩集落

に分かれます。



そもそも大鹿村は1875(明治8)年、旧大河原村と旧鹿塩村が合

併して上の一文字ずつをとってできた村。その後どうしたわけか分

村しましたが1889(明治22)年ふたたび合併したそうです。



この村は『吾妻鏡』の文治二(1186)年三月十二日条に「大河原鹿

塩」と記されており、それほど古くからの地名だということです。

南北朝時代、南朝方後醍醐天皇の皇子宗良(むねなが)親王が、南

朝の勢力再興を願って大河原集落に在留したことが同親王の『李花

集』に出ています。



ここは宗良親王の終焉の地としても有力視されています。ところで

標高3047mの塩見岳の山名の由来にもこの村は関係しています。



その昔、諏訪神社の祭神・健御名方命(たけみなかたのみこと)が、

たまたまこの地を通りかかり、鹿がよく水を飲みにくるのをみて鹿

塩の渓谷・塩川で塩の井戸を発見したという伝説の塩湯の食塩鉱泉

もあります。



そういえば大鹿村には塩湯、鹿塩、塩原、おまけに大塩、小塩と塩

のつく地名だらけです。たしかに鹿塩集落を流れる鹿塩川、塩川で

は海の水に劣らない塩水が湧き出し、古くから利用され、1875(明

治8)年から1910年にかけて製塩が行われたという。



付近に塩湯の鹿塩鉱泉もあります。集落は典型的山村で集落や耕地

は河川沿岸や山の傾斜地に点在し、耕地は全域の1.5%。標高650

〜1100mということもあり、条件を生かした特産・野沢菜のほか

ホウレンソウ、小梅、標高に関係のないブルーベリーその他マイタ

ケ、シメジ、ハクサイなの栽培を推奨しています。



1961(昭和36)年の集中豪雨で家屋田畑が流失されましたが、1965

(昭和40)年水田も復旧し、バス道路わきに散在しています。伊

那大島からバスの最奥は塩川バス停。しかし奥沢井から先は運休中

のことが多い。



ある年の8月、塩見岳から三伏峠を通り塩川に下りてきました。塩

川小屋は風呂もあり、前を流れる塩川をながめながらくつろげると

ころ。心配していたとおりやはりバスは運休中。しかし人数が多く

いたせいか奥沢井バス停までマイクロバスで送ってくれるという。



ところで、山小屋の物かげで立ち小便をしているのをオヤジに見つ

かり、ドヤされているのをよくみかけます。風呂に入りマイクロバ

スに乗る前にトイレへと思い、小屋のおばさんにその場所を聞きま

した。



そこらへんでやるとまたうるさい。すると小屋のおばさんに逆にお

こられました。「山男が立ち小便できなくてどうするッ」一瞬、他

の人もポカン!



そうか、最近は立ち小便ができない男性もいるとき聞きます。しば

らくして大爆笑。有り難い。おかげで気持ちよくさせて貰いました。



こんな塩見小屋も、最近は三伏峠へ登りのきつい塩川経由よりも楽

な鳥倉林道から入る人が多くなり、今後は塩川小屋はさびれてしま

うかもしれません。



09年夏には伊那大島駅からのバスも鹿塩方面へは運休で、バスは

鳥倉登山口方面だけなので仕方なく鳥倉林道から三伏峠へ向かいま

した。鳥倉林道の駐車場はマイカーで満杯状態でした。



▼塩川小屋【データ】
【所在地】
・長野県下伊那郡大鹿村。JR飯田線伊那大島駅からバス2時間で
塩川小屋。(現在バス便なし)地形図に塩川小屋の文字の記載あり。
【位置】
・塩川小屋:北緯35度34分23.15秒、東経138度06分34.45秒
【地図】
・2万5千分の1地形図「信濃大河原(甲府)」



▼【参考】
・『吾妻鏡』:岩波文庫「吾妻鏡2」龍粛訳注(岩波書店)1997年
(平成9)
・『角川日本地名大辞典20・長野県』市川健夫ほか編(角川書店)
1990年(平成2)
・『信濃奇談』堀内元鎧(がい)?著:(『日本庶民生活史料集成16
・奇談奇聞』(鈴木棠三ほか編)編集委員代表・谷川健一(三一書
房)
・『信州百峠・改訂普及版』井出孫六・市川健夫監修(郷土出版社)
1995年(平成7)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)

 

………………………………………………………………………

目次へ戻る