『新・山の神々いらすと紀行』
画と文・とよだ 時

第2章 東北の山々

………………………………………………

■02:岩手山と早池峰、姫神、送仙山

【略文】
姫神山をめぐり岩手山と早池峰山は仲が悪いという。2つの山が同
時に晴れることはなく、早池峰山と姫神山が晴れれば岩手山が怒っ
てくもり、岩手山と姫神山が晴れれば早池峰山が怒り曇ってしまう。
岩手山と早池峰山の喧嘩を見て神々が心配、2つの間に大きな川を
投げ入れた。それがいまの北上川だという。

■02:岩手山と早池峰、姫神、送仙山


【本文】

 岩手富士ととも呼ばれる岩手山(いわてさん)は標高2048m。雄大な

その姿は男性的で、東北南部のシンボルです。その真東、いわて銀河鉄

道好摩駅近くに姫神山(ひめかみさん・1124m)があります。この山はな

だらかな所がありなんとなく女性的な山。



 そして北側岩手川口駅付近には、地元ではオクリセンと呼ぶ、山頂が

平らな送仙山(おくりせんざん・482m)があります。さらに東南には、早

池峰山(はやちねさん・1914m)もあります。この岩手山、姫神山、早池

峰山の三山は仲が悪いといいます。それにはこんないきさつがあるので

す。



 その昔、岩手山はこの地方の独裁者だったという。岩手山と姫神山と

は夫婦でした。しかし妻の姫神山はあまり美しくありませんでした。それに

不満を持ちはじめた岩手山は、次第に遙かにそびえる女神・早池峰山に

思いを寄せるようになりました。



 ついに岩手山は妻の姫神山を追い出そうと考えました。家来のオクリ

セン(送仙山)に「姫神山をワシの目の届かないところに連れて行け」と言

いつけました。さらに「首尾よく使命を果たさない時はお前の首はないも

のと思え」ともつけ加えました。



 無理な命令にもオクリセンは、相手が岩手山では断ることもできませ

ん。泣く泣く妻はつれられて出て行くのでした。姫(姫神山)は永年すん

だこの土地へのせめてもの形見として、糸を玉のように巻いた「巻子(え

そ)」というものを置いていきました。



 「巻子」は付近にみるみる森となって散らばっていきました。それが送

仙山近く花輪線大更駅そばに散在する「五百森」(いおもり)と呼ばれる

青草でおおわれた丘なのだという。次に姫神山が自分が使っていた、お

歯黒の鉄漿(かね・鉄くずを焼いて濃い茶に浸し、酒などを加えて発酵さ

せた液)を川に投げ込みました。



 川の水は赤く染まりました。その川を赤川といい、そこにある小石はい

まも赤いという。こんな姫神山にオクリセンは不憫でなりません。グズグズ

しているうち、とうとう夜が明けてしまいました。



 岩手山が目をさましてみるとナント、姫神山が何事もなかったようにそ

びえているではありませんか。そればかりか朝日の光を全身に受けて、

真っ正面に突っ立っています。



 怒り心頭に達した岩手山は、「ゴーッ」とばかり、一気に火を噴き、暴れ

回れました。岩手山からの火は、獣や鳥、草や樹などあらゆるものを焼き

つくし、その悲鳴に山も谷もどよめきました。



 そしていったとおり、腰の剣を抜き、オクリセンの首をはねてしまったの

です。いま、オクリセンの頭が切りとられたように平らな形で、赤い小石が

散らばっているのはそのせいだという。



 それからしばらく、岩手山は火を噴きながら、あたりをにらみつけていま

したが、気がつくとあたりは夕方になっています。見ると鳥も獣ももういま

せん。自分吹いた猛烈な火でみんな焼き尽くしてしまったのです。暗い

なかで、焼けただれた岩だけがパチパチと火花を飛ばし、赤く燃えている

だけだったのです。



 岩手山は急にさみしくなり、残酷なことをしてしまったことを悔いました。

そしてせめてオクリセンの首を自分のそばにと手を伸ばし、肩の所に置

いたのです。それが岩手山の肩にあるこぶだという。こんな時があってか

ら岩手山は急に優しくなり、姫神山との仲を元通りに収めて、いまも一緒

に暮らしているのだそうです。



 これとは別に、早池峰山が男山だという話もあります。岩手山と姫神山

は仲のいい夫婦でした。それを見てヤキモチを焼いた男山の早池峰山

は、ついに横恋慕を起こします。早池峰山はなんだかんだと姫神山をだ

まして、とうとう自分のものにしてしまいました。だから早池峰山と岩手山

は仲が悪く、いつも姫神山を争ってケンカをしているという。



 いまも夏など決してこの3つの山が同時に晴れるということはなく、早池

峰山と姫神山が晴れれば岩手山が怒ってくもり、岩手山と姫神山が晴れ

れば早池峰山が怒りくもってしまうそうです(「日本伝説集」)。



 こんな類話もあります。早池峰山と岩手山が毎日喧嘩するのを見て神

々が心配し、この2つの山の間に大きな川を投げ入れて2山を分けてしま

いました。その川がいまの北上川だそうです(「東奥異聞」)。なんとも人

間くさい山の神さま、面白い話ですね。



▼岩手山【データ】
【所在地】
・岩手県岩手郡雫石町と同県八幡平市旧松尾村各地区名(旧岩手
郡松尾村)・同県八幡平市旧西根町各地区名(旧岩手郡西根町)・
同県岩手郡滝沢村との境。いわて銀河鉄道滝沢駅の北西12キロ。
JR東北新幹線盛岡からバス、柳沢から歩いて5時間半で岩手山。

・外輪山火口壁薬師岳に一等三角点(2038.2m)がある。外輪山
南東側に岩手山神社の奧宮がある。地形図に岩手山名と三角点の
標高と奥宮の場所に神社の鳥居記号の記載あり。

【名山】
・深田久弥選定「日本百名山」(第13番):日本二百名山、日本三
百名山にも含まれる。
・岩崎元郎選定「新日本百名山」(第13 番・岩手県)

【ご利益】
・【ご利益】国土経営・稲作・田の神のお札

【位置】
・一等三角点:北緯39度51分09.39秒、東経141度00分03.6秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「大更(盛岡)」or「松川温泉(秋田)」(2
図葉名と重なる)

▼【参考文献】
・「日本山名事典」徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・『日本伝説大系2・中奥羽編』(岩手・秋田・宮城)野村純一編(み
ずうみ書房)1985年(昭和60)
・『日本の民話2・自然の精霊』松谷みよ子ほか(角川書店)1974
年(昭和49)
・「名山の日本史」高橋千劔破(河出書房新社)2004年(平成16)

 

………………………………………………………………………

目次へ戻る