『新・山の神々いらすと紀行』
画と文・とよだ 時

第5章 北アルプスの山々

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■22:蝶ヶ岳の蝶の雪形

【概略】
常念山脈の蝶ヶ岳はゆったりとくつろげる山。その名はチョウの雪
形が出ることからきている。雪形は山荘から南へ600mほどのとこ
ろで夏はお花畑が満開になるあたり。この蝶は約250mの大きさ。
チョウの胴体にあたる部分の雪が消えると昔は苗代の種まきをした
という。
・長野県松本市と安曇野市の境

■22:蝶ヶ岳の蝶の雪形


【本文】

北アルプスの常念山脈はなだらかで初心者向きの縦走路。なかでも

蝶ヶ岳はゆったりとしてくつろげる山です。山の名はチョウチョの

雪形が出ることからきています。



♪里にナタネの花咲くころは宙に浮きだす、宙に浮きだす、蝶ヶ岳

……。


安曇節にも歌われるように、雪がとけだす4月中旬から6月中旬に

かけて、安曇平の豊科町・穂高町あたりから見ると、蝶ヶ岳に羽板

をいっばいに広げるチョウの形の残雪が望めます。



雪形があらわれるのは、山荘より約600mほど南の山稜で、山頂付

近の二重山稜の舟底状のくぼ地にできる深い雪の吹きだまりが残る

のだという。



山麓の掘金村の人によれば、チョウの雪形の胴体にあたる部分の雪

が消えると「チョウが舞う」といって昔は、苗代の種まきをはじめ

たという。



チョウの胴体にあたる部分は、中央部のハイマツに覆われた隆起し

たところで、まわりより早く雪が解け、「チョウが舞う」状態にな

るのでしょう。



『山の紋章・雪形』(学研)を著した田淵行男はこの中で、雪形の

大きさは250mくらい。形や模様がガの一種で美しい淡い青色をし

ている「オオミズアオ」に似ているという。



しかしチョウはいいけど、ガは嫌だという人が多いため、次に似て

いる高山チョウのなかのミヤマモンキチョウというものになぞらえ

ています。



蝶ヶ岳の名は、江戸中期の正保の国絵図にすでに載っていて、『南

安曇郡誌』下巻によれば、山の名や蝶ヶ岳の文字も変わっていない

ないという。大昔からこの雪形は有名だったのかも知れません。



縦走路はその中を横切っています。ついでながらチョウの残雪が消

えたあとはこの山脈のなかでもみごとなお花畑になって、本物の高

山チョウが乱舞する場所になります。



チョウの胴体にあたる部分の雪が消えると昔は苗代の種まきをした

という。



7月末、ゴツゴツとした岩ばかりの穂高連峰と比べ、蝶ヶ岳はやさ

しいことか。なんともゆったりのんびりムードです。北穂高岳、槍

ヶ岳に向けて、山小屋の荷物を運ぶヘリコプターが忙しい。



蝶ヶ岳の平らな岩の上に寝転がり、リラックスしたあと下山します。

チョウの雪形が出るのはこのあたりか。デッカイ蝶に乗る夢を見る

……。



▼蝶ヶ岳【データ】
【所在地】
・長野県松本市安曇と長野県安曇野市との境。大糸線豊科駅の西16
キロ。JR大糸線穂高駅からタクシー三ツ股下車、さらに歩いて5
時間で蝶ヶ岳。写真測量による標高点(2677m・標石はない)が
ある。
【位置】
・標高点:北緯36度17分14.67秒、東経137度43分33.87秒
【地図】
・2万5千分の1地形図「穂高岳(高山)」



▼【参考文献】
・『信州山岳百科・1』(信濃毎日新聞社編)1983年(昭和58)
・『山の紋章・雪形』田淵行男著(学習研究社)1981年(昭和56)

 

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